第20話 文化祭は何をする?
ゲーセンに移動中、先程西蓮寺さん言った「来週からテスト期間」を思い出した。風見高校は再来週からテスト期間に入るのだけれど、高崎高校はこれより一週間早い。その事が気になったので聞いてみることにした。
「そう言えば、来週からテスト期間に入るって言ってたけど、テストってそんなに早いの?」
「うん。うちは十月の第三週の週末に文化祭があるんだけど、その準備期間があるから他の高校より少し早いみたい」
今は九月の第三週。となると、後ひと月程で高崎高校の文化祭を迎えることになる。
確か土日の二日間開催されて、土曜日が高崎の生徒と先生だけが参加出来て、日曜日は一般の人達も入れたはずだ。ちなみに風見高校も同じだ。
中学の文化祭の準備もそこそこ忙しかったけど、高校の文化祭となるとやっぱり忙しさは中学の比じゃないのだろうか?
「やっぱり準備は大変なのかな?」
「わからないけど、一年生はそれほどじゃないと思う。私は文化祭初日の土曜日に披露する合唱部の練習と、クラスの出し物の準備くらいだから」
「そっか。文化祭が近くなると遅くまで残って準備したりするのかな?」
「それもまだわからないけど、もしそうなったら中筋君と一緒に帰れないかもしれないね」
西蓮寺さんが眉を下げて悲しい表情になる。西蓮寺さんと一緒に帰れなくなることは俺も少し心配していたのだけれど、まさか西蓮寺さんもその事を悲しんでくれてるのか?そう思うと俺の心臓は鼓動を早める。
「俺も文化祭の準備があれば、もし時間が合ったら帰れたかもしれないけど……」
風見高校の一年生は、部活や委員会に入っていないと準備する事がほぼないのだ。その事に疑問を持ったのか、西蓮寺さんが首を傾げながら聞いてきた。
「風見高校の一年生は準備しなくていいの?」
「実は風見高校の一年生の教室は展示物や休憩所に使われるから、机と椅子の移動だけで良いんだよ」
なので俺も合唱部の練習以外は特にすることはないのだ。
クラスで出し物がないのは文化祭として若干物足りなさは感じるのだけど、そこは来年の楽しみに取っておいて、今年は合唱部で文化祭当日に披露する為練習を頑張り、上級生や各部活の出し物を堪能しようと思った。
高崎高校の一年生はどうなんだろうと思い、俺は西蓮寺さんに質問をした。
「高崎高校の一年生は出し物はあるの?」
「うん。うちは一年生も出し物やるよ」
やっぱり出し物あるのか。少しだけ良いなと思いながら、俺は西蓮寺さんにクラスで何をやるのかを聞いた。
「西蓮寺さんのクラスは何やるか決まったの?」
「うん。先週のホームルームで決まったよ」
「決めるの早いね」
「テスト終わってからだと決めるのに時間かけれなくなるからって早めに決めるみたい」
「それで、西蓮寺さんのクラスは何をやるの?」
気になっている質問を再度聞いてみる。
「和風喫茶だよ」
「和風喫茶?」
西蓮寺さんがにっこりと微笑んで答えてくれる。その表情を見てドキッとしながら、俺は西蓮寺さんの言葉を繰り返す。
「うん。教室の内装を和風にして、ホールに出る生徒は和服を着て接客するの」
聞いているだけで落ち着いた雰囲気が想像出来る。凄く興味を引かれる。
「面白そうだね。ちなみに西蓮寺さんは料理とホール、どっちの担当?」
「私はホールだよ」
「もしかして、西蓮寺さんも和服姿になったりする?」
「う、うん」
西蓮寺さんの和装した姿をこの目で見ることが出来ると思い、俺のテンションは急上昇するが、表に出さないように何とか心を落ち着かせる。
「西蓮寺さんの和装……絶対繁盛するだろうな」
「ふぇ!?な、何で?」
「西蓮寺さん見たさに客が殺到しそうだなと思った。主に男の」
「わ、私を見ても面白くなんかないよ」
「そんな事はないよ。少なくとも俺は物凄く見たいと思ってる!」
「へっ!?」
「あっ」
しまった。西蓮寺さんの和装を想像してつい力が入ってしまい本音を漏らしてしまった。多分引かれるだろうし、もしここに宮原さんがいたら「綾奈をいやらしい目で見るな」とか言ってぶっ飛ばされそうだ。初めて一緒に下校して、書店に向かっていた時と同じ失敗をしてしまうなんて、学習能力皆無か俺は。
「……中筋君、私の和装した姿、見たいの?」
西蓮寺さんのリアクションはあの時と同じで、上目遣いでおずおずと聞いてきた。その仕草もたまらなく可愛い。
「うん。めっちゃ見たい……です」
俺は顔が熱くなるのを感じながら、逸らしそうになる目を何とか西蓮寺さんに向けたまま、正直に気持ちを口にした。
「そっか。……なら、ちょっと頑張ってみようかな」
「え?」
後半部分が小声で、電車の音にかき消されて聞こえなかった。
「な、何でもないよ。ただ、今日も助けてもらったし、お礼もしたいから、中筋君が来てくれたらちょっと気合いを入れて接客しようかなって思ったの」
早口で捲し立てる西蓮寺さん。あまり見ない姿に内心首を傾げながら、それでも嬉しいことを言ってくれてまた顔が熱くなる。
「えっと、俺、行ってもいいの?」
「当たり前だよ。むしろ、来て欲しい」
「っ!」
上目遣いでこんなお願いをされて断れる男がいるのだろうか?否、そんな男は存在しない。そんなレベルで破壊力抜群なお願いをされて、俺の返答はひとつしか無かった。
「わかった。当日楽しみにしてるね」
「私も」
そう言って俺達は向かい合って笑い合った。
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