第13話 綾奈が手にしていた本は……

「西蓮寺さんは今日、何買うの?」

 目的の書店に到着して、俺は西蓮寺さんに購入する物を聞いてみた。

「今日は参考書と、欲しかった漫画があったからそれも探してみようかと思ってるよ」

 さすが当時から学年一位をキープしていた西蓮寺さん。俺は参考書なんて買った事ないし、言葉に出した事もあるかどうか疑わしいレベルだ。

 俺達は一旦別れて、それぞれの目当ての本がないか探し始めた。

 俺が最初に向かったのはラノベコーナーだ。昨日、健太郎と一緒に買おうとしたラノベを探すためだ。

「お、あったあった」

 少し探した後、無事に見つけたのでそれを手に取る。他にも面白そうなラノベ数冊を手に、俺はマンガコーナーへ移動した。

 マンガコーナーで暫く陳列されている本を見ていたら、しばらくして西蓮寺さんもやってきた。

 西蓮寺さんは購入する本を両手で支えていて、何となくそれを見ていると、ある事に気がついた。

「あれ?西蓮寺さん、それ……」

 西蓮寺さんは参考書の他に文庫本を持っていたのだが、紛れもなくそれはライトノベルだった。

「へっ?!あ、あぁ、実は、私もライトノベル読んでるの」

 西蓮寺さんがラノベを読むイメージが全くなかったので、俺は驚きを隠せないでいた。と言うより、西蓮寺さんが持っているラノベは男性層をターゲットにした物で、さらにそれは……。

「それ、俺も買おうとしてるやつ」

 そう、俺が欲しかったタイトルの新巻。それと全く同じ物を持っていたのだ。

「西蓮寺さんもそれ読んでたんだ!?」

 それを見た俺はテンションが上がり、西蓮寺さんに少しだけ詰め寄った。

「そ、そうなの。実は、友達に勧められて読んでみて面白かったから、それで集めるようになって……」

「そうなんだ。西蓮寺さんがライトノベルを読むってイメージがなかったから意外かも。その作品、俺も好きだから、西蓮寺さんも気に入っくれてるの、嬉しいよ」

 俺は嬉しくて、西蓮寺さんに話しかける口調も自然に優しくなり、目を細めていた。

「っ!う、うん……」

 すると、西蓮寺さんはバッと勢いよく身体ごと俺の後ろに向けてしまった。普段こんな喋り方も表情もしないから、いざやってしまったらキモがられたのかな?と、内心で消沈する。

 それから数秒して、西蓮寺さんが陳列されている漫画へ視線を向ける。気のせいか、少しだけ頬が朱に染まっている。

 お目当ての漫画が見つかったのか、西蓮寺さんは一冊の少女漫画を手に取った。

「探してた漫画はそれだったんだね?どんな内容なの?」

 普段全くと言っていいほど、少女漫画を読まない俺だったが、西蓮寺さんが読んでいると言うので気になり、何となく聞いてみた。

「ふ、普通の恋愛漫画だよ!普通の」

 何か、普通を強調するような口ぶりなのが気になったが、多分面白いんだろうなとは思った。

「そうなんだ。ちょっと俺も読んでみようかな?」

「えっ!?」

 凄くびっくりされたんですけど。

 え、普段読まないとはいえ、男が少女漫画読むのそんなに変かな?

「た、多分中筋君が見てもあまり面白くないと思うよ」

「そうなの?西蓮寺さんが読んでるものだからちょっと興味湧いたんだけど……」

「うん!本当に、何の変哲もない恋愛漫画だから!」

 自分の読んでる漫画を俺に勧めたくないのか、めっちゃネガキャンしてくる西蓮寺さん。

「そっか。俺もこの漫画読んだら、こっちのラノベみたいに感想言い合って、会話も膨らむなって思ったんだけど、買わないでおくよ」

 これ以上食い下がったら、西蓮寺さんの機嫌を損なう可能性もあったので、折れることにした。

 そこからしばらく店内を見て回って、俺はラノベ数冊、西蓮寺さんは参考書と俺と同じラノベ、そしてさっき手に取った少女漫画を購入して、店を後にした。


 中筋君と書店に来た。

 移動中もドキドキしたけど、店内に入ってからそれ以上にドキドキする事が何度か起こった。

 最初は中筋君と一緒のライトノベルを手に持っているのを彼に見られた時。

 咄嗟に「友達に勧められて」と答えたけど、実はこの作品は、中筋君が中学時代から読んでいるタイトルで、中筋君が山根君と話している時に、このライトノベルがめっちゃ面白いと山根君にお勧めしていた。

 山根君は興味がないのか、中筋君の力説を話半分で聞き流していた。

 その時にこの本のタイトルが聞こえて、忘れない様にスマホのメモアプリにタイトルを入力して、その日の放課後、ちぃちゃんと一緒に書店に行き、このタイトルの一巻を買っていた。

 表紙を見ると、凄く可愛い女の子がいて、スタイルも凄く良くて、む、胸もちぃちゃんと同じかそれ以上あるのでは?と思うくらい大きかった。

 その表紙を見て、「中筋君は胸の大きな女の子が好きなのかな?」と、少し落ち込んだ。

 確かに胸の大きさではちぃちゃんには遠く及ばない。でも、決して小さすぎる訳では無い。

 ……胸の話はさておき、そのライトノベルを読んでみると、とても面白くて、読了した次の日にはまた書店に行って、当時の最新巻まで一気に買った。

 私がそのライトノベルの最新巻を手にしているのを見た中筋君の目は輝いていた。

 本当にこのタイトルが好きなのが伝わってきた。

 その後に私に向けられた優しい口調と表情で、私の心臓は大きく跳ね、頬も一瞬で上気したのがわかった。

 そんな表情を彼に見られるのは恥ずかしかったので、すぐに彼から顔を逸らした。うぅ……、あの声と表情はずるいよ。

 そこから少しして、私は参考書とライトノベルの他に、欲しかった漫画を見つけてそれを手にしたのだけれど、中筋君は私が手にしたその漫画がどんな内容なのかと聞いてきた。

 その漫画は確かに恋愛漫画だ。だけど私は、この漫画の内容が、私にとっては決して普通ではない内容だったので、ついはぐらかしてしまった。

 この漫画の内容は、主人公の女子高生が、印象最悪な同じクラスの男子生徒の意外な一面を偶然目撃して、その事がきっかけで徐々にその男子生徒の事が好きになっていく……と言う内容だった。

 私が中筋君に恋をした理由がそのままこの漫画の内容になっていた。私の場合は、印象最悪ではなかったけれど。

 内容を話しても恐らくその事はバレたりしないと思うけど、好きな人本人に私が彼の事を好きになった理由そのままの漫画を読まれるのが恥ずかしくてついはぐらかしてしまった。

 中筋君はあまり深くは聞いてこなくて安心したけど、その後の言葉を聞いて、「惜しいことをしたかも」と、思ってしまった。

 いつか、私の気持ちを伝えて、いい返事を貰えたら、中筋君にこの本を貸してあげようかな?そして、恥ずかしいけど、この漫画の感想を聞けたらいいな。

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