【2年生編6月5日スタート】中学時代、学校一の美少女に恋した俺。別々の高校に進学した好きな人本人から、ボディーガードとして一緒に下校してほしいとお願いされた

水河 悠 (みずかわ ゆう)

第1章 再会とボディーガード

第1話 プロローグ

 俺、中筋なかすじ真人まさとは中学三年で初恋を経験する。

 相手は所謂いわゆる学校一の美少女と言われる女子。

彼女の名前は西蓮寺さいれんじ綾奈あやな

 整った顔立ち、スタイルも良く、美しい黒髪で髪型は肩に掛かるか掛からないかのボブが印象的で身長百五十五センチと少し小柄。生徒会副会長も務めていた。

 きっかけは些細な事だった。

 当時同じクラスだった彼女を俺はたまに遠目から見ている男子の一人だった。

 隠キャでオタク、そのうえ肥満体型の俺は、彼女に話しかける勇気がなかったが、その中学では各教科事に係りが存在し、俺が係りをしている教科の提出物をクラスメイトの机に置いていて、西蓮寺さんのノートを彼女の机に置いたその時、親友のギャルと談笑していたのを中断し、こちらに顔だけじゃなく体を向け、俺の顔をまっすぐ見て、「ありがとう」と、お礼を言ってきたのだ。 

わかっていた……わかっていたはずだったけど、そのあまりに可愛い微笑みを見た俺の心臓は大きく跳ね、恋に落ちた。

 可愛いだけでなく気さくで明るく、誰とでも分け隔てなく接する姿に学年、性別問わず人気があるパーフェクトヒロインだ。

 合唱部に所属していてその美しい歌声でエースとして部を引っ張っている。

 俺が通っていた中学の合唱部は女子しかおらず、混声のコンクールに出場する時は音楽教諭が授業で歌が上手い男子生徒を臨時部員としてスカウトして、コンクールが近くなったらその生徒も練習に参加する形になっていた。

 自慢になってしまうが俺もそんな臨時合唱部員で、練習中に西蓮寺さんの歌声に耳を傾け聞き惚れていた。

 接点といえばそれくらいで、特に会話をする間柄ではなかったが、合唱練習と提出物返却の時はいつも楽しみで仕方なかった。

 二学期も終わりに差し迫ってきた一二月、生徒会役員が全校集会で人権問題を題材にした劇をしていた時、クライマックスでヒロイン役をしていた西蓮寺さんが主人公役の生徒会長に告白するシーンがあったのだが、その告白のシーンを見た時、俺の胸は今まで感じた事がない強い痛みが走った。

ちなみに生徒会長は、夏までバスケ部のキャプテンも務めていて、身長百八十センチ越えの長身で細マッチョなイケメンな為、女子人気が凄かった。実は性格に難ありだが、女子の大半と男子の一部の生徒はその事を知らない。

 「たかが演技で」と思う人もいるかもしれないが、今まで恋など大して興味もなく経験すらしてこなかった俺からすれば、演技か本気かなんて関係なかった。

 目の前で他の男に告白する西蓮寺さんを目の当たりにしてただただショックを受けた。

 西蓮寺さんは学校一の美少女。とにかくモテるし告白も何回もされたという噂を聞いたことがある。

 その告白を全て断っているということも聞いていて、彼女には既に心に決めた人がいるだの、許嫁がいるだの、そもそも恋愛には興味がないだの……大小様々な噂が飛び交っている。

 噂が気にならないと言えば嘘になるが、とにかくこのまま何もしなければ振り向いてもらえないどころか、お近づきにすらなれない……。

 焦りを感じた俺は、冬休みに入ってからまずダイエットを始めた。

 身長が百七十五センチと高い方ではあったが、体重も九十キロあり縦だけでなく横にも大きかった。

 こんな体型ではたとえ西蓮寺さんとお近づきになれたとしても恋愛対象としては見てくれないと思い、一念発起した。

 しかし当時の俺は中三、受験生である。当然受験勉強をしなければならないのでダイエットに費やす時間も十分に取れなかった。

 三学期になり、いつものように提出物をクラスメイトの机に置いている時、西蓮寺さんとその親友のギャル、宮原みやばら千佳ちかさんの会話が俺の耳に入る。

 「はぁー、もうすぐ受験かぁ…やれるだけの事はやってきたつもりだから大丈夫と思うけどめっちゃ不安」

 「大丈夫だよ。ちぃちゃんこの一年凄く勉強頑張ってきたもん!」

 「そりゃあ綾奈先生にめっちゃ勉強見てもらったし、テストのたびにどんどん成績がよくなるあたしをびっくりした目で見る先生の顔も面白かったし」

 宮原さんはそう言い笑っている。

 宮原さんは背中まで伸ばした色素の薄いオレンジの髪を高い位置でポニーテールにしていて、百七十センチ近い高身長でスタイルももの凄く良く、中学生離れした大きくたわわに実った二つの果実とすらりと伸びた長い脚が目を引く、西蓮寺さんとはタイプの異なる美少女だ。

 見た目ギャルだしテストの成績も二年までは下から数えた方が圧倒的に早かったはず、三年生になり受験が迫った事で焦りを感じ西蓮寺さんに教えてもらったんだろう。

 ちなみに俺の成績は当時の宮原さんよりもちょっと上くらいだ。

 「綾奈と一緒に高崎高校に入学する為必死だったよー」

 高崎高校はここから二駅ほど離れた有名進学校で偏差値もかなり高く、おまけに部活にもかなり力を入れている文武両道の学校としても有名だ。

 一方俺の受験する高校はそこまで偏差値の高くない風見高校。ここから三駅離れている。

 二人の会話は聞いてませんよ……みたいな平然とした顔で二人のノートをそれぞれの席に置くといつもの様に西蓮寺さんからの笑顔と「ありがとう」をいただく俺。

 高校が別になる悲しさを感じつつ、笑顔とお礼に内心でガッツポーズをし、他のクラスメイトのノートを格机に置きつつ自分の席に着いた。

 すると宮原さんがチラチラとこちらを見ているのが横目で見えた。

 二人の席からは離れていたため、会話は聞き取れなかったがかろうじて宮原さんが「いいの?」と言ったのは聞こえた。

 まさか、俺が西蓮寺さんの笑顔と「ありがとう」の為にわざと西蓮寺さんのノートだけ彼女が席を離れていないのを見計らって持っていっているのを見抜いていて、キモいからヤキを入れようとしているのか!?

 陽キャのギャル怖いわーなんて思い内心ビビっていたけど向こうからアクションを起こす事はなかった。

 俺の楽しみが奪われず安堵した。

 その後、それ以上の接点が生まれる事はなく受験は合格。

 西蓮寺さんは勿論、努力の甲斐あって宮原さんも高崎高校に合格。

 中学卒業式、この日までに体重を十キロほど落とした俺はこの学校と別の学校に進学する仲の良かった友人達との別れを惜しみながら式は滞りなく終了。

 結局最後まで西蓮寺さんとはお近づきになれないまま卒業してしまい、これで西蓮寺さんと顔を合わせる機会はほぼなくなる事を心の中で嘆きながら俺はこの初恋を自分の心の中にしまい込んで式に参加していた母親の運転する車に乗って自宅に帰っていった。


 この数ヶ月後、終わったと思っていた俺の初恋が再び動き出す事になるなんて、この時の俺は想像すらしていなかった……。

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