遺言

@arup

第1話

「最後に大切なことを伝える。いいね?」


彼は客車の入口から身を乗り出して言った。

「君は君が目指すものを決めることと、それを目指すことで十分なんだ。特に目指すものは見極めなくてはいけないよ。難しすぎたら君は参ってしまうんだ。だけど君は何もできないわけではない。出来たらいいと思うことの一つだけでいい。それを目指せばいい」

彼は初めて僕を見てくれた人だった。


「僕は君に何も出来やしなかった。それなのに君はなんでそんなに良いやつなんだ!!」

肩がワナワナと震える。こんなことは小さいときに隣の子とケンカしたとき以外なかった。しかし大きな機関車の汽笛が僕らを責め立てる。


「君があまりにも僕だったからだ。人なんて似たような他人だと思っていたんだ。だけど君は違った。僕は僕のためにするように君にしたいと思った。」

彼はそう言うと僕を釘付けにしていた真っ黒な目を背けた。

「じゃあな」

彼は奥へ行ってしまった。


それ以来彼には会ってない。

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