昨日の雨と明日の夕焼け
Abyss-アビス-
第1話
「おーい、マナミ部活いこーぜ。大会だって近いんだからさ」
俺の名前は渚マナミ。男なのにマナミなんて付けた親にいくらか恨みはあるが名前を呼ばれる度にムカついていたらきりがないから今はもう何とも思わない。もっとかっこいい名前は絶対あったとはいつも思うけどな。
「ああ、わかってる今行くから先行っててくれよ」
マナミはこの県立青葉西高校に通う高校三年生である。陸上競技部に所属していて110mハードルの選手である。今日も部活が面倒でさぼろうかと屋上にいるところを啓介に見つかった。啓介は小学校からの同級生で目立ちたがり屋だ。昔テレビでやっていた世界陸上でどの種目よりも高いバーを飛び越える棒高跳びの選手を一目見て一番目立つのはこれだと確信して陸上競技部に入部し今に至る。まあ、口だけではなく啓介はしっかりと結果を残している。去年は二年生ながらインターハイに出場して決勝まで進んだが入賞は惜しくも叶わなかった。今年こそ表彰台に上ると意気込んでいる。こっちとしてはそんな熱量で来られたら疲れてしまうから困ったもんだ。でも啓介の明るさはみんなを笑顔にする。俺も何度か助けられた……。
「めんどくさいけど行くかな。引退もそろそろだし行くだけ行くかなー」
立ち上がって屋上の扉に向かうとそこに人影が見えた。
「ギィ……。」
「またこんなところにいたのか。君はなんだね、何回注意してもルールを破るのかね。そろそろ厳しい指導が必要に見えるが?」
まったく不運だ。屋上にいるところを生徒指導の先生に見つかるなんて。うちの高校では屋上に入ることは禁止されている。過去に何度も校則を破ってきたため教師の中では目をつけられているのだろう。
「髪の毛だって茶色のままで。君は教師をなめとるのか!」
また始まった。何回地毛だといっても話を聞こうともしないこいつらの説教なんてクソくらえだ。だがここでただペコペコするだけの俺ではない。
「先生こそそのヅラ外して本来の髪の毛に戻さないとよくないんじゃないすか?てか髪の毛ないからヅラ被ってんのか」
「貴様、あんまり大人をなめた態度をとるなよ!すぐに生徒指導室に来い!今日という今日こそ厳罰な対応を取らせてもらう!」
そこにまた一人人影が。
「まあまあ安藤先生落ち着いてください。渚君は地毛の申請もちゃんとしていて学校が了承しているんですから校則違反にはならないですよ」
「また佐藤先生こいつの肩を持つんですか。髪の毛は地毛だとしても立ち入り禁止の屋上にも勝手に侵入するし、教師になめた態度ばかり取ってるこいつは問題児以外何物でもないでしょう。勉強とか部活にきちんと取り組んでいる様子でもない。こんな奴にこの学校にいる価値なんてないんだ!」
「まあまあ、安藤先生、あまり熱くなりすぎずに。私のほうからしっかり話しますから」
「全くもって佐藤先生はこいつに甘すぎる。担任のくせして生徒のことまともに見ることもできんのか。これだから最近の教師は」
佐藤はいつも俺をかばってくれる。よくわからない教師だ。数学科の教師だがいつも数学の神秘とやらを生徒に熱弁しているが誰も聞いていないことに気づいていない。
「渚君、そろそろ部活が始まるだろう。さあ行きなさい」
「はいはい、行きますよーっと」
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