もう遅いよ 〜卒業式の日に学年一の美少女から告白された。だから幼馴染の君とは付き合えない〜

GameMan

女子サイド


「ず、ずっと前から、小さいときから好きだったの! おっ、幼馴染の私と付き合ってくださいっ!」



 此処で告白すればどんな恋だろうと実ると言われている桜の樹の下で、私は彼に、、、幼馴染の彼に告白した

 彼とは小さい頃から家同士で仲が良く、ずっと一緒に過ごしてきた

 きっかけは何かと聞かれても、、、襲ってきた犬から救けてくれた時?チョコを渡した時に彼が見せた笑顔?

 どれも違う

 ありきたりだけど、気付いたらいつの間にか好きになっていた


 高2の後半は恋に気付いた照れ隠しから、全く話さない疎遠な関係になってしまったけど、そんな関係のまま高校を出ていくのは嫌だ

 だから友達に『絶対イケる!』と背中を押してもらい、勇気を出して告白した



「告白してくれて嬉しいよ。 でもごめん。 さっき二条さんに告白されて返事をしたんだ。 だから君とは付き合えない、、、本当にごめん」



 彼の放った拒絶の言葉を、私は聞き取れなかった

 受け入れられない事実を脳が自動的に排除してしまったかのように


 それでも彼の表情から察する

 私は振られてしまったのだと



「こんなこと言える立場じゃないけれど、君の幸せを願っているよ。 今までありがとう」



 彼はそう言い残し、必ず告白が成功するという桜の樹の下から去っていった

 私はその場に呆然と立ち尽くす

 卒業証書の筒が、手汗で湿っていく

 いや違った

 これは私の涙だった

 頬を伝う雫に気が付かないほど、頭の中は混乱していた



「うっ、ぐっ、、、うぅぅ、、、」



 遅れて嗚咽が漏れ出ていく

 抑えようと口を手で塞ぐが、そんなもので止められるはずもなく、目から涙が、鼻からは鼻水が、みっともなく不細工に流れて落ちていく


 私の想いは彼に届かなかった

 この好意は無意味で無駄、無価値なものだったのだ



「なんっ、で、、、なんで、、、なんで、、、」



 途端に今までの思い出が色あせていく

 これ以上の衝撃は危ないと判断した脳が、彼に関する記憶を強制的に消去していく

 彼と遊びに行った場所、彼と過ごした時間、彼の笑顔、目標に向かって精一杯努力する姿勢

 消える直前にそれらが脳裏によぎる度に、まるで心臓が杭に打たれたような痛みがほとばしる

 

 立っている足がガクガクして、ついに耐えきれなくなったように、せっかく告白のために整えた制服が汚れるのも構わず地面にへたり込む

 その間も絶え間なく涙は流れるものだから、地面にどんどん染み込んでいった


 頭の中は混乱しながらも、奥では冷静に状況を判断している

 二条さんは学年一の美少女

 創立以来の才媛で、私も何度か話したことがあるけれど、内面も優しいという正にパーフェクトな人物

 そんな人に負けた

 完敗だ

 ガサツな私が勝てるわけがないと底から理解しているので、憎しみとか復讐とか、黒い感情は全く浮かんでこなかった

 清々しい大敗だ



「あは、あはっは、アハハ、、、」



 ずっと涙を流しながらも、どこか胸の奥で微かな希望を願っていた

 これはもしかするとドッキリで、直ぐに彼が申し訳無さそうな笑顔で謝りながら登場し、私の想いを受け入れてくれるのではないか、と

 でもそんな可能性がありえるはずもなく、いくら待っても彼は現れなかった

 今頃二条さんと記念撮影をしているのだという想像が、余計に胸を締め付ける


 涙袋に溜められていた涙が全て流れ落ちたのではないかというほどに泣いた後、泣き止んだ目を擦りながら頭をぶんぶんと振る

 ショックでまだ震える足を無理矢理に抑えながら、ゆっくりと立ち上がる

 覚束ない足で友達が待っているである場所にゆっくりと向かう

 どっちにしろ、告白の結果は伝えなくちゃならない



「、、、ゆっくりでいいや」



 当然、まだ失恋の悲しみは消えていない

 彼と進む大学が異なっていることが幸いというか、大学で会うこともないし、もう話すこともないだろう


 、、、私は、彼とずっと幼馴染でいたかった

 前のように仲良く話して、馬鹿みたいに笑い合う日々が欲しかった

 でも勝手にそれ以上のことを求めて、勝手に幼馴染の関係を崩したのは私だ

 彼の隣りにいる、、、それだけで良かったのに、私がもっと深い関係を求めてしまったばかりに、彼は別の女性の元へと向かっている




 春休みの間はずっと家に引きこもって、暫く休もう

 そうして、完全とは言えないけれど、失恋の傷を癒やしてから、、、また歩き出そう



「もう遅い、この恋を忘れて」

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