勇者追放――聖剣に選ばれなかった者
藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミカライズ進行中
第1話 聖剣崩壊
「誰だ! 誰が聖剣を抜いた!」
豪壮な王城の中、奥の一室から悲痛な叫びが響き渡った。
奥の間の台座に刺さっているのは、魔王を倒す唯一の武器と言われている聖剣グラディウス。柄にエメラルドをあしらった美しい剣であった。
しかし、いまや刀身から輝きは失われ、濁った赤に染まっている。見ている間に、剣先からぼろぼろと崩れ落ち始めた。
「資格なき者が抜けば腐り落ちると言い伝えられるグラディウスを抜いた不届き者は誰じゃあ!」
髪振り乱して叫んだのは、サンマリノ王国国王デービス三世その人であった。
「陛下、気をお静めください! そもそも我ら臣民は神の力によって守られた聖剣に触れることもできません。抜いた者があるとすれば、召喚者しかありえないと考えます」
王の足元に参じたのは、宰相ユベリウスであった。
「彼らは勇者となるべくして呼び寄せた者ではないか? 勇者ならば聖剣を扱えるはず」
「恐れながらいまだ女神ミランダの祝福を得ておりません。現在は勇者候補に留まり、正式な勇者とは言えないかと」
「だが、勇者候補たる身が許しもなく国宝グラディウスに手を触れるなど、考えられん!」
国王は憮然として言った。
「聞けば彼らの国は自由とやらを尊び、畏れ多くも王族と平民の差すら存在しないとか。不敬を不敬と思っておらぬ可能性がございます」
「しかし、王城であるぞ。国宝であるぞ?」
信じられぬと国王は何度も頭を振った。
「三十人の中には、知恵の足らぬ者も混ざっているかもしれませぬ」
苦虫を嚙み潰したような顔で、宰相は言った。
「埒が明かぬ。召喚者たちをすぐに呼び出せ! 予自ら事情を聴く」
王命である。直ちに侍従が走り、近衛兵と共に召喚者たちを謁見の間に引き出した。
「こんな夜中に何事でしょう?」
三十人の召喚者、いやクラスメートを代表してクラス委員の福水春香は尋ねた。
宰相が質問を取り次ごうとすると、デービス王が遮った。
「非常時である。作法を省き、直答を許す」
「はっ。陛下の仰せである。直接陛下のご質問に答えよ」
宰相は重々しく告げた。
「ハルカであったか? 夜中に呼び出したのは他でもない。聖剣グラディウスを抜いた者がいる。その詮議である」
王は苦しげに言った。
「聖剣グラディウス? 昨日奥の間で拝見した国宝のことですか? なぜ我々がそれに関係していると?」
「召喚者ハルカよ。神の封印により、我らサンマリノ王国民はグラディウスの柄に触れることがかなわん。神に許された召喚者だけがその柄を握れるのだ」
王に代わって宰相が答える。
「分かりました。仮にわたしたちの中で誰かが聖剣を抜いたとしましょう。それが罪になるのですか?」
宰相が答える前に、国王が口を挟んだ。
「その問いに答えるには奥の間に移った方が早い。自らの目で確かめるが良い」
王の言葉に従い、集められた全員がぞろぞろと奥の間に移動した。
扉を抜けるや否や召喚者たちは絶句した。昨日聖なる光を放っていた聖剣グラディウスは見る影もなく、台座に腐り落ちていた。
「いったい何が……」
ようやく春香が口を開くと、宰相は答えた。
「そなたたちは異界からの召喚者として勇者候補の立場にある。女神ミランダの前で祝福を受け恩寵を頂けば、正式な勇者となる。しかし、祝福を受ける前に聖剣を手にすれば神の怒りを受けるのだ」
「神の怒り――」
「資格なき者が抜けば、聖剣は腐り落ちると言い伝えられておる」
国王デービス三世が答えた。
「それがこの結果ということですか……」
ようやく事態の深刻さを理解し、春香の顔が青ざめた。
「そなたらの中で昨夜聖剣を抜いたのは誰か? 名乗り出よ!」
王の声が奥の間に響き渡った。
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