Vな姉の配信に間違って入り込んじゃった弟の話

妄想の住民

最終章 日常

第1話 弟

「姉さん、姉さん。電気点いてるっぽいけど、起きてる?」


コメント:!?!???!

コメント:リアル弟じゃね!?!?

コメント:お嬢!!!!!起きろ!!!!!!!

コメント:完全に放送事故じゃん

コメント:おい誰か他のVに連絡して起こしてもらえ

コメント:マジで弟いたのか…

コメント:弟幻覚説は笑うからやめろ


「入るよ。おーい、起きてますかー?」


コメント:弟の声爽やかすぎか

コメント:いえーい弟くんみてるー?

コメント:身バレしないかがひやひやすぎる

コメント:弟!見えてたらすぐに配信止めてくれ!!

コメント:弟、頼むから余計なこと言うなよ…マジで…


「ほら、椅子に座ったまま寝ると風邪ひくから。ちゃんとベッドに行こ」

「んん……」

「はいはい、持ち上げるよ。よっこい、しょ」


コメント:!?

コメント:これ状況的にお嬢が弟に抱っこされてベッドに運ばれてないか?

コメント:姉弟仲良すぎか

コメント:こんなことしてくれる弟とか実在するんか・・・?


「ベッド着いたから降ろすよ……あのー、服から手を放してくれないと、俺が部屋に戻れないんですけど」

「んん……」


コメント:お嬢が!!!!服を掴んでる!!!!!

コメント:きゃわわわわわわ

コメント:姉弟てぇてぇ

コメント:放送事故でてぇてぇ発生させるな

コメント:ひやひやしてててぇてぇを楽しめない


「お姉ちゃん、いい子だから、手、放せるよね? ──よし、いいこ」


コメント:あのお嬢が子ども扱いされてるのやばい

コメント:弟の声が良すぎてこっちまで変な気分になる

コメント:なんだ・・・一体何を見せられてるんだ・・・

コメント:俺も弟のお姉ちゃんになるか

コメント:俺が…俺たちが、お姉ちゃんだッ!!!!!

コメント:俺はお姉ちゃんだった・・・?


「パソコン、消すよ? あー……アプリいっぱい起動してるけど、シャットダウンして良いの? というか、マイクあるし、通話とかしてた? ……聞こえてないか。あー、もしもし? 聞こえていますか? 姉が寝落ちてしまったので、パソコンをシャットダウンさせますね。夜遅くまで姉に付き合っていただきありがとうございました。それでは、おやすみなさい」




 放送は終了しました。




***




「……話したいことがあるんですけど、時間ありますか?」

「ん? 良いよ」


 いつもの朝。リビングでくつろいでいる弟を見つけると、私は弟に声をかけて眼の前に座った。そのまま何と切り出したものかと宙に視線を彷徨わせる。弟はそんな様子の私に何をいう訳でもなく、リラックスした様子で私が話を切り出すのを待っていた。

 しばらくしてから、覚悟を決めて話を切り出した。


「あの、ね。一昨日、パソコンの前で寝落ちてた私をベッドまで運んでくれましたよね?」

「ああ、勝手に部屋に入っちゃってごめん」

「こっちこそ、電気点けっぱなしでごめんなさい……じゃなくて。えっと、あのとき、実は私、パソコンで、その……配信をしてまして」

「配信?」


 聞き馴染みのない言葉なのか首を傾げる弟の姿に、見せた方が早いとスマホを取り出して動画投稿サイトを表示する。

 再生されるのは、とあるVTuberの切り抜き映像。


「『【切り抜き】10分でわかる青丹あおにらん【ほめるた!】』……?」

「これが、私です」


 現代的な改造を施した着物を身に纏った純和風の雰囲気を醸し出す可愛らしい少女が、緑がかった長髪を揺らしながら画面の向こうで微笑む。我ながら可愛らしいムーブができていると思う。

 弟は興味深そうに画面を見つめながら、しばし考え込んでいる様子だった。


「えーっと、つまり、この青丹らんってキャラクターの声優を姉さんがやってるの?」

「声優というか、中身というか……このキャラクターに原作はなくて、私そのものが原作というか」

「アバターがあって、姉さんがそれに合わせて喋るイメージかな。最近はこんなのもあるんだ。これで広告収入とか稼いでる感じ? すごいね」


 動画を見続ける弟から、VTuberに対する嫌悪感は見られない。

 VTuberは近年急速に広まりつつあるが、それでも世間一般に完全に認められているとは言い難い。嫌悪感を抱く層がいるのも事実である。弟は完全に一般人側なので、オタク文化を受け入れてくれるか不安な部分もあったが、杞憂だったようだ。


「で、問題はですね。配信に声が入っちゃって、軽い騒ぎになってまして」

「あー……まぁ、芸能人がSNSにあげた写真に家族が写り込んでるようなものだろうし、騒ぎにもなる、のかな?」

「それで、出来ればで良いんだけど、一緒に配信に出てもらって事態の鎮静化を図りたいな、って」

「協力するのに否はないけど、その前に確認したいことがあるから質問して良い?」


 弟の質問にすべて答え、関係各所に連絡を入れ、準備が整ったその日の夜。

 私と弟の初めての配信が始まった。




***




「こんにらー、青丹らんです」


コメント:にらー

コメント:弟くんどこ?ここ?

コメント:マジで引退とかならなくて良かった

コメント:何がやべぇって放送事故のアーカイブ残したままなんだよなぁ・・・

コメント:世界よ、これがほめるただ


「今日は、なんと! 特別ゲストにお越しいただいています! ずっと私が共演を夢見ていた相手! 弟くんです! どうぞ!」

「姉よりご紹介に与りました弟と申します。皆様におかれましては、日頃から愚姉が大変お世話になっております。今後とも御贔屓の程、よろしくお願いいたします」

「硬い!?」


コメント:あっよろしくお願いします

コメント:ヨロシクオネガイシマス

コメント:しっかり者の弟やん

コメント:こちらこそお姉さんには日頃からお世話になっています

コメント:何のお世話なんですかねぇ・・・

コメント:やっぱ声ええな弟


「もっと柔らかくして良いんですよ……? ほら、普段通りで」

「そう? ごめんね、実はあんまりこういうのに詳しくないからどういう雰囲気が良いのかわかってないんだよね」

「弟くん、インターネットとか全然やりませんからね。『ほめるた!』で箱入りと言われる私以上に箱入り感あります」


 弟がオタク文化ないしインターネット文化に疎いのは事実だった。

 どちらかと言えば陽な弟は、SNSでリア友とたくさん繋がってやり取りしているし、アウトドアとかそういう遊びが多い。


コメント:お嬢以上の箱入り…?

コメント:マトリョシカかよ

コメント:初期のお嬢、ゲームろくに触ったことなくてマジもんのお嬢様かと思った

コメント:ほめるた!のガチ清楚(弟関連を除く)


「で、今回は弟くんと一緒にゲームをしたくてゲームを持ってきました!」


コメント:ようやくお嬢の夢が叶うのか・・・

コメント:ゲームの楽しさに目覚めてからずっと弟とやりたいって言ってたからな

コメント:弟ゲームやらないらしいけど、楽しめるんかな


「それがこちら! M○necr○ft!」

「おー。新聞とかニュースにも出たことあるよね、このゲーム。名前は聞いたことある」

「私が一番遊んでるゲームだから、弟くんに教えられることも多いと思ってこのゲームにしてみました」

「頼りにさせてもらおうかな。正直、ゲームに触るのって数えるくらいだし」


 私もゲーム初心者だが、弟はそれ以上だ。ここは姉としての威厳を見せつける場面だろう。


コメント:優しい

コメント:ゲーム初心者を気遣うほめるたの良心

コメント:弟にゲーム教えてお姉ちゃんアピールしたいのかわいい

コメント:最初にお嬢がやってドハマりしたゲーム

コメント:初心者にもとっつきやすくて良いチョイス


「それで、今日はね、ゲームをやりながら弟くんの話をしていきたいなと思っています」

「俺は良いけど、それって聞いてる人は興味あるの? 姉さんのことならまだしも、弟だよ?」

「大丈夫! 普段から弟くんの話ばっかりしてるから」

「大丈夫……?」


コメント:ガチブラコン

コメント:ソロ配信の6割が弟の話ってマジ?

コメント:初配信初手弟の話で2時間枠を使った奴だ面構えが違う

コメント:あそこからガチ清楚枠になるとは誰も思わなかったんだよなぁ・・・

コメント:お嬢以外のほめるたの面々がひどすぎるだけでは・・・?ボブは訝しんだ


「ほら、見てる皆も興味あるって言ってますよ」

「そうなの? まぁ、姉さんがしたいならそれで良いんだけど」

「……うん、ほんとは私がしたいだけです」

「はい、よく正直に言えました。別に誤魔化す必要なんてないのに」

「だって……そういうの、あんまりお姉ちゃんっぽくないし」

「どういう種類の理由なの、それ」


 弟は普通のゲーム画面しか見えていないので、コメントなんと言っているか誤魔化し放題かと思ったが、そういうわけにもいかないらしい。そう言えば、弟には嘘は昔からバレてばかりだったが、何かわかりやすい動作でも無意識にやっているのだろうか。


コメント:言ってないが?????

コメント:興味ないことはないけど、あるとは言ってない

コメント:お嬢の話でお腹いっぱいなんだよなぁ

コメント:スパダリならぬスパブラの話しか聞いてないから実際気になる

コメント:というかマジで弟がお嬢のこと甘やかしてんな


「とりあえず、ゲーム始めましょうか」

「おー、こんな感じのゲームなんだ。これどうやって遊ぶの?」


 基本的な操作方法を説明すると、弟は軽く動かしながら操作をすぐに覚えたようだった。


「だいたい覚えたかも。それで、このゲームは何をするの? 俺が知ってるのは、街とか施設とか作ったりできる、ってことくらいだけど」

「ゲームによって定められた目的はないんですよね。それこそ街を作るのも良いし、家を作ったり、より効率的な資材集めの方法を模索しても良いし、やりながら目的をどんどん見つけていく感じです」

「かなり自由なんだ」

「ですです。とりあえずは、夜になると敵も出てきますし、拠点となる家を建てましょう!」


コメント:心なしかいつもよりお嬢の声がわくわくしてるように聞こえて和む

コメント:お姉ちゃんぶりたいお年頃

コメント:姉弟てぇてぇ・・・

コメント:リアル弟ってもっと地獄じゃないの???


「弟くんはどんな家が良いとかありますか?」

「……4LDK?」

「えらく具体的ですね……?」

「姉さんの寝室、作業部屋、俺の寝室、作業部屋で4つくらい要ると思って。もっと広い方が良いかな?」

「確かに最低ラインかも。あ、私、あれほしいです。畳部屋!」

「畳は手入れが大変みたいだからなぁ……張替えとか裏返しとか」

「そうなんですか?」

「ほら、実家も畳でしょ? あれの新調作業見てたことあるんだけど、結構大変そうだったよ。実際にやったのは職人さんだけど」

「え、私、見たことないです……」

「俺はわざわざ作業に立ち会わせてもらえるようお願いしたからね。興味あったし」


コメント:家の条件が同棲前提じゃねーか!!!!!!

コメント:てかお嬢実家じゃないのか

コメント:↑過去の配信で実家じゃないって言ってる

コメント:実家じゃないのに弟と同棲・・・?

コメント:実家畳張りは解釈一致

コメント:なんで同棲してるの?家賃削減のため?

コメント:姉弟だけの同棲てぇてぇがすぎる


「じゃあ、家、建てていきましょうか」




・・・・・

・・・・

・・・

・・




「弟くん、木材どこですか?」

「倉庫に入って右のチェストに木の種類ごとに入ってるよ」

「あ、ついでに羊毛も」

「倉庫の奥の右手側だったかな?」

「ありがとうございます──それでね、その敵がすっごく強くて、私、全然勝てなくて。けど、アオタンさんたちがずっと応援してくれて、何日もかけてようやく倒せて。私、すっごく嬉しくて」

「頑張ったんだね」

「うん! すっごく頑張ったんです!」


コメント:あの配信は良かった

コメント:泣きそうになりながら挑み続けるお嬢に感動した

コメント:名場面量産回

コメント:ずっと最終回だった

コメント:あの場面でも弟の名前が出てくるのは正直草だった

コメント:つかこの姉弟ずっとただの日常会話してね?

コメント:何か問題が?

コメント:何も問題なかったわ

コメント:お嬢が弟に頑張りを自慢するのてぇてぇすぎ

コメント:配信画面には映ってないけど、弟がしれっと倉庫整理してる

コメント:気付いたら家回りが整頓されてる・・・


「アオタンさんたちも、姉さんと一緒に遊んでくれてありがとう」


コメント:あっいや

コメント:そんなそんな

コメント:あっあっ

コメント:弟相手にコミュ障発動するの面白すぎるからやめろ

コメント:イケボで陽臭がすごいから緊張するのはわかる

コメント:オタクの対義語

コメント:弟に話しかけられると手に変な汗かく

コメント:コメント、陰キャのすくつか???


「……弟くんって陽キャラでしたか?」

「いや、自分じゃわからないけど……でも、漫画とか普通に読むし、何かするときも俺から声かけるより向こうから呼ばれることの方が多いし、どちらかと言えば陰キャなんじゃない?」

「弟くんが読む漫画って、『○滅の刃』とか『進○の巨人』とかでしたか?」

「そうそう。試しに読んでみたら面白くてハマっちゃった」

「アニメとかは?」

「『○滅』と『進○』は観たよ」

「それ以外は?」

「『呪術○戦』?」


コメント:あ、これ「俺オタクだよ」って言う陽キャだ!!!

コメント:これで深夜アニメの話したら詰むんですねわかります

コメント:陽キャが知らない深夜アニメのタイトル言って気まずい空気になるやつ

コメント:トラウマが・・・

コメント:高度なトラップやめろ


「じゃあ、今度、私がおすすめのアニメ、一緒に観ましょうか」

「はいはい。その前にそろそろ配信止めた方が良いんじゃない?」

「え?」


コメント:!?

コメント:急に配信やめるのか?

コメント:どうした急に

コメント:なんかあったん?

コメント:無理しない程度に毎秒配信しろ


「そろそろ夕飯作らないと夜ごはんなしになるよ」

「えっ!? あ、もう配信時間4時間越えてたんですね!?」

「ゲームが楽しくて夢中になりすぎたね」


コメント:うっそだろ

コメント:マジで4時間こえてる・・・

コメント:配信みてたら時間経過が一瞬すぎる

コメント:作業用BGMにしてたけど、めちゃくちゃ集中できたわ

コメント:弟初登場なのにお嬢との息の合い方良いから良かった(こなみかん)


「えっと、今日は一緒に遊んでくれてありがとうございました、弟くん」

「こちらこそ、遊びに誘ってもらってありがとうございました。知らない遊びだったから新鮮で楽しかったよ。これからはゲームも遊ぶかも」

「やった! それで、見てくださったアオタンさんたちもありがとうございました。ほとんどただ弟くんと遊んでる様子の配信になっちゃいましたけど……それじゃあ、またね」


コメント:おわらないで

コメント:いかないで

コメント:たすけて

コメント:お疲れ。また弟との絡み見せてくれ

コメント:姉弟てぇてぇええなぁ・・・

コメント:弟交換してくれ




 放送は終了しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る