第245話 成績を上げる意外な方法 その96

 結の父親は背が高い。短い黒髪は清潔感にあふれ、

穏やかさと凛とした雰囲気を纏っている。

 隣に居る結の母親は、肩までの綺麗な黒い髪と、量

販店での服をまるで雑誌のモデルのような着こなして

いたのが印象的だ。

 京川の両親は、つい自分達とは格が違うと思ってし

まう。だが、先ほどから当たり前に他者への思いやり

を見せているのを見て『霧島さんははマウントなど絶

対にしない』と思えたのだ。

「…すみません」

 お礼とお詫びの言葉を言った後、酒井の母親は貰っ

たお茶を口にした。冷えているのか、仕事疲れの

体と心によく染み渡った。

「いえいえ」と嫌な顔すらしない結の両親に、作高の

両親はますます『人間が出来すぎている』と思ってし

まった。自分達の方が、霧島夫妻より少し年上なのに。

「…お母さん、疲れているんじゃ?」

 心配した顔で、酒井は話しかける。いつも朝早くか

ら夜遅くまで休みの日などなく働いているからだ。

「…大丈夫よ。それより本当にごめんね。あなたに塾

を通わせる事すら出来ないなんて…」

 パート先の電話で一通り事情を聞いた酒井の母親は、

急いで仕事を終わらせここへ来るまでずっと申し訳な

い、と思っていた。娘が迷惑をかけてしまった人々だ

けでなく、そんな事をさせてしまった娘にも。

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