第46話 狙われたお嬢様 その㊻
「流の言う通りだ。どんな理由があろうと、お金を盗んでいいわけないだろう?」
田川にも掴みかかろうとする流を落ち着かせつつ、満は諭すようにそう言った。
「…もしかして、華さんと一緒に喫茶店でお茶をしたからですか?」
少し考えこんだ結が、田川へそう質問する。三日前、鳥山がアルバイトをしている時、言い寄ってきた男の客から華を守った後、鳥山はその喫茶店で華達と一緒にお茶をしたからだ。
「でもそれは鳥山君へお礼をしたからよ。鳥山君はそこでアルバイトをしていたから、休憩も兼ねていたし」
華にしてみれば、単にお礼をしていただけだった。それがなぜ田川の恨みを買う事になるのか分からなかったのだ。
「…もしかして、僕がその前に、田川さんからお茶を誘われた事を断ったから?」
これまでの話を聞き、鳥山は思い出した顔になった。華達とお茶をする前の日の放課後、田川からお茶を誘われたのだが鳥山はやんわりと断ったのだ。
「…ええ」
鳥山からの問いかけに、田川は肯定の返事をした。
「…そうか。あの時の僕は『少しでも節約しなきゃ』と思い詰めていたから、田川さんからの誘いにのる余裕がなかったんだ。本当にすまなかった」
せっかく誘ってくれたのに断ってしまったから、華へ逆恨みの嫌がらせをした。
そのきっかけを作ってしまった、と、鳥山は再び田川へ頭を下げて謝罪をしたのだ。
「う、ううん!鳥山君は何も悪くないよ!!私が勝手にひがんでしまったから!」
謝罪してきた鳥山へ、田川は慌てて鳥山には何も責任はない事を主張した。華が鳥山と一緒に楽しく過ごしたと聞いて嫉妬した気持ちが押さえつけられなかった結果、お金持ちな華を困らせてやろうと思ってお金を盗んだのだ。
そしてそのお金で、鳥山がアルバイトをしている喫茶店へ行き、いろいろ注文した。これで少しは鳥山の役にたてる、と思い込んで。
だが、盗んだ金で売り上げに貢献しても、鳥山は喜ばなかった。それどころか、そのせいで鳥山が間違った行動をして罪を犯してしまったのだ。
「それでも、僕は君を自分勝手な計画に巻き込んでしまった
んだ。それで成宮さんと霧島さんに怖い思いをさせてしまった。本当に、申し訳ない!!」
鳥山は、華と結へ土下座をする。
心から謝罪をした鳥山を見て、田川は意地になっていた自分が恥ずかしくなってきた。
先ほどから鳥山は謝罪をしているのだ。自らがやってしまった、自分勝手な理由で二人を襲ってしまった行為に。
華の呑気な態度についイラついてしまったが、本来はこちらが詫びをしなければならない。お金を盗んだうえ、使ってしまったことに。
鳥山は、罪を償う覚悟を見せている。なら、自分もそれを見せなければならない。
彼と、同じ場所に居るためにも。
「…残りは必ず返すわ。…すみませんでした」
制服のポケットから取り出した財布から、残りの四万円を差し出した田川は、頭を下げて謝罪した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます