第16話  狙われたお嬢様 その⑯

 流の方は、まだ田川が華へ謝っていない事にも腹を立てている。

 満は、あそこまで必死で話していた田川の様子を見て、嘘をついているとは思えなかった。

「本当にわざとじゃないの…?」

 空になったティーカップを両手に持ったまま、華が田川へそう聞いてきた。まだ先程のショックから、完全に立ち直れていない様子だった。

「だから私じゃないって言ってるでしょ!」

 華の目の前で机をバン!と両手でたたきつけながら、田川は声を荒げる。華の心情など一切考えていない田川の態度に流が抗議をしようとしたその時、保健室のドアが数回ノックされた。

「失礼します。遅くなってすみません」

 ドアを開けた結が、保健室へ入ってきた。

「結!」

 華の声で、皆が一斉に結の方へ向く。結が戻ってきたのを見て、華はほっとした顔になった。

「冷たいほうじ茶にしましたが、よろしかったですか?」

 片手で持っていた大きめのエコバックから、小さめのペットボトルを見せながら結は尋ねる。それを見た満は「ああ」と返事をしながら、それを受け取るために右手を差し出した。

「サンキュな、霧島。流、少し頭を冷やせ」

 続けて受け取ったもう一本のお茶を、流へ渡しながら落ち着くように促す。満からお茶を受け取った流は、蓋を開けてほうじ茶をひとまず飲んだ。

「もしよろしかったら、どうぞ」

 華と鳥山にもお茶を渡した後、結は自分の分を田川へ差し出す。

 田川は突然やって来た結に驚いていたが、あれだけ騒いで喉が渇いていたのか、差し出されたお茶を受け取ると少しづつ口にした。

「霧島さん、僕のお茶を飲む?まだ開けていないよ」

 結の分が無くなった事に気づいた鳥山が、未開封のペットボトルを差し出した。

「―!?」

 鳥山ならの申し出に、田川は思わずむせそうになった。何とか息も整えて、結を凝視したが、

「そのお気持ちだけ受け取っておきます。私はまだ喉は渇いていませんので」

 落ち着いた声で、結は鳥山へ飲むように薦めた。

「結、買ってきてくれてありがとう。後で、飲み物代渡すわ」

 すでに何口かそのお茶を飲んでいた見た華が、結へそう声をかけた。

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