第8話『初めての戦闘員』

 俺は裏切り者襲撃組から、無事に外れる事が出来た。


 だが、どうしてこうなった?


 俺の目の前には、少々くたびれた雰囲気の黒づくめの戦闘員が一人、敬礼していた。

 組織に与えられた四畳半程の一室で、博士へ提出する作戦案のレポートを作成していると、唐突に尋ねて来たのだ。俺はそんな最下級の戦闘員を、椅子に座ったまま出迎えた。


「もう一度聞かせて貰おうか?」

「はっ! 戦闘員ナンバー00369! 今から貴方の指揮下に入ります!」


 戦闘員ナンバー00369は、おうむ返しに同じ言葉を繰り返した。

 こうして微妙な時間が流れている間にも、他の戦闘員たちが入って来る気配は無い。戦闘員が一人?

 俺は以前の記憶を失っているから、配下に戦闘員を指揮するのは初めてになる。だが、それでも普通もうちょっと……


「ふむ。お前一人か?」

「はっ! ここには私一人の様です! 逆に質問して宜しいでしょうか!?」

「うむ……良いだろう」


 どう見ても中年のおっさんだ。若い戦闘員では無い。廃棄処分一歩手前のが付けられたという事か?


 俺はこいつがどこまで話を聞いて来ているか、それを把握せねばならない。


 何も知らなければ、もし敵に囚われたとしても知らない事は話しようが無い。だが、余計な事を見知っていれば、口を封じなければならない。

 何しろ、この俺にすら『本作戦』の概要は知らされていないのだ。

 それは、俺の口から情報が漏れない為の常套手段と言えよう。巨大な組織では、右手が何をしているのか、左手は把握している必要など無いという訳さ。


 俺がじっと見据えると、戦闘員ナンバー00369は、少し申し訳なさそうに尋ねて来た。369号とは随分若い番号だ。つまりは戦闘員の中でも、古参の部類に入るとも言える。長年の感から、今回の俺たちの囮作戦が通常の破壊活動で無い事を肌で感じ取っているのやも知れない。それだけ長く活動しているという事は、油断のならない奴かも知れん。


「何故、私一人なのでしょう? 普通の作戦なら、行動隊長の下に十人は戦闘員が配備される筈。これは~、かなり特殊な作戦になるのでしょうか?」


 何? 推理しただと?


「ふん。良い所に気が付いたな。ところで、お前はどこまで話を聞いて来ている?」

「いえ、これが全然。他の戦闘員たちも、割り振りが変だと騒いでます」


 何だ、ザルだな!


 がっくり。


 どうやら他も戦闘員が一人ずつらしい。

 誰かぺらぺらと喋っていそうだ。これはもう手遅れ?




 ……気付かなかった事にしておこう……


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