第2話『狂気の科学者』


 満足気に一つの容器から身を離した白衣の女は、手にした白いタブレットにデータを入力していく。

 ずらり並ぶ透明なカプセル。

 人一人をそっくり浮かべる事の出来るそれは、十数基が並び立ち、それぞれに不気味な被検体が浮かべられていた。


 無機質なコンクリートの壁に、天井からの白い光。

 その下に設置された幾つもの機器。それらと結ばれたタンクと複雑な配管設備。

 この一室の主は、明らかにこの女だった。

 女は小柄故に、これらの機器は異様な大きさを醸す。。

 その中心で、女は脱色しただろう長い金髪を振り乱し、ヒステリックにこれらのカプセルを見渡した。


「いい! お前たち! お前たち廃棄品を蘇らせたのはこの私よ! お前たちは、私の為にこの日本をメチャメチャに破壊するの! 良いわね!?」


 ぼこり、ぼこぼこと幾つもの泡が、容器の中を立ち昇る。


 白い、青白い頬を愉悦に歪ませ、女は鼻息も荒く頷いた。


「よろしーい! では、廃棄品第一号! 出て来るが良い!!」


 悦に入った女がタブレットを操作すると、ポンプが唸り、一番端のカプセルから激しい水音が生じた。

 見る間に溶液が水位を下げ、中の被検体が浮力を失い、カプセルの中でぐったりと沈み込む。

 だが、廃棄品一号と呼ばれた被検体は、身じろぎをしながらも何とか立ち上がろうと透明な容器の壁をキイキイと掻いた。非力な響きだ。

 その様を、女はその狂気に満ちたまなざしで満足気に見つめ、やがて高らかに笑い出した。


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