旅路の「N」
キコリ
第1話
『あのさ、今度どこかでお祝いでもしようよ。』
私は、たった今来た連絡の一文を、何回か読み返した。もう一度、文章の送り主の連絡先を確認する。間違いない。"この人物”だ。
私にとってその言葉は「驚いた」という言葉ではなかった。いや、むしろ「驚いた」という言葉は当てはまらない。かと言って「いつものことだ」とはならない言葉なのも事実だった。
『急にどうした?』
私は、ひねりにひねった挙句シンプルになった一文を、"この人物"に送った。
『いや、別にどうしたってことでもないよ。ただ、誕生日が近そうだったから、祝おうと思って。』
私は、また返信された文章を何回か読み返した。その後、自分のカレンダーアプリを確認する。大学の授業で手いっぱいで忘れていたが、一週間後は自分の誕生日だった。
確かに、"この人物"が言っていることは、正しかった。が、突然私に連絡をすることは考えにくかった。それでも、私はせっかく送られてきたこの興味深いメッセージを逃したくないと思い、返答した。
『気づいてたのか。ありがとう。久しぶりに行くのはいいかもしれない。』
『そうだろ? また詳しい日時は、近くなったら連絡するよ。』
『いいね。その話、乗った。』
そんな端的な会話の後、"この人物"は「Bye」と書かれたスタンプを送信してきた。"この人物"らしい、無料のものだった。
私はそんな会話の画面を閉じ、今行われている授業へと頭を切り替えた。
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