私の彼はちょいワル

キザなRye

全編

「さっきのあれは何?あんなことしたら私たちの関係バレるよ。」

「それは…無理。」

 私には同い年の彼氏がいる。けれども周りには簡単に言えない。私は学校の中では優等生に位置付けられていて彼氏の明義あきよしくんはいわゆるヤンキーだ。不釣り合い、とかではなくて接点があることが露呈すると学校での立場が危うくなってしまう。私の方はまだ良いのだが、明義くんは特に危ない。

「話すときは細心の注意を払うように、っていつも言っているのに。」

「ほんとにごめん。」

「今度のデート、服装気を付けてよ。明義くんだって分かるような格好で来ちゃだめだよ。」

「分かってるって。」

 普段は相当口が悪いらしいが、直接見たことはないので知らない。少なくとも私といるときは優しい口調であるのは間違いない。

「じゃあ、また明日。」

 デートとなると私の気合いは尋常ではない。中学生なのでそれほど遠くに行けるわけではなく、行った先で知り合いと会う可能性は低くない。私であることがバレてはいけないし、明義くんであることがバレてはいけない。毎回毎回ドキドキでなんだか悪いことをしているようで少し楽しい。

 どこかに出かけようとなると私は相当綿密な計画を立てる。それと私は普段着ないような新しい服を手に入れる。どこまでも徹底した対策をしている。明義くんはこういうところにあまり頭が回っていなくて私が口酸っぱく言わないといかにも明義くんで来てしまう。明義くんのことを含めて考えるのが私は楽しい。

 念入りに準備して迎えたデート当日、芸能人が変装しているほどまでは行かないものの顔が若干隠れる程度の帽子を被って待ち合わせ場所に行った。明義くんとの二人のルールとして家を出る前にどのような服装で行くのかは写真を撮って伝えるようにしている。だからどれだけ私らしくなくても、どれだけ明義くんらしくなくても待ち合わせは難しくなかった。

 今回のデート先は水族館だった。室内でしかも照明が暗くなっていて身バレせずに楽しむのには持って来いだった。ちなみに今回のデート先の案を出したのは明義くんで幼い頃から魚が好きだったらしく、どうしても行きたいと言ってきたのだ。私としては明義くんが楽しんでくれればもはや何でも良いみたいなところがあるので一つ返事で水族館に行くことが決まった。

 付き合ってから日にちは経っているが、まだ初々しさが残っていて手が身体に当たるとビクッとしてしまう。手を繋いだり、腕を組んだりなんて到底出来ない。周囲への警戒を緩めることは出来ないが、一回一回のデートは新たなことだらけで楽しい。

 順路通りに館内を進んでいきながら水槽の魚たちを眺めていく。隣にいる明義くんの解説が水槽ごとに入る。私はその解説をふむふむと聞きながら楽しんでいた。こんなにも博識なのに明義くんはどうしてヤンキーとして生活しているのか、疑問に思えてくる。彼には彼なりの何かがあるのだろう。

 館内の魚たちは一通り見終えてイルカショーに向かった。明義くんの解説を聞きながら回っていたら相当時間が経っていたようで日差しが相当眩しくなっている。楽しい時間は一瞬で過ぎるというのはまさにその通りである。

 濡れるくらいの水槽から近い位置ではなく、少しだけ水槽から離れた席に二人で座った。イルカショーまではまだ時間があったので席は空いていた。売店でチュロスを買ってショーが始まる時間まで食べたり話したりをしていた。

 段々と私たちの周りに人が集まってきてショーの時間が近づいてきたことを感じる。もうまもなくショーの開始時間というところで私に話しかける声がした。しかもなんだか聞き覚えのある声である。声のする方へ顔を向けるとそこには同じクラスの女の子たちが数人いた。

沙都子さとこちゃん、こういうところに来るんだね。隣にいるのは彼氏か何か?」

 私だってバレないような服装で来たはずなのにいとも簡単に正体が露呈してしまっている。この感じだと隣にいるのが明義くんだということはもう知られていてもおかしくない。そんな状態なので隣にいるのを彼氏と認めるのは相当難しそうだ。どうしようかと迷っているところで私の背中の方から言葉が聞こえた。

「おっ、瑠夏るかたちじゃん。こいつ、俺の彼女。」

 内心では相当やらかしてるなと思っていた。テンションが私といるときとは大きく違うし、あれほどまでに隠れてこそこそとしていた二人の関係をいとも容易く明かしてしまった。今までの努力が完全に水の泡だ。責めても過去は取り戻せないが、どうしても責めてしまう。

「あれ、明義いたの。」

「えっ、明義って彼女いたんだ。」

「しかも沙都子ちゃんなの。」

「二人に接点あったんだ。」

「だってクラス同じだし。ちゃんと学校来るように何度も言ってきたりとかして関わりがあったかなって言う感じ。」

「なんでそんな真面目しかキャラがない子を好きになったの。」

「私たちの方が良いでしょ。」

「今からでも遅くないから乗り換えようよ。」

 私の知らないところでの明義くんの会話が目の前で行われて複雑な気持ちだった。しかも私をどんどん下げられているような気がする。

「沙都子ちゃんだってこんな遊び回っているような人と関わると成績下がっちゃうんじゃないの。」

「そうだよ、私たちに明義を譲らない?」

「人生長い目で見たとき、明義なんて選ばない方が身のためでしょ。」

 私が貶されていたのにいつの間にか明義くんのことを貶し出している。私がどう言われようとそこまで気に留めないが、明義くんのことを言われてしまうと言い返したくなってしまう。どれだけ明義くんと私がお似合いでなくても私にとっては大切な彼氏だ。

「ちょっと、」

「おい!」

 私が文句を言おうと口を開いたタイミングで明義くんも話し出した。私と一緒にいるときには絶対には見せないような強い口調だ。

「黙って聞いてればあーだ、こーだ言って何様のつもりなんだ。俺が好きで選んだんだ。それに文句を言う資格はおまえらにあるのか。それと好きな人を傷付ける奴を俺は許さないからな。」

 明義くんは相当な剣幕で言葉を並べていた。一つ一つの言葉にはダーツのように鋭い何かがあった。その言葉たちに彼女たちは相当やられたようで逃げるように私たちのところから離れていった。

 離れていった後で私はふとこうなった要因は何だったのかと頭の中で検索した。そして明義くんの何も考えていないような発言にあったことを思い出した。

「明義くん、私は一生懸命バレないように隠していたのにあんなにはっきりと明かしてどういうつもり?」

「うん……でも僕のおかげで彼女たちを追い払えたでしょ。」

「そうやって誤魔化さないの。……でも守ってくれてありがとう。」

 申し訳なさを残し、少しだけ自慢げな顔をした明義くんは輝いていた。私のために強い口調を使ってくれるのは悪くないかなと思えた。

「沙都子ちゃんを守ることは僕の使命だと思っているからね。普段から恨みを買っているから沙都子ちゃんにいつどこで火の粉が降りかかってくるのか分からない。僕が買った恨みはちゃんと僕が処理させて欲しい。」

 同じクラスの女の子たち数人が私たちのところから離れていって穏やかな気持ちでイルカショーを見ることが出来た。もう既に私と明義くんの関係は一部の人にバレてしまっているので今までほど警戒しなくて良くなったので伸び伸びとデートを楽しむことが出来た。

 水族館デートの翌日には私と明義くんの関係が広まっていた。イルカショーで出会った数人が広めたのだろう。周囲に私たちの情報が回っていったので周りの目をあまり気にせずに明義くんと話をすることが出来るようになった。

「そういえばなんであのときに正体を明かすようなことをしたの?」

「僕も真面目に生きたいなって思ってて。沙都子ちゃんとの関係が露呈すれば勉強とかしててもおかしく見えないでしょ。」

「そんな理由で。別に私は良いんだけどそこまでする必要があったのかな……。」

「あと、沙都子ちゃんを他の人に取られちゃうかもって思ったから。彼女だって言えば狙われにくいでしょ。」

 私と明義くんはその後も何度もデートを重ねた。もちろん、周りにバレてはいけないという警戒感は持たずにだ。周りには段々推されるようなカップルになっていった。

 私は明義くんに勉強を教えて欲しいと頼まれて何度も何度も教えた。明義くんは私に聞いたり、先生に聞いたりしてメキメキと勉強の力を付けていった。そして最終的には私と明義くんは県内でトップの進学校に進学した。明義くんはいつの間にか“ヤンキー”という立ち位置から“優等生”に足を踏み入れていた。

 私と明義くんの関係性がこれからどうなっていくのか、分からないが仲良くしていきたいなと私は思っている。明義くんが私と仲良くしてくれる限り。

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私の彼はちょいワル キザなRye @yosukew1616

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