第34話 罠にはまる

「隊長、護衛勤務の交代ですか?陛下はティールームのほうです。」


「ティールーム?めずらしいな。誰か一緒にいるのか?」


「はい。シャルマンド公爵がお見えになっています。」


「公爵が?…わかった。」



シャルマンド公爵か…嫌な相手が一緒にいるな。

と言っても、陛下と話しているだけなら俺は関係ないか。

陛下の護衛の仕事だけしていればいいのだし。

そう思ってティールームに入った瞬間、目が合った公爵がにやりと笑うのを見て、

これは何かまずそうだと感じた。


「おお。ジークフリート。来たか。

 …大変なことになった。ここに座ってくれ。」


「…はい。」


二人が座るテーブルに、一緒につくように言われ、仕方なく座る。

それを待ち構えたように公爵がしゃべりだす。


「隊長、これは大変なことになったぞ。

 だが、どうしようもないのだからあきらめるしかない。

 落ち込むとは思うが、冷静に聞くのだ。」


「…?」


「あのな…ジークフリート。

 ジャガルアド国王から書簡が届いた。

 どうやら、ジュリア王女が改心したそうでね…。

 落ち着いたということで、幽閉をとく決心をしたそうだ。

 それで、結婚相手であるジークフリートの所へ嫁がせると書いてある。」


「は?…どういうことですか?」


「いつまでも幽閉し続けるのが可哀そうになったようだ。

 そこで、最初の予定通り、こちらの国に送り届けると。

 5日後にはこちらに着くそうだ…。」


「陛下?何を言ってるんですか…?

 俺にはもうローゼリアという妻がいますけど。」


何を言ってるんだと思っていると、真っ赤な顔した公爵が叫ぶように俺に告げる。


「それは違うぞ、隊長!

 ジュリア王女との結婚は二国の王が認めた結婚だ。

 それに我が国の貴族は重婚は許されていない。


 …つまりだ。お前とローズの結婚は無効になるんだ。」


「はぁ?」


「すまんな、ジーク。

 これは俺にもどうにもならん。

 ジャガルアド国王の要求をはねのけたら、関税も元に戻されるし、

 他の報復だってあるだろう…。

 ジュリア王女との婚姻証明書は残っているし、そのままなんだ。

 ジークとローズの結婚は…なかったことになる…。」


申し訳なさそうな陛下の顔に、本気でこの話をしているのだと気づく。

俺とリアの結婚が無効…嘘だろう?

ジュリア王女と結婚…いや、そんなことできるわけがない。

近衛騎士の仕事を辞めたとしても…断る。


「無理です。

 俺は…ローゼリア以外と結婚することはできません。」


「王命だ。」


「それでも、無理です!」


「…はぁぁ。残念だよ。ジークフリート。」



軽く手をあげた陛下の指示で、俺の周りを近衛騎士たちが取り囲む。

俺の部下だったはずの騎士たちに剣を向けられて…何も言えなくなる。


「隊長…頼みます。

 このままおとなしくしていてくれれば、部屋での幽閉ですみます。

 抵抗されたら、牢につながなければならなくなります。

 お願いですから、そのままおとなしくしていてください!」


涙目の副隊長にそう言われ、仕方なくそのままついていく。

こいつらだってしたくてしているわけじゃない。

無駄に抵抗しても意味がない…今は従うしかなかった。

王宮の客室の一つに押し込められ、鍵をかけられる。


俺の屋敷の自室よりも広い客室に一人閉じ込められ、

なんともしがたい無力感に襲われる。

おそらくリアと別れることを承諾しない限り出してもらえないのだろう。

もちろんそんなことを承諾する気はないけれど、

この部屋から出してもらわなければリアに会うことすらできない。


「…リア。」


俺は…どうしたらいいんだ。

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