第33話 公爵の企み

「おかしいと思って調べてみたら、

 あの家は子どものものを一切用意していないのです!」


「祈願しておらんのか!?」


貴族の結婚とは子どもを作ることである。

そのため、結婚と同時に子どものための布地や寝台を用意し、

神に子どもを授けてくれるように祈願するのが普通だ。

それを一切用意していないというのは祈願していないということになる。

結婚してもう一年もたつというのに、祈願すらしていないとはどういうことだ。

どの家でも結婚したらすぐに用意し祈願するはずなのに。

ジークフリートの子種がないというよりは…白い結婚の方が可能性が高い。


「あの二人は夫婦になっていなかったのか?白い結婚だと?」


「そうです。祈願すらしていないということは、そういうことでしょう。

 あの男はローズをかくまっているつもりなのかもしれません。

 ローズが幼いころから父親のように可愛がっていたという噂です。」


「…そういうことか。」


ジークフリートは、昔から女性にあまり興味の無い男だった。

前の近衛騎士隊長がジークフリートを可愛がり、

騎士団に入団当初は娼館にも度々連れて行ったと聞いた。

だが、どんな女が好きかと聞かれても特にないと言い、

一度抱いた娼婦を次に指名することも無い。

他の騎士たちと一緒に行けば、自分は最後に余った娼婦で良いという。


それに、問題なのは娼館での態度だけではなかった。

近衛騎士はあこがれの職業で、結婚相手としての人気も高い。

それなのに王宮内の侍女や令嬢たちに言い寄られても一切応じることは無く、

仕事中に無駄話をすることも無い。


そんなジークフリートがローズにだけ優しいのは知っていた。

幼いローズのことが自分の子どもみたいに思え、

守ってあげたくなるのだろうと他の騎士たちは言っていた。

いつも大人びているローズもジークフリートには甘えていたらしい。

お茶会でのジークフリートの仕事は王子の護衛担当だったが、

最終的にはローズの護衛担当になっていた。

将来の王子妃につける護衛騎士にしてもいいかもしれないと考えていたくらいだ。



そんなジークフリートが、

あんな事故みたいな婚姻を素直に受け入れるとは思わなかった。

だけど、それがローズを守るためだったとしたら納得する。

娘と暮らすように屋敷でのんびり暮らしているのなら、

ローズを働かせずに好きにさせているのも当然だった。


まさか一年も気が付かないまま騙されていたとは…。

もしやあの誓約もローズを守るために二人で企んだことなのか?

…あの時すぐに気が付いていれば防げたかもしれないというのに、

何も手立てもなく婚姻させてしまったことが口惜しい。


「陛下。このままではこの国の損失です。

 あの才能を受け継ぐ子どもが生まれないなんて、ありえません!」


いつも以上に強気な公爵に押され気味になりながらも、

まだ冷静さが残っていたのか、自分に言い聞かせるように反論する。

気持ちはわからないでもないが、感情だけで動くわけにはいかない。


「公爵、だけど、これが白い結婚だとしても別れさせることはできないぞ。

 もうすでに王印まで押して認めてしまっているものを、

 どうやって別れさせるというのだ。」


「大丈夫です。私が考えた良い手があります。」


「なんだと…?」


「これなら、確実に別れさせることができます。」

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