新しい試みだぜぇ!

「あら、どこか行くの?」

「ちょっと友達の家に」


 それだけ行って俺は家を出た。

 今日はもう朝から色々とビンビンだぜってくらいに元気いっぱいで、俺は茉莉の家まで駆け足で向かうのだった。

 ただちょっと失敗したなと思ったのが今が夏であり、こうしてゆっくりであっても駆け足で移動すると汗を掻くということだ。


「……大人しく歩くか。幸い風も吹いてるし着く頃には何とかなるだろ」


 そこまで凄い量の汗を掻いているわけではないので心配しすぎかもしれないな。

 その後、俺は逸る気持ちを何度か抑え込みのんびりしたくないのにのんびりしながら歩くのだった。


「えっと、この辺で良いか」


 実は直接家に来るのではなく、ある程度近くに来たら電話で教えてくれと茉莉からは伝えられていた。

 茉莉に電話を掛けると彼女はすぐに出てくれたので、俺はもうすぐ家に着くことを彼女に伝えた。


『分かった。待ってるね?』

「おう」


 女の子からの待ってるねほどテンションの上がる言葉はない。

 そのまま彼女に家に着き、インターホンを押すと中からバタバタと足音が聞こえてきた。

 ガチャッと音を立てて扉が開き、私服姿の茉莉が姿を現した。


「いらっしゃい甲斐君」


 可愛い笑顔と薄着の上からでも分かる膨らみ……ヤバい、もう俺の中の何かが弾け飛びそうだった。


(……やっぱり良いなぁ茉莉は)


 俺が今日彼女に声を掛けたのは色々と発散したかった意味合いが大きいが、やっぱりこうして彼女と会える時間というのはとても良いモノだと思う。

 別にこれが彼女に抱く特別な感情かと言われれば首を捻るものの、色々と催眠での初めての相手ということが大きいのかもしれない。


「あら、あなたは……」

「あ、どうもです」


 そんな時、リビングに続くドアから現れたのはおそらく茉莉の母親だ。


「……良いねぇ」


 おっと、つい声が漏れてしまった。

 茉莉を生んだ母親ということもあってかなりの美人で、おまけに胸も大きいという素晴らしい素材の宝庫である。

 ただ俺の母さんと同じくらいの年齢だと考えるとちょっと……うん、やっぱり母親という肩書を持った人はダメだな。


(そもそも旦那さんっていう相手が居るわけだし、相手が居る女に手は出さない。催眠の使い手としてそこは守らなくてはなるまいよ)


 それが俺のポリシーだぜ、なんてことを考えていたらそこそこ強い力で茉莉に手を引っ張られた。


「早く行こう」

「あ、あぁ……」


 茉莉の母とすれ違う瞬間、俺は小さく頭を下げて通り過ぎた。


「……ふむ」


 茉莉の部屋に向かう中、俺は今のことについて少し考えてみた。

 既に幼馴染とのことは決着が付いているはず、だからこそ家族との微妙な関係も改善されたと思っていた。

 ただ、幼馴染の言うことだけを聞いていた家族に対して複雑な気持ちを持っているとも茉莉は言っていたのでそれが今のような感じか。


(こればっかりはどうもな……家族とは仲良くしろ、なんて簡単に言えるけど茉莉がどう思うかが問題だしな)


 取り敢えず現状で茉莉と家族の為に出来ることはなさそうだ。

 とはいえ、そんな考えていたことも部屋に入った瞬間にどうでも良くなった。


「催眠!」

「あ……♪」


 茉莉の部屋に入った瞬間、俺は速攻で催眠アプリを起動した。

 俺の手を取ったままの茉莉はその状態でボーっとした状態になり、俺のことしか見えてないとでも言いたげにジッと見つめてくる。


「……っとそうだ茉莉。ちょっと汗掻いたんだけど臭ったらごめん」

「気にしないよ。というか私、甲斐君の匂い好きだし」

「ほぉ?」


 なら気にすることはないな!

 俺は茉莉の体に抱き着き、そのままいつも通り好き勝手するかの如く彼女の体を触り始めた。


「俺さぁ……今日をめっちゃ楽しみにしてたんだよ。もうこの柔らかさに触れてないとダメだわ俺」

「そうなの? でも私も同じ、甲斐君に触ってもらわないとダメになりそう」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!!」


 もう俺たち両想いじゃん催眠限定だけどさ!


「甲斐君キスして?」

「もちろんだ」


 その場に座り込み、俺は足の間にすっぽりと収まる茉莉を背中から抱きしめた。

 そのまま彼女の豊満な胸元に指を這わせながら、顔だけを後ろに向けた彼女に応えるように唇を重ねる。


「この体勢凄く好き」

「そうか?」

「うん。背中に甲斐君を感じて、そんな甲斐君から体を触れられて、それでそんな幸せの中でキスをするの……こんなのいつもしないと満足できない体になっちゃう」


 ずっと思っていたことだけどこの子可愛すぎるだろ。

 というか最近本当に思うようになってきたこと、それは茉莉だけでなく絵夢も才華もこんな姿が増えてきたのだ。


「……ちょっとマズいんだよな」

「何が?」

「何でもない。ふはぁ♪」


 茉莉に体をこちらに向けてもらい、俺はその胸元に顔を埋めた。

 顔全体に伝わる柔らかさを感じながら、俺は茉莉に誤魔化したさっきのことを改めて考えるのだった。

 ちょっとマズイとそう言った意味は彼女たちの仕草にタガが外れそうになることを意味し、戒めていた本番行為をしてしまいそうになるのである。


(特に才華なんて本当にアピールが凄いんだよ。そもそも秘められていたエロさが解放されているのもあるけど、俺が何をしても喜んでくれるって思わせられるくらいに才華は求めてくるんだよな)


 もうね、この戒めを解いて欲望を解放しても良いんじゃないかって思ってしまう。

 それでもやっぱり一番最初ってのは大事なモノっていうし、それを催眠アプリを使う卑怯者の俺がってなるんだよな……マジで今やっていることくらいなら何も抵抗がないのに、その一線だけ馬鹿真面目に守っている俺って意気地なしだ。


「ねえ甲斐君、しても良い?」

「任せた。つっても数日振りだから凄いぜ?」

「大丈夫。全部もらうね」


 ……あなたはサキュバスですか?

 そう言ってしまうほどの妖艶な表情だったが、後はもう彼女に任せることにするのだった。

 その後、茉莉の手によって賢者バフを獲得した。


「結構変な味がするんだな?」

「良い匂いでも味でもないとは思うけど……でも凄く興奮した♪」


 俺の腕をガッシリと抱きしめる彼女の言葉に、俺は先ほどの光景を思い出す。

 漫画の知識ではあったのだが、床が綺麗な茉莉の家ということで今日初めて俺は彼女と共に六と九を合体させたアレを試してみた。


「また、したいね?」

「……おう」


 アレは今までと全く違う何かだったが、だからこそ凄かった。

 あの姿勢で吸い出される感覚をまた味わってみたい、そう思わせるあの体位を考えた人は天才だと思う。


「茉莉、ちょっと離れてもらえるか?」

「嫌だ。今日はずっとこうしてる」

「……あ~」


 俺の腕を茉莉は断固として離すつもりはなさそうだ。

 冷房が程よく効いていてこの温もりが何とも心地良く、俺としても離れてほしくはないなと考えてしまった。

 だがこの状態で催眠を解くわけにもいかないので……俺は心を鬼にして何とかはなれてもらうことに成功した。


「どうして離れる必要が――」

「あるんだよ催眠を解くために」


 この段階で催眠を切った。

 すると茉莉は一瞬ポカンとした様子で周りを見渡し、また俺に視線を戻してにへらと笑った。


「どうした?」

「ううん、凄く良い気分だから。でもちょっと新鮮だね。こうして休日の朝から甲斐君が来てるなんてさ」

「そうだなぁ。でもまだ緊張してるぞ俺は」

「ふ~ん?」


 何を思ったのか、茉莉はえいっと声を上げて俺に飛びついてきた。

 そのままクッションの上に背中を倒す形になり、俺は呆然と茉莉を見つめ返すことしか出来なかった。


「どう? 驚いたかな?」

「……まあ驚いたけど」

「緊張は解けた?」

「あ、そういうこと? その緊張の解かし方は新しいな」


 でもこの美少女に押し倒されるような形……悪くないねぇ。

 茉莉のおかげで何とか緊張が少し解けた俺はいつもの調子を取り戻したものの、思いっきり大きな欠伸をしてしまった。

 実は昨日、今日のことを想像しすぎて深く眠れなかったのだ。


「眠たいの?」

「少しな」

「また膝枕してあげようか?」


 茉莉さん、眠たい男に対してその言葉は誘惑以外の何者でもないぞ?





「……あ、もう寝たんだ」


 自分の膝の上で眠った甲斐を見て茉莉は微笑んだ。

 鼻が詰まっているのか少しいびきを搔いているのも微笑ましく、本人は恥ずかしがるだろうが茉莉にとってはジッと見ていたい光景だった。


「前もあったねこういうの。ねえ甲斐君?」


 眠り続ける甲斐をジッと見つめていた茉莉だったが、ふとテーブルに置かれた甲斐のスマホが震えた。

 近くだったのでわざわざ身を乗り出さなくても見えてしまう距離だったが、その画面に浮かんだのは不思議な文字だった。


「……なに?」


 甲斐のスマホに映っていた文字、それをしっかりと茉莉は見た。






“彼にもあなたの記憶にも残らない時間、けれどもあなたの望むことを一度だけ経験させてあげましょう。さあ、画面に触れなさい”

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