探偵とは
でずな
○○とはなんだ?
探偵とはなんだ?
その突拍子もない疑問は言葉を紐解けばすぐわかる。
死体とはなんだ?
その残酷とも言える疑問は言葉を紐解けばすぐわかる。
容疑者とはなんだ?
その謎を生む疑問は言葉を紐解けばすぐわかる。
こうして全てに対して疑問を呈することで、疑問は疑問ではなくなり真実となる。
その真実を生み出すためには粗、すなわち分岐点を見つければすぐわかること。
探偵であるためには常に考え、人のことを観察し、言葉をちゃんと理解しなければいけない。
――さぁ、上記を踏まえて話を進めよう
探偵である通称、探偵くんはいつも仕事に飢えている。今日仕事がなければ、明日食うメシもないという果てしなくカツカツで極限状態。
死体である通称、死体くんはいつも死に飢えている。死ぬ寸前に来る快楽の虜となり、殺される願望がある異常者。
容疑者である通称、容疑者くんはいつも血の気に飢えている。片手にナイフを持っていて、服の内ポケットには大量のカッターが仕込まれている。人を刺すことによって快楽を感じ、生を実感する狂人。
この三人はその人柄に合わず、仲が良かった。お互いの利害が一致いていた、と言うのもある。
死体が容疑者くんによって死体になって、探偵くんが偽の容疑者を釣り上げ依頼主から金を巻き上げるという新手の詐欺。
詐欺を繰り返し、三人は退屈な日々を少しだけ刺激的なものにし過ごしていた。
だがそれはすぐ終わりを迎えた。
普段から使っていた探偵くんのオフィスで、死体くんが本物の死体になってしまっていた。
本物の死体を目の前にし、本物の謎を目の前にし、探偵くんは喜んだ。これこそが探偵のするべき仕事なのだと。
喜び歓喜したあと、探偵くんは依頼を受けておらず金は入ってこないがすぐ仕事に移った。
刺された傷はナイフとカッター。それに側頭部への打撃。青紫色の痣が顔中に。
探偵くんはその死体の姿や机や椅子が散乱しているオフィスを見て、乱闘し死体くんは死んだのだと結論付けた。
そしてその死体くんの刺し傷を見て殺したのが、容疑者くんとはないかということも。
なるほどなるほど。と状況を確認している中、探偵くんのいるオフィスに容疑者くんがやってきた。
容疑者くんは死体くんが本物の死体になっていたのを見て、開口一番知らなかったかのように『死体じゃん』と唖然とした顔で言った。
これには自分の推理が間違っていたのか、と探偵くんは驚き。
その反応を見て容疑者くんも驚き。探偵くんの推理を聞いたあと、さらに容疑者くんは驚いた。
驚きの連発の中、容疑者くんはここ最近オフィスには来ていないという告白。探偵くんはそれを踏まえて、再び推理を始めた。
オフィスの鍵は死体くん、容疑者くん、そして探偵くんの三人しか持っていない。そこで死体くんをオフィスで殺せるのは、容疑者くん以外となる探偵くんになる。
いや待てよ。と探偵くんはある可能性を考えた。
それは、以前どこかで金を巻き上げた人間が復讐に来て死体くんのことを殺したという可能性。
探偵くんはきっとそういうことだ、と思い込みそれとなく容疑者くんに言うとそれはない、と断言された。どうやら容疑者くんは、今まで関わってきた人達全員を殺していたらしい。
これで再び推理は振り出しに戻ってしまった。
何者かと乱闘し、殺された死体くん。
その容疑者としてあげられるのは、容疑者くんと探偵くん。
死体くんは死ぬことで快楽を味わうことができる。
死ぬというのは語弊があり、正確には少しの間心肺停止になり死んだと判定されることが快楽に繋がる。
そんな異常者死体くんは、ある日殺された。
死体くんも誰に殺されたのかわからなかった。突然、視界を奪われ殴られ刺され殺されたのだ。
死体くんは喜んだ。本当の意味で死に、とんでもない快楽を味わうことができるのだと。
だが実際は違った。痛くて、苦しくて、死ぬ寸前死にたくないと人間としての本能が叫んでいた。
そんな死体くんはもう本当の意味で死んだ。
死体くんは今、幽霊になって自分の死体のことを観察している二人のことを上から見下ろしている。
探偵くんはいつものように推理をして、容疑者くんはいつものように容疑者のように立ち回っている。この中に絶対に殺した犯人がいる、と死体くんは思っている。
死体くん元い、幽霊くんが探偵くんのように推理を巡らせているとふと疑問に突き当たった。
その疑問は単純明快にして、シンプルな疑問。
なぜ、探偵くんと容疑者くんは本物の死体になった自分のことを悲しんでくれないのか? ということ。
死体くんは死を目前にして快楽を覚える異常者なのだが、二人よりは人の心をもっていた。
普通周りの人が、ましてや仕事仲間が死んだのなら、少しくらいは悲しんだり惜しんだりするものなんじゃないかと。
だがそんなこともされず、ただの自分のやりたいことを突き通す二人を見て悲しくなった。
幽霊くんはもう推理なんてどうでもよくなった。
ただ自分という存在がいなくなっても、誰にも気にも止めてくれないのだと虚しくなった。
容疑者くんは死体くんのことを殺した犯人を知っている。犯人は探偵くん。殺したところを見たのではない。ただ、片手にナイフを持っていて服に返り血がついているのを見て推測したこと。
殺しのプロ、容疑者くんは推測を推測で終わらすような男ではない。自分がいつか殺そうとしていた男を殺され、内心火山が噴火したかのように怒っていた。
容疑者くんは自分が殺したというのに、誇らしげに推理を披露してくる探偵くんにとうとう切り出した。「その返り血はなんなんだ?」と。
おどおどした返事が帰ってくると思ったが、全く違かった。なんと探偵くんは「なんだろ、これ?」とすっとぼけたのである。
なんとしてでもボロを出させようと、容疑者くんは続けて手に持っているナイフも指摘した。
返ってきた返事は「知らないよ、こんなの」との一点張り。
探偵くんらしくない、素っ頓狂な顔を目の前にして容疑者くんは呆れて言葉も出てこなかった。
探偵くんは探偵なのだろうか?
探偵くんは容疑者くんから次々とあたかも自分な容疑者かのように指摘され、自分自身を疑った。
たしか自分が死体くんと最後に話したのは、このオフィスだったと思い出しだした。だがその後の記憶が靄がかかっているかのように、思い出せないことに苛立ちを覚えた。自分は探偵で、記憶力がないなんてありえないだろうと。
容疑者くんから何故苛立っているのか聞かれ、すべて話した。
最初はふむふむ、と真面目に話を聞いてくれていたのだが徐々に見る目が変わり、やがて、鬼を見るような怯えた目に変わった。
「近づくな!」と叫ぶ声。
探偵くんは意味がわからなかった。自分が避けられる対象になることに。探偵はどの立ち位置にいても味方だと探偵くんは思っていた。それを身近にいた人に裏切られ、放心状態になった。
自分が持っているナイフ、返り血、手にいつの間にかできたささくれ。この全てを死体くんに当てハメ、紐解けば、自分が殺したというのは明白。
探偵は謎を解くのが仕事。
殺害した動機。それは仕事への不満。おそらく、殺すつもりはなかったんだろう。殺してしまった衝撃で、自分の記憶に蓋を閉じてしまったんだろう。
探偵である自分が、自分の有罪を推理していくのはなんという皮肉なのかと探偵くんは苦笑した。
顔をあげるとそこには、両手に刃むき出しのカッターを握っている容疑者くん。
探偵くんはすぐさま自分がどうなるのか悟った。故に笑顔で、顔がぐしゃぐしゃになっている容疑者くんのことを見上げ一言。
「探偵とはなんだ?」
それが最後の言葉になり、少し前まで綺麗だった探偵くんのオフィスは真っ赤に染まり、死体が3つ出来上がった。
探偵とは でずな @Dezuna
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