第48話 理知と鮮やかさを結い加える⑯

 入学して一ヶ月程度で高校にもまだ不慣れな自覚が残る大型連休中。オレ自身には特筆すべきことはなかった。強いて挙げるならスマホを閲覧する時間と、テレビに関心を持ち眺める時間が伸びたことだろうか。

 何故なら大体一週間くらい、顔見知りで同級生でクラスメートである閑谷が映された写真が大々的に掲げられ、SNSや帯番組ではひっきりなしに報じられていたからだ。


 最初に気付いたときはもう驚きすぎて逆に驚くことすら忘れてしまったというかなんというか。あれが本当にあの閑谷なのかと、呆然と画面の向こうにいる彼女の写真を直視していた。

 しかもそれはオレの代わりを請け負ってくれた際の、本人の弁を引用するなら探偵役をこなしていたときの一枚。自称フリージャーナリストが撮影したとされる、まるで犯人に向けて指差したような、愛らしくも凛々しい佇まいの閑谷が被写体で、世間ではのちに『愛凛の一枚』と呼称された写真。


 どうやらSNSにて公開された当初は純粋に閑谷の美麗さが目に留まり、冗談とは言え決めポーズを放っていたことから、どこかのアイドルかタレントなんじゃないかと少数ユーザーが独自で調査を行なっていたらしい。


 するとすぐに制服姿から探波第三高校の生徒だと判明……厳密には特定だ。その後に別のSNSアカウントの証言で、多分探波第三に通っている女の子みたいだけど、街中でのちょっとしたすれ違いを理路整然と解決していて探偵みたいだった。という、ニュアンスで発信された、オレと閑谷と同じ現場に居合わせた人物の投稿が発掘され、追随するように続々と肯定の意見までが散見されたことに加え、閑谷の決めポーズとされていたものが探偵のような格好に見えなくもないという他者の視点に共感するユーザーが殺到。リアル高校生探偵と大きな話題になり、注目度も日に日に増す。


 この頃になると閑谷は一般人であるのにも関わらず、姓名が割り出されたときに数いる有名人を差し置いてSNSのトレンドに単独で名前が載る。連鎖的にテレビやインターネット番組にまで派生し、閑谷のことを『話題の美女高校生探偵』、『実際に事件を解決した才媛』、『親戚に本物の探偵がいるサラブレッド』、『アイリンの少女』など、紹介の仕方こそ当時は各所でバラバラではあったが、連休中は比較的平穏だったこともあり、彼女の魅力を余すことなく連日報じ続けた。


 内容は閑谷の高校にインタビューを敢行したり、事件解決の現場である商店通りをまるで聖地のように扱ったり、余波としてミステリー小説の売れ行きが好調になったり、ビデオオンデマンドのランキングでミステリー作品が上位独占という探偵に絡めた特集も組ままでに至る。閑谷本人が表立って出演することはなかったが、周りが勝手に過熱し、空前の探偵ブームが到来しようとしていた。


 するとある日。紛うことなき美少女で知的な才女であり、探偵のサラブレッド、過去のミステリー作品への影響力、『愛凛の一枚』というてんこ盛りの売れ要素を持つ閑谷を逃さまいと芸能事務所からは所属依頼、CM撮影やバラエティーへの出演依頼がひしめく。事務所、テレビ局、各企業の広告担当などが水面下で閑谷の争奪戦を繰り広げていると報道されていた。ちょうど大型連休の最終日辺りだったと記憶している。


 そして連休明け初日の探波第三高校の生徒は当然、同高校に通う閑谷の話題で持ち切りだった。校門をくぐり、オレが教室に着いてもなお周囲の雑踏は留まることを知らず、挙句の果てには他クラスや上級生が閑谷を一目みようと大混雑を起こしていて、まともに着席するのも一苦労な状態に陥る。

 ただ事前に予想出来ていたせいか、教師陣が総動員して閑谷のクラスと無関係の生徒を自クラスに帰るよう迅速に促していたおかげで、ホームルームや授業が開けないなんていう致命的な状況にまではならずに済む。


 でも当日、渦中の閑谷は登校しなかった。

 更に言えば校外学習の日も欠席を余儀なくされ、二週間くらい高校に顔を見せることすらなかった。

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