第12話

 屋敷の一角に、医療施設があった。

 医者はもちろん、機材も揃っている。

 三人の令嬢は、それぞれ個室で休んでいた。


 最初に訪ねたのは、コラレ・ベネレッタ子爵令嬢。淡いピンク色の髪に赤い瞳の彼女は、大人しそうな感じの女性だ。

 僕らが訪ねていくと、ブルブルと震えていた。


 「そ、そこまで怯えなくても大丈夫ですよ」


 アーバンさんが言うも彼女は俯くだけだ。

 ぞろぞろと来たからだろうか。でもさっきの半分だ。僕とアーバンさん、それに案内役にイマール。他の者は、父さん達と一緒に部屋に残った。ポールアード伯爵もね。早く彼を警察署に連れていく為には、早急に彼女達から聞き出さなくてはいけない。


 「ご協力をお願いしに来ました。このオーブに手を乗せて、僕の質問に答えるだけです」

 「そ、それってもしかして、マコトのオーブ……」


 そうだと僕は頷く。


 「うううう……」


 って、泣き出したんだけど!

 僕は、どうしたらとアーバンさんに振り返るも彼も困り顔だ。


 「本当の事をおっしゃって結構ですよ。私もお話致しましたから」


 体をビクッと震わせ、チラッと声を掛けたイマールを彼女は見た。そして、こくりと頷く。

 やはりイマールも加担している。

 コラレ嬢は覚悟を決めようで、オーブに手を乗せた。


 「では、刑事部調査室アーバンが見届け人を引き受けた。ルトルゼン殿、あなたは毒殺未遂の件についてのみ質問できます。コラレ殿、その件については必ず答える様に、両者よろしいですね」

 「はい」

 「わ、わかりました」


 僕は、チラッとイマールを見た。彼は、ポーカーフェイスのまま僕達を見ている。そこからは、何を考えているのか読み取れない。


 「あなたは、毒を飲みましたか?」


 僕は、シンプルに聞いた。

 倒れた真似をしたとしても、倒れた事には間違いない。だからさっき青く光ったんだ。彼女が毒を飲んでいなければ、姉さんの無実を証明できる。


 「の、飲みました!」

 「「え!」」


 オーブは、青く光った。嘘だろう。


 「ご、ごめんなさい」


 そう謝って、また彼女は泣き出した。

 何を謝ったのだろうか。姉さんの無実を証明できなかった事? でももし、毒を飲んだとしたら飲ませたのは、姉さんとなるのだから彼女が謝るのは不自然だ。

 では、イマールに対して謝ったのか。本当の事を言ってしまったと。いや、姉さんに罪を着せるつもりならこの答えであっている。

 だったら何を謝ったんだよ!

 もっと何かを聞かないといけないのに、聞けない。

 怖い。聞けば聞くほど、姉さんがクロで固められていく。


 「私は、そろそろ仕事に戻りますがよろしいですか?」

 「あ、待って。彼女は協力者とさっき言ったじゃないか!」


 僕は引き止めるのに、その言葉しか出て来なかった。


 「確かに。リサ様をご招待するのに協力して頂いたのです。了承頂いたと言い換えた方が正しいでしょうか」


 イマールが、僕らを見つめそう言った。そんな言い訳。でもこんな状況だと、それで納得するしかない。


 「ご協力ありがとうございました。もし何かあればまたお伺いいたします」

 「そうですか。やっと解放されましたね。しかし、何もかもオーブを通してだと、少々不愉快です。では、失礼します」


 な! 証拠として残す為に仕方がないだろう!

 でも、彼の言っている事もわからなくもない。ひと通り聞いてから確認したいところだけをオーブで聞いた方がいいのかもしれない。

 僕は、毒の事に囚われ過ぎていたのかも。

 そうだ。相手は人間なんだ。イエスかノーだけではない、答えもあるかもしれない。


 「もうオーブは、いいです」

 「言いたい事言って……え? 質問はもういいのか?」

 「いえ。お茶会であった事をお話いただけますか? いつもと違う事とか、本心とか言えるのなら聞きたいです」


 俯いて泣いていたコラレ嬢が顔を上げ、僕を見た。


 「は、話を聞いて下さるのですか?」

 「あ、うん……」


 話したかったの? もしかして、どうしていいかわからなくて泣いていた?


 「私の父は、ポールアード伯爵家と繋がりを持ちたかったのです。エリザ様と仲良くなって、それでお父様達の仕事の関係も上手くいっていたのです。いえ、そう思っておりました。ですが……」


 ギュッとコラレ嬢は、布団を握りしめる。


 「こ、告発があったとお父様が慌てふためいていたのです」


 それって、父さんが通報した件の事だろうか。そうか。そういう繋がりか。


 「でもポールアード伯爵家が何とかしてくれたと。恩を返さないといけなくなったと……。そして、前のお茶会でエリザ様にお願いされたのです。次回、クレット男爵令嬢をお呼びすると、そ、その時に……」


 そこで言葉を切りコラレ嬢は自分の腕を抱いた。


 「ゆっくりでいいですよ。話せる部分だけで」


 つとめて優しくアーバンさんが彼女に語りかける。それで少し落ち着いたのか、頷くとまた語り出した。


 「その時に、彼女に毒殺未遂の犯人になってもらうと」

 「え!」


 まさかこんな簡単に、聞きたい言葉を聞き出せるなんて! あれでも待てよ。それは実行されてないよね?


 「それは、今日実行されたの?」


 僕の質問に彼女は、そうだと頷いた。

 どういう事だろう。イマールとエリザ以外の者が毒を盛った? しかも姉さんでもなくメイドでもない人物が……。まさか、ポールアード伯爵とか言わないよな。


 「その毒は誰が入れたとか知っている?」

 「イ、イマールさんです」

 「「え!?」」


 ちょっと待って。辻褄が合わなくなった。いやオーブを使ってないから彼女が嘘を言っているという可能性もあるけど、ここまで来て嘘をいうか? というより、聞かれたらイマールと言えと言われていない限りこんな嘘は言わないだろう。


 「その時の状況を聞いていいかな? どんな作戦だったとか。一回目のお茶を入れたのはメイドなんだよね?」

 「はい。一杯目のお茶には、解毒剤が入っているので飲み干す様にイマールさんから言われました。二杯目はイマールさんが入れて、毒が入っているけど解毒剤を飲んでいるので大丈夫だと言われて。なのに舌が痺れて……ううう」


 恐怖だったのだろう。毒だとわかっていて飲んだのだから。

 でもやっぱり辻褄が合わない。シーダーさんの問いに毒を入れていないとイマールは答えている。なのに、彼女の話だと毒を飲んだと。


 「参ったな。これだと確かに予定ではイマールが入れる事になっていたが実際入れておらず、他の誰かが入れた事になってしまう。この場合、リサ嬢だという事に……」

 「そんなバカな!」

 「ごめんなさい。話を聞いた時に、イマールさんに言われたのです。別に断ってもいいと。その代わりポールアード伯爵家と一緒に没落を覚悟してくださいと。怖かった。今の生活がなくなる事が。修道院に行くか、冒険者になるしかなくなるって言われて」


 そんな脅し方って。イマールって見た目より残酷な人のようだ。

 他の二人にも聞かないと、そして手がかりを手に入れないといけない。姉さんを嵌めようとした事実があったとわかっただけで、姉さんはまだ毒殺未遂の犯人のままだ。

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