第2話

 その後、情報が入った。

 どうやらいつもの四人のお茶会に姉さんは呼ばれたらしい。お茶はメイドが入れたが、姉さんが途中で触った。その後、姉さん以外はおかわりをしたようだ。つまり二杯目に毒が入っていた。そういう事らしい。

 ティーポットに毒が入っていたので間違いないという。

 二杯目のティーポットに毒が入れられたのは確かだろうけど、そこでどうして姉さんがってなるんだ。毒は、蓋を開けないと入れられない。

 初めてお呼ばれされたお茶会で、陶器が珍しいからと見せてと言って見るか? いや見る事もあるかもしれないが、たいして仲もよくなく、姉さん一人浮いていたに違いない。そんな場面で見せてと言ってティーポットの蓋を開け中に何かを入れるって……。

 四人、いやメイドを入れたら五人の目がある。そこで堂々と毒を入れる?

 だけど伯爵令嬢が、姉さんがティーポットに触れ中に何かを入れたようだと言った。そこで、マコトのオーブを使い検証をし、彼女が言っている事が本当だと確証を得て姉さんを捕らえた。

 なのに、姉さんにはマコトのオーブを使っていない! そこが一番おかしい。真実を見極めるのに犯人だと思われる者に使わないと意味がないだろうに。それと、入れたかもと思った時になぜ、確認をしなかったんだ。


 毒自体は強くなかったらしく命に別状はないらしい。

 伯爵令嬢は、三人が口を付けた後に一口飲んだ。その時に、三人の具合が悪くなった為、三人より軽症ですみ、話をする事ができた。

 三人の令嬢は、ポールアード伯爵家の手配により治療中。


 はぁ。出来過ぎだろうに。

 ただ、相手の目的がわからない。

 姉さんは否定しているが、ポールアード伯爵家は、姉さんの婚約者カードン様が誘惑されたと勘違いし、逆恨みで毒を盛ったのではないかと疑っている。という話に持っていこうとしているが、これも苦しいだろう。

 何せ婚約が決まったのは、ほんの一週間前だ。父さんが、レドソン侯爵家と仕事上での打ち合わせで昼食を一緒にとった時に、僕が護衛兵になって姉さんが家業を継ぐ事になったという話を何気なくした事から、なぜかとんとん拍子に事が進んだ。

 どうやらカードン様が、姉さんに密かに思いをよせていたらしい。姉さんは、僕の二つ上で一七歳、カードン様は姉さんの一つ下の一六歳。年下の婿になるが、それでも父さん達は大喜びしていた。

 政略結婚だが、カードン様にすれば好きな相手と結婚できるのだから向こうも大喜びしているだろう。


 姉さんが惚れていたというのならポールアード伯爵家の言う通り、毒を入れる事もあり得ないとは言い切れないが、カードン様の方が惚れているのだから、ポールアード伯爵家の令嬢がいいよっても腹を立て毒を盛るという事はないだろう。不貞をするとは思わないからだ。

 だれが聞いても変だと思う。それに巻き込まれた三人の令嬢も気の毒だ。後は証拠。どうにかして、ポールアード伯爵家のエリザ嬢と姉さんの二人に同じマコトのオーブで検証して、真実を明らかにする必要がある。

 レドソン侯爵家に頼めば、それぐらいしてくれるだろう。ただ、レドソン侯爵家は、クレット家側になるので公平にかけると言い張るだろう。だから父さんが言ったように、冒険者ギルドのマコトのオーブを借り、冒険者ギルドの者が立ち合い、行うのがいい。

 彼らは、僕らが頼んだからと言って僕らに加担する輩ではないから。それは、ポールアード伯爵家もわかっているはず。


 後は、用意した後に検証させる様に上手く促すしかない。

 でも簡単にはいかないだろうなぁ……。

 何せマコトのオーブは、その場で確認する為に国が提供している魔道具だ。国が管理して配布している。つまり、勝手に作って使用しては行けない事になっている。そして、マコトのオーブを使って偽証した場合は、罪に問われる。

 今回、これに当たるだろう。マコトのオーブを改良いや偽のマコトのオーブ使った。だから伯爵令嬢にしか使わなかった。嘘を言っても本当の事を言っていると反応するように作ったオーブかなと思っている。

 不正をやろうと思えば簡単にできてしまうが、使えば使った記憶が残る。残るのは使ったかどうかで、判別は残らない。つまり他の者を騙すなら後で使っておけばいいだけだ。見届け人は中立な者となっているからその者を騙せばいいのだから。

 警察に突き出さないところを見ると、伯爵家で起きた出来事なので、内々に済ませたいと主張しているのだろうけど。いや警察に突き出せるわけがない。突き出せば、最終的にマコトのオーブを使われるからだ。

 まあマコトのオーブの欠点と言えば、本人が本当だと思っていればそれが真実でなくても嘘を言っていないとなってしまうところだ。だから勘違いさせたり、信じ込ませたりすれば、役に立たない魔道具なんだけどね。


 「ルトルゼン様」


 ノックと共に声がかかった。アンドだ。


 「何かわかった?」


 扉を開けると、アンドは神妙顔つきで頷く。


 「レドソン侯爵家と連携をとった仕事は、ポールアード伯爵家が力を入れていた仕事のようでした。だんな様が以前言っていた事があります。医療関係者がそれに関わる用品を横流ししているようだと」

 「横流し?」

 「はい。我が国の薬などを外国へ。その事を掴んだだんな様は、商業ギルドに報告しております。そこから医療ギルドに伝わり調査が入っているはずです。ポールアード伯爵家も加担している容疑がかかっておりましたが、証拠不十分で終わっています」


 それって逆恨み? でもそんな事でここまでするのか。三人の令嬢も巻き込んでいる。


 「ポールアード伯爵家もレドソン侯爵家と契約を結ぶ予定があったのですが、嫌疑が掛かった事により白紙になったようです」

 「なるほど。だったら向こうからしたら横取りされたって事か」

 「だんな様は、新しい事業に乗り出す際には、慎重に慎重を重ね検討した上で行います。その時に横流しに気が付いたのです。レドソン侯爵家がそれを知り、だんな様と契約してくださいました。状況的には、逆恨みで事を起こす可能性はございますが……」


 あまりにも浅慮な行動だ。マコトのオーブを姉さんに使えば真実がわかる事なのに。それとも何か秘策があったのか。


 「わかった。ありがとう。僕は、冒険者ギルドに行ってマコトのオーブを借りてくるよ」

 「はい。ですが……」


 僕はわかっていると、アンドに頷く。

 国が、マコトのオーブを無償で配布したのは、小さなもめ事はその場で治めさせる為だ。普通なら商業ギルドか医療ギルドに借りるだろう。だけど貴族って面倒で権力とか色々絡んで来る。後々の問題とか……。

 まあ今回、ポールアード伯爵家の自作自演だと証明できれば、男爵家についたとしても後々困りはしないだろう。けど、それを証明できなかった場合に困るだろうからなぁ。

 でもこっちだって後がない。毒を盛ったとなれば、爵位は取り上げられ姉さんは牢獄行きだ。もちろん父さんも。僕も就職先に困るだろうし……。

 ポールアード伯爵家が、我が家を潰しにかかって来たって事だ。

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