恐れ入りますが、剣と魔法のファンタジーではなく迷推理のお話となります。

すみ 小桜

第1話

 カキーン!

 僕は、背後からの攻撃を受け止め、攻撃してきた冒険者を睨みつけた。


 「っち」

 「どういうつもり!」


 彼が後ろに飛び退けたので、僕も距離を置く。

 やはり手を回されていたようだ。警戒していてよかった。そしてこれにより、僕の考えが当たっていた事が証明された事にもなる。


 「さすが剣術養成学校を卒業した貴族だけあるなぁ。じゃ後は、お一人でどうぞ」


 彼は、にやにやとして言うと走って逃げだした。来た道を引き返していく。

 ぽいと何かを投げつけ……って、爆弾か!

 慌てて僕は、伏せた。

 バンっという大きな音と共に、天井が崩れる音が聞こえる。


 「げ……」


 ちょっと細くなった道幅の所を爆破した為に、通路は塞がっていた。退路を断たれた。

 ここは、鉱山跡地で今やモンスターの住処となっている。しかも行き止まりの場所だ。


 「なるほど。殺さずとも閉じ込めろと言われたという事か……」


 何とか通れないかと爆破された場所をきょろきょろ見てみると、ここに探しに来た探し物が転がっていた。

 青黒く輝く石。魔石だ。


 「モンスターが住む様になって、鉱石が採れなくなった代わりに採れるようになった副産物か」


 魔石を回収し、僕は壁に寄りかかった。本来なら僕はこんなところには来る事はなかった。彼が言っていた様に剣術養成学校を今日・・卒業したが、専攻は護衛科。対人間の対策を教わった。もう一つの傭兵科は対モンスターだった。逆に傭兵科だったらここに一人で来られたかもしれないが、実践がないし向こうの希望でもあるので、どちらにしてもここに来るのに冒険者ギルドで仲間を募っただろう。

 もしかしたらとは思っていたけど、でもまあこれで何とかなるかもしれない。ここから出られればだけどね。





 今日僕は、国立剣術養成学校を卒業した。そこは、アルゾジール国の者なら入学金さえ払えれば、誰でも入れる学校だ。なので大半は貴族の息子が通う。金がない者は、冒険者にそのままなるのが一般的だ。

 男爵家の息子の僕も例にもれず、学校に入った。

クレット家は貿易商が生業だけど、茶色の髪と銀の瞳と見た目なら父さんと同じなのだが、僕には商売の才能が無いようなので、家業は姉に譲るつもりだった。頑張って良いだんな様を探してもらい、僕が護衛を行う。両親も最終的には、納得してくれていた。

 だから今日は、卒業のお祝いをしてもらう事になっていたのだが――。


 「おめでとう。ルトルゼン」

 「ありがとう、母さん」

 「リサもレドソン侯爵家のカードン様との婚約が決まり、ルトルゼンも無事学校を卒業出来て家も安泰だ」


 僕は、父さんの言葉にうんうんと頷く。

 三男とはいえ、かなり格上の相手が婿に来るなんてあまりない話だ。父さんの手腕の凄さが窺える。何でも仕事の腕を見込まれて、レドソン侯爵家と提携を結んだとか。僕には、そんな事はできないだろうな。


 「おめでとう、ルトルゼン。これは、卒業祝いの剣だ」

 「ありがとう、父さん!」


 僕は、父さんからシルバーに輝く剣をもらい、手にしたその剣を眺める。刃が納まっている鞘には、キレイな装飾が施され、よく見れば我が家紋が掘られていた。柄には握りやすい様に青い紐が巻かれている。また柄頭にも家紋があった。


 「特注品だぞ。おぬしがバッサバッサと斬って、うちの商品を宣伝してくれれば尚よいからな」

 「……バッサバッサって。そんなに狙われたらたまったもんもんじゃないと思うんだけど」

 「あははは。そうだな」


 トントントン。


 「失礼します、だんな様」


 珍しく返事を待たずに執事長アンドが扉を開けた。僕達は、何事かとそちらに目を向ければ彼は、青ざめた顔でこっちを見ている。


 「何があった?」

 「リサお嬢様が――」

 「失礼しますよ、クレット男爵。あなたの令嬢がお茶会で毒を盛った疑いがある。よってあなたも束縛させて頂きます」

 「な、なに!?」


 父さんが、驚いて立ち上がる。

 どういう事? 姉さんが毒を盛ったって?


 「何かの間違いだろう。リサがそのような事をするはずがない! なにより動機がないだろう」

 「それはこれから聞く。エリザ様が証言なさった。マコトのオーブにより真実だと証明されている。毒を彼女が手に入れるのに、父親であるあなたが関わっている可能性がある」


 エリザ嬢って確かポールアード伯爵家の長女で、今日お茶会に招待されて姉さんが行っているはずだけど、父さんの言う通りなぜそんな事をしなくてはいけない!? おかしいだろう。


 「待てよ! 勘違いじゃないのか! 婚約だって決まったんだ」

 「彼女だけ、毒を飲んでいないのも証拠になっている」

 「っは?」


 それって他の全員、毒を飲んだって事? それこそおかしいだろう。疑ってくれって言っているようなものだ。しかも、全員の茶に毒を入れないといけないじゃないか。


 「ルトルゼン。マコトのオーブを手配しろ。できれば中立の者から借りるのが好ましい。……例えば、冒険者ギルドとか」


 額にヒア汗をかき、自分をひっ捕らえに来た兵士を睨みつけつつ、父さんは僕にボソッと耳打ちした。

 兵士は、ポールアード伯爵家が雇った護衛兵だ。家紋を付けている。

 商売柄うちにもマコトのオーブはある。けどそれでは、疑いを晴らせないのだろう。

 だけど、冒険者ギルドって言われてもなぁ……。


 「来ていただこう」

 「わかった。娘は無事なのだろうな」

 「部屋に隔離されているが、まだ警察に突き出してはいない」


 それを聞き、父さんは安堵した様子だ。


 「あ、あなた……」

 「大丈夫だ。リサを無事に連れて帰って来る」

 「アンド、後は頼んだ」

 「はい。だんな様」


 大人しくついて行く父さんの後ろ姿を僕は見送る事しか出来なかった。相手は、伯爵家だ。上手くやらないと、白も黒にされる可能性がある。いや、そうするつもりだろう。だけど、一体何が目的なんだ。


 「奥様、私は明日からの段取りをしてまいります」

 「はい。お願いしますね」


 アンドが、部屋を出て行った。仕事の打ち合わせだろう。


 「どうしましょう」


 茶色い瞳に涙を浮かべ、母さんが俯く。赤茶の明るい髪の様に普段は明るい母さんも、ズーンと暗い顔つきだ。


 「母さん、姉さんってポールアード伯爵家と仲がよかった?」

 「いいえ。仲が悪いわけでもありませんが、リサは反りが合わないと距離を置いていたのですが、ご招待頂いて。初めて伺ったのよ」

 「は、初めてか。そこで毒を盛るとか……」

 「するわけがありません!」

 「いや、そういう意味じゃなくて。普通はやらないだろうという事だよ。はめられたと言いたかったんだ。ただ、姉さんがそこまで嫌われる理由って何かなって」


 姉さんがやったのではないのは確かなのだから。

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