第11話 改めての自己紹介
「あー……えっとー……」
先ほど自分たちが戦っていた相手は何だったのかと、ポニーテールの彼女にたずねられ、答えに
魔物だと端的に言ってしまえばそれまでなのだが、おそらく彼女は魔物についての情報も持ち合わせてはいないだろう。魔物の
どう説明したものかとユキトが思案していると、
「ユキトー!」
と、アリスの声が広場の入口方面から聞こえてくる。
その瞬間、たれていたユキトのうさぎ耳がピンと立った。
視線を向けると、アリスと猫耳少女が駆けてくるところだった。
「アリス! その子も。本当に無事でよかった」
合流した二人の様子に、ユキトがそうホッとした表情で告げた。
「私たちはなんとか。ユキトたちは? けがしてない?」
と、アリスが矢継ぎ早に問う。
そんな彼女の様子にユキトは苦笑して、
「俺たちも大丈夫だよ」
落ち着かせるように言った。
「よかったー」
と、心底、安堵したようにアリスは息をついた。どうやら、相当、気を張っていたようだ。
「まさか、俺がやられるとでも思ってたのか?」
からかうようにユキトが言えば、
「そんなんじゃないわよ。ただ、あんたが大けがしたら、治療するのが私しかいないなって思ってただけ」
と、売り言葉に買い言葉で応酬するアリス。
だが、二人ともどこか安心したような笑みを浮かべている。
先ほどまでの緊張感がゆるみ、穏やかな空気が四人を包んだ。
「あ、あの……」
おずおずと猫耳少女が声をあげると、三人の視線が彼女に集まった。彼女の視線は、真っ直ぐにユキトをとらえている。
「えと……助けていただいて、ありがとうごさいました」
猫耳少女は、深々と頭を下げて礼を告げる。
「どういたしまして。でも、それは俺よりこっちの人に言ってあげて」
と、ユキトが言うと、猫耳少女はポニーテールの彼女に向けてもう一度礼を言って深々と頭を下げる。
「礼なんていいよ。あんたたちが無事だったんだ、それだけで充分さ。それはそうと、あいつは何だったんだい?」
ポニーテールの彼女はそう言って、先ほどユキトにした質問を口にした。
「魔物です。クーレル・アルハイドっていう悪い奴が、魔法で作ったものなんです」
と、アリス。
魔物は自然界にはいないこと、
「へえ、魔法だから死体が残ってないのかい。なるほどねえ」
アリスの説明に、ポニーテールの彼女は納得したようにつぶやいた。
「それにしても、さっきの銃さばきはすごかったな! ねえ、お姉さん。その銃って特別なものなの?」
ポニーテールの彼女の豊満な胸には目もくれず、少々、興奮ぎみにユキトがそうたずねる。
「いいや、ごく普通の拳銃だよ。弾は、あたしの魔法で作り出したものだけどね」
そう答えてから、ポニーテールの彼女ははたと気がついたように、
「そういえば、まだ名乗ってなかったね。あたしは、ジェイク・カラントっていうんだ」
今更だけれどよろしくと、三人に笑顔を向ける。
ユキトとアリスが彼女にならって自己紹介をすると、自然と猫耳少女が取り残される形となった。
三人の視線が、小柄な少女へと注がれる。
注目されることに慣れていないのか、おどおどしながらも、彼女はララ・ルートヴィアと名乗った。
「さて、自己紹介も終わったことだし、これからお茶でも飲みに行かないかい?」
と、友人を誘うようにジェイクが提案した。
「え、いいの!?」
ユキトが目を輝かせて食いつくと、
「ちょっと、ユキト!」
と、アリスがたしなめた。
ララはというと、濃いめのオレンジ色の瞳をまん丸にさせて、戸惑いの表情を浮かべている。
「ああ、金のことは気にしなくていいよ。これでも、それなりの収入はあるからね」
ジェイクは、アリスとララが気にしているであろうことについて先回りして告げた。
「えっと……そのお誘いはうれしいんですけど、助けてもらったうえに、ごちそうになるのはちょっと……」
悪い気がしてとアリスが言うと、ララも控えめにうなずいた。
白いうさぎ耳をたらしたユキトは、むすっとした表情でそんな二人を軽くにらみつける。
「そんなこと、気にしなくていいんだよ。あたしが、あんたたちを連れて行きたいだけなんだから」
余計な気は使わなくていいと、ジェイクが苦笑しながら告げた。
顔を見合せたアリスとララは、ほぼ同時に笑顔でうなずく。そういうことならと、ジェイクの厚意を受けることにした。
もとよりジェイクの誘いを断る気がなかったユキトは、うさぎ耳をピンと立たせて子どものように満面の笑みを浮かべる。
「それじゃあ、行こうか」
と、ジェイクは三人を連れて広場をあとにした。
商店街に戻った一行は、回復しつつある喧騒を聞きながら路地裏へと入っていく。しばらく歩くと、周囲は住宅街へと変わっていった。落ち着いた色合いの住宅を数軒ほど通り過ぎた時、鮮やかな建物が目についた。目的地のカフェである。
淡いオレンジ色の壁にチョコレート色の屋根が特徴的なそのカフェは、とても目立っていて周囲から浮いているように見える。けれど、悪目立ちしているわけではなくて、かわいいという言葉が似合う外観だった。
(……俺一人じゃ、絶対に入れないな)
なんとなくだが、そんなことを思ったユキト。彼がそう思ってしまうほど、目の前の建物は女性陣が好きそうな雰囲気を醸しだしている。
ちらりとアリスを見ると、青い瞳を幼い少女のようにきらきらと輝かせて期待に満ちた表情をしていた。
ジェイクがチョコレート色のドアを開けると、ドアベルが軽快な音を響かせる。
「いらっしゃいませ」
と、店の奥からかわいらしいウエイトレスが、一行を出迎えてくれた。
「あら、ジェイクさん。今日はお一人じゃないんですか?」
「まあね。奥の席、空いてるかい?」
「はい、もちろん!」
ウエイトレスはそううなずくと、一行を店内奥のテーブル席へと案内した。
円形のテーブルを挟んで向かいあうように、二人がけのいすが置かれている。必然的に、ユキトとアリス、ジェイクとララの組みあわせで腰かけることになる。
四人が席につくのを確認した彼女は、注文が決まったら呼んでほしいと告げてその場を離れた。
四人が案内されたテーブルには、白とベビーピンクのチェック柄のテーブルクロスがかけられていて、かわいらしさを演出している。
ユキトとアリスは、こういった場所を訪れることが少ないため、勝手がわからず戸惑うしかなかった。
ララに視線を向けると、彼女も慣れていないのかどこか緊張している。
この中で唯一慣れているだろうジェイクが、
「さあ、好きなものを選んどくれ」
と、備えつけのメニュー表をテーブルの上に広げた。
ユキト、アリス、ララの三人が、顔を突きあわせてメニューを確認する。
ドリンクメニューは、コーヒーと紅茶だけだが、豆や茶葉の種類が多く、いくらかのアレンジもできるらしい。フードメニューは、サンドイッチなどの軽食からケーキなどのデザートまで写真つきで掲載されている。
「どうしよう……」
アリスがぽつりとつぶやいた。どうやら、注文するメニューがなかなか決まらないようだ。
「どれも美味しそうで、迷っちゃいますよね」
微笑みを浮かべてララが言うと、
「そうそう! 全部食べたくなるよね」
と、アリスはうれしそうに同意した。
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