第二話 彼女との日常

「…わかった?」


「はい花園さん」


幸紀は、秋菜に図書委員の仕事内容を

教えて貰う。


「それじゃここに座って人が来たらやってみて」


「はい」


幸紀は、言われた通りに椅子に座り

図書室を見渡す。


放課後の図書室は、人が少なく

ある生徒は、教科書を広げ勉強し

ある生徒は、目的の本を探して見て周り

ある生徒は、友達と談笑しており

図書室は、穏やかな空気に包まれていた。


パラッ…パラッ…

本をめぐる音が聞こえチラリと隣を見る。

花園さんが隣の椅子に座り本を読んでいた。


「………スッ」


花園さんが本にかかった自分の長い髪を

軽く耳にかける。


「!?」


幸紀は、髪をかきあげた時に見えたうなじや

甘い香りに魅力され花園から目が離せなくなる。


「ん?…どしたの?」


「えっ!?…あっあの

 本好きなんですか?」


「…うん」


ハッと正気に戻り咄嗟に本の話題を

振る。


「どんなジャンルが好きなんです?」


「…何でも好きだよ」


「そうなんですか…」


「………」


「………」


花園さんとの会話が続かない

あれ本関係なら会話が盛り上がると

思っていたのに…


「…柿崎くん」


「えっ!?なんですか」


花園さんに名前を呼ばれた事に嬉しさを隠せない。


「いや…仕事」


「えっ?あっ…!!」


花園の言葉に正面を見るとそこには、

申し訳なさそうに同じ学科の女子の先輩が

立っていた。


「…よろしくね」


「あっはい」


幸紀は、先輩から本を預かり貸し出しの手続きを済ませる。


「はい終わりました

 貸し出しは、一週間になります。」


「ありがとう……それと」


本を受け取った先輩が俺だけに聞こえるようにこそっと


「……頑張れ男子!!」

と言ってくすくすと図書室を出て行った。


「うん…ちゃんとできたね

 …ん?どうしたの?」


花園さんがこちらを見て首を傾ける。


「いえ何も」


幸紀は、赤くなっている顔を隠し

先輩に恋心がバレた動揺を花園に隠す。


「ん?そう…」


花園さんは、少し不審に思ったようだったが

読書の海に戻っていった。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「花園さん、柿崎くん、

 ちょっといいかしら?」


その後、会話も繋がらず無駄にそわそわした時間を過ごしていると

司書さんが声をかけて来た。


「はい何ですか?」


「あのねこの本たちを資料室に直して欲しいのよ」


そう言って、重そうな本が入っているカゴを乗せた台車を引いてくる。


「俺、資料室の場所わからないんですけど」


「大丈夫…資料室から出すの手伝ったから

 私がわかる」


「花園さんが?ならわかりました

 俺達でやります」


「ありがとう…はいこれ資料室の鍵ね

 終わったらここに返しにきてね

 そしたらもう今日は、帰っていいから」


「わかりました」


「はい…じゃ行こうか」


幸紀は、台車を押しながら

資料室の鍵を受け取った花園さんと共に

資料室に向かった。




ガチャ

「足元…気をつけてね」


「はいよっしょ

 ふぇ〜資料室って結構大きいんだな」


資料室の中は、少しホコリ臭いが意外に広く

さまざまな資料が置かれているのがわかる。


「古くからある学校だから

 その当時の資料もあるんだって」


「なるほど」


「台車ここに置いて」


「はい」


幸紀は、台車を言われた場所に置く。


「それじゃ始めよう…柿崎くん

 これをあそこに並べてくれる?」


「分かりまッ!?」


花園さんから本を受け取る時

手が触れてしまう。


「…どうしたの?」


「いっいえ!!なにも…行ってきます!!」


「……?」





「ふぅ…これでいいかな?

 花園さん」


幸紀は、本を並べ終えて花園さんを呼ぶ。


「…ん?終わったの?」


「はい終わりました」


声がする方に行くと

踏み台を使い本棚の高い場所に

本を置こうとしていた。


「大丈夫ですか?」


「ん…だいじょーッ!?」


踏み台の脚が突然折れ花園さんがバランスを崩し後ろに倒れる。


「危ないッ!!」


幸紀は、咄嗟に近づき花園を抱きしめる。


「…大丈夫ですか?」


「…う…うん…ありがとう」


花園さんは、怖かったのだろう

身体が震えて動揺しているのが伝わる。


「ふぅ…よかった助けられて」


震えている花園さんを

助けられて心の底からよかった。

もし助けられなくて怪我させてしまったら…

幸紀は、自然と腕に力が入る。


「ひぅ!?……あっあの柿崎くん///」


「ん?」


「…あの…離れて」


「へっ?わぁ!!」


幸紀は、勢いよく離れる。


「ごっごめんなさい!!」


やっばやっちまった!!

幸紀は、右往左往する。


「うっううん大丈夫」


そう言って花園さんは、

顔を真っ赤に染めながら乱れた髪を整える。


「ふぁ〜…はっ!?

 この本は、俺が片付けます。」


そう言って本を拾い花園さんが置こうとしたところに置く。


「あっありがとう」


「いっいえ…」


「……帰ろっか」


「はっはい」


二人の間に何とも言えない空気に

包まれながら資料室を後にした。






「ウガァァァ!!」


「うるさい!!」


その後、抱きしめた時の事を思い出して

幸紀は、悶え苦しむことになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る