3 武神VS魔族ガリオン2

「『魔闘モード』か……そういえばバシューレもそんな力を使っていたな」


 私はウィナス武術大会のことを思い出す。


「ふん、バシューレかよ。あんな下っ端と一緒にされちゃ、かなわねぇな」


 ガリオンが鼻を鳴らす。


「下っ端? 彼がか?」

「お前ら人間から見りゃ、バシューレ程度でも絶望的な相手かもしれねーけどな。俺たちからすれば、ただの雑魚だ」

「なるほど、君たちの軍は――思ったよりも層が厚いのだな」

「はははは、絶望させちまったか?」

「いや、あいにく――」


 私は構えを取った。

 そして、走り出す。


「なっ、動きが見え――」

「はあっ!」


 間合いを詰め、渾身の一撃を繰り出した。


「が……はあっ……!」


 みぞおちに私の拳を食らったガリオンが、その場に崩れ落ちる。


「はあっ、はあっ、はあっ……ば、馬鹿な……たかが人間の……しかもこんなガキの一撃で、俺が……」

「どうした? 君程度の力で私を絶望させるのは難しいようだぞ」

「て、てめぇ……!」


 ガリオンが怒りの表情を浮かべる。


「どうした? 手こずっているなら、俺が代わってやろうか?」


 後方で見学しているラシェルが淡々とした口調でたずねた。


「ふざけんな! この俺が人間相手に後れを取るわけがねーだろ! てめぇは引っ込んでろ、ラシェル」


 ガリオンが私に向かってきた。


「るあああああああっ!」


 四本の腕を風車のように振り回し、打ちかかる。


 一発一発が速く、そして重そうな拳打である。

 だが、私の目には止まって見えた。


「不敗流――【旋風】」


 連撃の隙間をかいくぐり、あごにカウンター気味の一撃を叩きこむ。


「がああっ……!?」


 ガリオンは大きく吹き飛ばされた。

 そのまま地面を削りながら、ラシェルの元まで滑っていく。


「本当に大丈夫か、ガリオン? 俺が戦ってもいいんだぞ?」

「ふざけんな! 俺が人間ごときを相手に――」

「ガリオン」


 ラシェルが静かに告げる。


「っ……!」

「俺たちはラーガード様の威光を示すために来た。つまり、俺たちが敗北するということは、ラーガード様のお名前に傷がつくということだ。分かるな?」


 ラシェルの口調は静かだが、その眼光にはすさまじい威圧感が宿っていた。

 あのガリオンが、おとなしくなるほどに。

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