第1話 歪んだ職場

「おい柴田」

「はい!どうされましたか先輩。何かありましたか?」

「クレームだ。対応しろ」

「え…」

柴田希美(しばたのぞみ)、25歳。この職場について約一年。まだ不慣れな職員だが、こうして日々先輩方に指導をしてもらいながら、職務に励んでいる。

「私…ですか?」

「そうだ。お前以外に俺の目の前に誰がいるんだ」

少しでも早く周りに追いつきたくて頑張ってはいるものの、なかなか追いついていくことができず、いつもカラ周り。

「でも、毎回私が担当してて、今回はちょっと…」

「なんだ。目上の人の話も素直に受け止められないのか。これだから入って一年の新人は困るんだよ」

そう嫌味を言う先輩、山本仁(やまもとひとし)さん、30歳。彼は仕事ができるため職員として周りからの好感度が高く、社長も一目置いている存在であるらしいのだが、どうも後輩への当たりがきついらしく、入社してきた私を含む新人さんたちには避けられている。

「本当に使えないよお前。いつもみたいに俺の言うこと素直に聞いてたら良いでしょ?」

「しかし、私は私でまだすることも残っていますし…」

流石に毎日こき使われてると疲れてくるし、すごくストレスが溜まる。本当ならクレーム対応は社長が山本さんに任せていたものなのだが、私が入社したのを良いことに、社会経験だの先輩としての指導だのと押し付けてきているらしい。

「それ、関係なくない?俺だって新人の頃はそうだったし、入社したてなら仕方ないでしょ?それに、先輩に任された簡単な仕事すらできない方が社会人としてどうなのって思っちゃう。控えめに言って役立たずー。本当に大学出てんのか?って感じ」

大声で私を馬鹿にするように叫ぶ彼。社内に響いて、周りでドッと笑いが起きた。

「それとも何?認知してほしくてわざと俺の仕事受け取らないの?新人のくせに良い度胸してるね」

「いえ、違います…」

「じゃあ、受け取るよね?…断らないよな?」

先輩は私にニコニコ顔で圧をかけてきた。社内は先輩の声が響き渡ってシンと静まり返っている。周りにいる職員さんも、来社されている方も、お客さんも、誰もが私が次に出す言葉を気にして目を向けている。その視線が恐ろしいほどにわかる。


「…はい」

私はイェスと答えた。

「やっぱりね。受け取ってくれると思ったよ。じゃ、あとよろしくね」

山本先輩は嬉しそうに言った。今回も“また“、私がクレーム対応をして、1日を終えた。




「ただいまあ…」

真っ暗な家に帰宅。部屋の明かりは全て消され、何も見えない状態。おそらくもう寝たのだろう。重たい足を引き摺って、リビングの灯りをつけた。

「はあ…また今日も、1人か」

椅子にゆっくりと腰掛ける。1人か、と呟いたものの、それは独り身という意味ではない。家族構成は、旦那27歳、娘6歳、息子3歳、私。旦那とは大学で出会って普通に恋愛をして付き合って数ヶ月で、すぐに子供ができた。私が個人的に、宿った命を殺したくないという思いがあり、大学にいきながら旦那と子育てをした。旦那には感謝してもしきれないほど、今まで助けてきてもらった。そうして支えられていたから、いくら酷い目にあっても今こうして生きていられる。

「ママぁ…?」

突然、階段を降りてくる音ともに可愛らしい声がした。娘だ。

「あら、起こしちゃった!?ごめんね」

寝ぼけている娘の頭をそっと撫でる。

「ママぁ、お帰りなさい。お仕事、お疲れ様」

娘が眠たい目を擦りながら言った。

「パパは?」

「みんなで一緒に上で寝てた」

「そっか…。起こしちゃったけど、寝れそう?」

「んー。わかんない。ママぁ、お風呂入ってきていいよ」

疲れた私に気を遣ってくれているのか、私の手を取りながら娘は言う。いつもそう。この子は自分が長女だからしっかりしなきゃと、いつしか母親の私にまで気をつかうようになった。優しくて良い子ではあるが、少し良い子すぎて親の気持ちとしては心配だ。

「ありがとう。じゃあお風呂行ってくるね」

そう言って再度娘の頭を撫でて脱衣所に向かった。


起きた時、娘はリビングの机に突っ伏して寝ていた。多分、私がお風呂から上がってくるのを待っていたんだ。私は娘を優しく抱っこして部屋まで運んで、一緒に布団に入った。

「おやすみ」




ある日のことだった。その日もいつも通り、普通に通勤して、普通に勤務していた。

「柴田」

「はい…」

この日も山本さんに呼ばれ、またいつものように助言された。

「お前、昨日のクレーマーどうした?」

「え…」

実は先日、この人に頼まれてとあるクレーマーを受け持っていた。そのクレーマーはいつもに増して、すごくモンスターな感じで、帰らせるのにすごく手こずった。


「だからさ!昨日のクレーマーをあの後どうしたって聞いてんだよ!」

山本さんが突如、いつも以上に大きな声で私に怒鳴った。

「えっと…いつも通り対応して、いつも通り帰っていただけました…何か問題があったんでしょうか…?」

ビクビクしながら山本さんの顔を覗いた。何もそこまで怒鳴らなくたって…と、言いたい気持ちは山々だが堪えた。


「お前、あの客が誰だったか知って対応してたのか…?」

山本さんが私を睨みつけた。

「いえ。全く。ただ、いつもは目にしない方でしたけど、どうかし「それだよ!」

私の喋りを遮って山本さんの声が社内に響き渡る。その瞬間、いつものように周りの社員さんたちが、私と山本さんに目を向けた。確かにいつも通りの光景ではあったが、その中に何かおかしな雰囲気を感じた。

「っ!…柴田!ちょっとこい!」

そう言って山本さんが私の首根っこを掴み(正確にはシャツの襟)、社内倉庫に連れて行かれた。




「あの…どうしたんでしょうか…」

「“どうかしたんでしょうか“?…お前、仕事なめてんのか!」

「ヒッ!」

倉庫に入った途端、彼は私の胸ぐらを掴んだ。

「今朝、あの客から電話があった…」

「痛っ」

山本さんは私を地面に叩き落として話し始めた。


内容はこうだった。

先日のお客が今朝クレームを入れてきた。その内容が“この会社の対応が悪かったため、今後の取引は一切断ち切らせてもらう“というもの。実はこの客、うちの会社と提携を結んでいたらしく、山本さんが言っていた通り大切なお客だったようだ。この時対応していたのがちょうど私。“この会社の対応が悪かった“=“クレーム対応者の対応がどこかしらいけなかった“。つまり、私の対応が悪かったという事で、私の先輩である山本さんが責任を負わされることになってしまったのだ。

「全部カバーしようとしたのに仕切れなくてさあ!朝から社長に呼び出されてお前の指導のせいでこうなったんだとか、お前がお前の仕事してなったのが悪いとか言われてよお!」

面倒な仕事を後輩に約一年ずっと任せっきりにしていたのは事実だろ。そう言いたくなった。

「結局減給言い渡されて、俺の立場もない状態!職場移動とか解雇にまでいかなかったものの、俺の評価駄々下がりだし、社長には呆れられたし。これから俺の今後の立ち位置、どうしてくれるの?」

山本さんは鬼の形相で私を睨んだ。

「ごっ…ごめんなさい…。でも、私そんなつもりじゃなかったので、本当にごめんなさい」

とりあえずこの場は謝るのが先だと思って、地面から立ち上がった私は山本さんに頭を下げた。

「ごめんなさい?はっ(笑)違うでしょ。謝るときは…」

突如山本さんが腕を振り上げた。


「“申し訳ありません“だろうが!」

山本さんはそう叫ぶと、私の頭を地面に向けて思いっきり押さえた。




「やあああああああああああああああああ」

悲痛な叫び声とともに、私の頭の中に鈍い音が響いた。





「っ…、あれ…」

気がつくと、目の前に白い壁が見えた。いや、よく見ると壁じゃない。天井だ。

「ここ…」

「気がついた?」

ふと声がした方向を見ると、職場の医務室の人が私のいるベッドの斜め前に座っていた。

「もう良さそうね。どこか痛むところとかは?」

「あ、大丈夫です」

そう返すと微笑み返されて、少し戸惑った。

「えっと確かしば…あっ!しばいさん!」

「柴田です」

「そう!それ。柴田さん。あなた入ってきて一年くらいの新人さんだったっけ?新人さんが何やったらあんなことになるのよ(笑)土木の会社さんにでもアポ取りに行ってたのかってくらいびっくりしたわ」

笑いながら棚をゴソゴソする彼女。

「あ!名簿あったあった。んで?何があったのよ」

「…」

突如聞かれて私は俯いて黙ってしまった。

「頭から出血してここまで運ばれてきておいて何もないはありえないわよ?何があったのよ。言ってみなさい?」

「…誰にも言わないで欲しいんですけど…」

そう言って私は話し始めた。


「やばいわね」

全てを話し終わると顎に手を置いて考え始めた。

「どうして今まで言わなかったの。社長じゃなくとも医務室の私には言いに来れたでしょう」

いや、言いに行こうにもそもそもどこに医務室があるのか今の今まで知らなかったし、ここまで秘密厳守な人だとは予想してなかったから、来れなかったのだ。

「言いたくなかったのよね。わかるわ。そもそも山本がおかしいのよ」

医務室の人が何やら私に愚痴り始めた。

「入社したての子いびってるみたいだけど、何が楽しいんだか。自分じゃ“俺仕事できてモテる男“とか思ってるのかもしれないけど、後輩に全部任せっきりのバカが何してんのって話だし。自分がまるでトップみたいな態度とるけど、私の方が上だっての。あ、私入社して7年になるんだけどさ。あいつ入社して5年ね」

見た目が若く見えたため、私とさほど変わらないのかと思っていたが、少し上だったようだ。


「帰ったらまず警察に連絡しなさい。証人出せって言われたら私に連絡してきていいから。携帯は常に持ち歩いてるし、常時動ける状態よ。じゃ、気をつけて帰って」

この日、医務室に勤務修了時間まで入り浸り、話し込んでいた。

「はい。ありがとうございました」

そう言って私は深々と頭を下げて帰宅した。




「電話…しなきゃ…」

帰ってから、何度も110番を押しはした。しかし、何度かけようとしても、かける寸前のところで手が止まってしまう。早く電話しなければ遅すぎると言われる。早くしなければ…そうは思うものの、なかなか行動にできない。

「ママぁ?」

リビングで一緒に食事をしていた娘が首をかしげる。

「頭痛いの?」

包帯を巻いている私の頭を心配しているのだろう。

「ううん。大丈夫。ありがとう」

私が帰宅した時、出迎えてくれた娘がこの姿を見て玄関で大泣きしていた。ママが死んじゃうと思っていたらしい。


プルルルルルルル

突如、家の子機電話が鳴った。今はもう夜の8時。こんな時間に誰が電話かけてくるのか。

「はい…」

受話器をとり、恐る恐る返事をする。

「柴田あ!」

「ヒッ!」

驚いて持っていた受話器を壁に投げつけてしまった。電話の相手は恐れていた…山本さんだった。

「ママ?大丈夫?」

娘が私の所に駆け寄ってきた。

「あ…うん。気にしないで。びっくりしただけだから。ほら、ご飯食べてきなさい」

娘は心配そうな顔をしながらリビングに戻った。娘がいる前で何を話されるかわからない。流石にこの子にまで被害が及ぶのはごめんだ。私は再度受話器を耳に当てた。

「はい…」

「柴田あ!てめえ!」

山本さんは電話越しに怒鳴り散らす。

「てめえ、女医に何言いやがった!」

「えっ…」

「女医が俺に連絡してきて、何かあったのかと思ったら、“今から警察が向かうから“とか言ってきて、その十分後くらいに本当に警察が俺の家に来てよお!」

どういうことかさっぱりわからない。電話越しではあったが、私は少し首を傾げた。

「どうせお前が女医になんか言ったんだろ!何を言った!」

「あの…警察は…」

「警察なら無視してるよ!全部お前のせいだ!俺が捕まったらお前が責任取るんだ!お前が悪い!全部全部!お前のせいだ!」

ブツッ


そこで電話が切れた。一体なんだったのか。言えって電話してきたくせに、何も聞かずに切られた。

「ママ?…」

娘がリビングから顔を覗かせる。

「ママ、大丈夫?」

私はなんて情けない母親だろう。こんなに小さな娘に心配されて動揺が隠せないなんて。

「大丈夫。食べよう」

そう言って私はリビングに行った。固く拳を握って。




その日の真夜。

「“迷惑な先輩 職場 対処法“…んー。なかなかいいページがないな…」

私はひたすらネットのホームページを漁った。このままではダメだと改めて思ったから。1人の母親、1人の妻として、今後家族を守っていかなえればならない。家族までいづらい環境になるなんて、そんなの耐えられない。





探し始めてから2時間ほどが経過した頃。時刻は夜中1時。私はある検索結果に目が止まった。

「ん?…“去なす巫女“?」

クリックして画面を開くと、名前と悩み相談を書き込む欄が出てきた。しかし、そのホームページがどういうものなのか全く知らないままでは、どうにもできない。私は、画面の端っこにあった“詳細“をクリックして読んだ。

「“去なす巫女。あなたの持つどんな悲しみ、恨み、憎しみも、巫女が肩代わりします。名前と悩み相談を書くだけで、巫女が復讐をしてくれます。全て無料です“って…本気?」

だいぶ怪しいサイトではあるが、書く情報は名前と悩みだけ。抜き取られそうな情報が何も不要。

「“復讐“って、どういうことなんだろう」

復讐といえば、一般的にされたことを返すこと、“倍返し“などと言ったりする。しかし、こんなサイトに書き込んだところで本当に復讐をしてもらえるのか。本当に意味のわからないサイトだ。

「でも、なんか面白そうだし、やってみるか」

物は試しだと思って、書き込むことにした。


「どうせこんなのただの気休めなんだし、効果なんてあったらまぐれだよ」

ホームページに書き込み終えて、私は眠りについた。


“名前:柴田希美 

内容:職場の山本仁の暴言、暴行に耐えられません。助けてください“





次の日。私はこの日もいつも通り通勤した。

「おはようございます」

いつも通り挨拶をして、いつも通り自分の席に座った。

「ねえ柴田さん。ちょっといい?」

声がして顔をあげると、私に向かって遠くから手招きをする人がいた。医務室の人だった。私はその人について行った。


「昨日、勝手に通報しちゃってごめんね」

医務室についた途端、謝られた。

「柴田さんのことだから、通報するの躊躇ってるんじゃないかって思って。余計なお節介やいてごめんなさい」

うん、その通りだ。情けない話だが、私は昨日すごく怯えていた。山本さんに何をされるかわからない状態で、通報なんかしたら島流しになってもおかしくはない。

「いえいえ。すごく助かりましたよ。ありがとうございました。あの、それで…どうかされましたか?」

そんなことだけで呼び出されて医務室に連れてこられた訳ではなさそうだ。

「それがさ…」

突如、女医の顔が青ざめた。


「山本が…死んだの」


「え…」


「昨日私が連絡した時は普通な感じで“お疲れ様です先輩“とか言ってたんだけど、今朝警察から連絡が入って…山本が死んだって…」

死因は、頭を地面に強打して蜘蛛膜下出血らしい。

「遺体の確認に来てって言われたから行ったのよ。本当に…山本だった」

私の背中に、何か冷たいものが走った。

「酔ってはなかったらしいし、死んでたのも、誰も通らないような場所で…おかしいのが、後頭部に真っ赤な手跡みたいなのが付いてたの。警察は事故死って言ってたけど、絶対違う…」

「そう…ですか…」

もしかして…とは思ったが、そんなことがあるはずない。昨日書いたホームページの記事がまさか本物だなんて…

「物言いは悪いし態度でかいけど悪い奴じゃなかったから…」

真っ青な女医の顔がものすごく怖く見えた。

「もしも誰かが突き落としたんだったら…」

女医の目から涙が落ちた。


「絶対許さない」

いや、おい待て。昨日までこの女医、山本さんの愚痴を散々言っていたはず。ころっと態度が変わった。怖いものだと思いながら私は、女医に挨拶をして、通常の勤務に戻った。





ドクン!

「カハッ!」

突如、心臓あたりがはねるような痛みに襲われて飛び起きた。

「はあはあはあはあ…うっ!」

痛みは止まない。


「起きた?」

「え」

突然、隣から静かな声がした。娘、息子の声じゃない。旦那の声でもない。それにみんな、今は寝ているはず。時計を見ると夜中の一時を指していた。

「起きたね。柴田希美さん」

「…」

恐る恐る横を見ると、女子高生くらいの容姿の女の子が座っていた。彼女は長い髪を下で緩く束ねて、袴を着ていた。

「誰!」

「しっ。大きな声を出しちゃダメ。お子さんが起きちゃう」

焦って口元を手で覆った。

「私は…巫女」

いや、見ればわかる。彼女は私の方を向くと自己紹介をするかのように言った。

「依頼完了のお知らせに来たの。それと…」

そういうと彼女は私の胸元に人差し指を向けた。

「代償をもらいに」


「かわいそうに。痛むのね」

彼女は真顔でそう言った。

「今すぐ楽にしてあげられたらよかったけど、これは代償だから」

何を言っているのかさっぱりわからない。私は首を傾げた。

「私は、あなたが昨晩書き込んでくれたホームページのオーナー、“去なす巫女“。復讐が完了したから、その代償をもらうために昨日書き込みをしてくれた時間と同じ時間帯に来たの」

「巫女…?代償…?じゃあ、昨日のホームページの通り、山本さんに本当に復讐したってこと?」

「だからそう言ってるじゃない」

私は窓を確認した。開いていない。扉も確認した。閉まっている。部屋の中を見渡したが、どこも鍵は閉まっている。じゃあこの女の子は…本物?

「っていうか、代償ってどういうこと?無料って話じゃないの?」

昨日見た記事には確かに全て無料だと書いてあった。まさか、お金騙し取る気?

「確かに無料とはあったかもしれないけど、“無償です“とは書いてなかったんじゃない?」

確かに言われてみればそうだ。無償とはどこにも載っていなかった。

「代償って何を払ったらいいの?…まさか!」

私は心臓に手を当てた。

「そう。心臓に病を患ってもらった。それがあなたの代償」

「そんな…!聞いてない!」

「大丈夫。死にはしない程度の病だから」

巫女は変わらず真顔だった。

「いくら酷いことをされたからと言えど、人の命を奪っておいて楽しく生きていけるなんて、そんな都合のいい話はない。柴田希美さん。これが、あなたの代償です」

「そんな…!おかしいじゃない!私には子供だっているし旦那もいる。家族に迷惑だけはかけられないのに…」

巫女は優しく私の頭を撫でた。

「心配しなくてもその病は数年すれば治る。少しの間だけ、償ってもらう」

そう言うと彼女は動画のCGみたいに消えていった。

「ちょっとまっt…うっ!」


その日、私は大きな病院に救急搬送された。




「ママ…」

「よしよし。ママはまだ気が戻っていないんだ。もう少し待ってあげような」

「うん…わかった、パパ」




「希美…愛してる」

旦那は私の手を握って、優しくつぶやいた。





「聞いた?まだ入ってきて一年の柴田さん、急な心臓病の発症で救急搬送されたんですって」

「そうなの!?若くで結婚してお子さんもお二人いらっしゃったんでしょう?大変よねえ…」

「ねえ?多分だけど、先輩の山本仁さん。柴田さんが病気になったのアレのせいよ。いびりまくってストレス与えてたって噂でしょ?」

「ねえ?若いのにかわいそうに」

「きっとお辛かったのよ」

「あーやだやだ。死んでくれてよかったわ。あんなの生かしてちゃ、次に来るのは私達だったかもしれないし」

「ねえ?」





あなたの恨み…肩代わりします

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