去なす巫女

九条まろ

プロローグ

「"去なす巫女"?」

「そう。最近噂されてる人気な都市伝説らしいんだけどさ。知ってるか?」

「いや、全く」

俺はコーヒーをくるくる混ぜながら答えた。

「そらそうだよな。お前学生の頃からオカルトとか興味なさそうだったし」

俺の目の前に座る男は半笑いで言う。

「で、話したいことってのはそれについてか?わざわざ俺が興味なさそうな話題を振ってきたってことは、そこまで話したかった内容なんだろ?」

「その通り(笑)。実はその都市伝説さ…ただの伝説じゃないかもしれないんだよ」

「…は?」

突然話を振っておいてこれとは、驚いた。

「おいおい。あからさまに引いた顔するなよ(笑)これでもちゃんとした証拠は揃ってるんだ。オカルトに興味ないお前でも、きっと食いつく話だよ。どうよ。聞いてく?」

「そういうことじゃないんだけど…いいや。どこからどこまでオカルト要素が占めてるかによっては、聞く聞かないを決める」

「まあ、五分五分って考えといてくれたらいいかな」

男は首を傾げながら答えた。




「で、実際に本題にはいるんだけど…メモの準備しなくていいの?」

「"重要なことは"スマホにメモるから大丈夫」

「ひどいな。それが小学校からの幼なじみに対する接し方か(笑)」

「いいから早く説明して」

へいへいと頭をかきながら男は続けた。




「ネットで去なす巫女って調べると、去なす巫女の紹介動画とか解説・仮説みたいなの出してる人のホームページや赤い再生ボタンのチャンネルが真っ先に出てくるから、一見公式のホームページがないかのように思われるんだけど、違うんだ。辛抱強く検索エンジン画面を1ページ、2ページ、3ページ…って飛ばしていくうちに出てくる。そのページの名前は“〜いつもあなたのおそばに〜 去なす巫女“。クリックすると、名前と相談内容を聞いてくる画面が出てきて、入力すると…叶うんだ」

そう言って男は俺の顔を見る。

「まず聞きたいんだけど、そもそも去なす巫女ってなにしてくる感じの都市伝説なんだ?」

俺が聞くと、男は待ってましたと言わんばかりに嬉しげな顔をして話を続けた。

「去なす巫女は、人の悩みを聞いてその恨みや憎しみ、または悲しみをそいつのために晴らす。いわゆる自分の代わりに復讐してくれる殺し屋みたいな存在の都市伝説。“去なす“ってのは多分、復讐するってこととリンクせてるんだと思う。巫女ってのは諸説あるんだけど、復讐してくれる本人が生きてた頃巫女だったことから、そうなったんだとか」

「ん?生きてた頃巫女だったってことは、そいつ人間じゃないのか?」

「ああ。人間だったらよかったんだが、そうじゃないらしい。その辺に詳しい人が言ってた」

「なんで本人が人間じゃないってその人は知っているんだ?見たのか?」

「いや、見てはないみたい。ただ、その人結構詳しい人でこの界隈ではトップだから、信憑性あるし。第一見てたとしたら、今頃生きてられてたかすら不明らしいしな」

男は少し顔を下げ目に話た。

「なんでだ」

「さあな。俺が知りたいね。この話は会社の上司と後輩に教えてもらった話だから、俺はよくわからない」

男は話をやめ、カップに入っていたコーヒーを一口流し込んだ。




「でも、いいネタにはなりそうだろ?」

そう言って男は笑った。

「もし記事にするなら教えてくれよ。周りにも広めて購読してもらうように言っとくからさ」

男は席を立ち上がった。

「え…、これで終わりか?」

「なんだよ。最初聞くの嫌がってたくせに。…これ以上は俺はよく知らない。もし知ってたとしても言えないな。長年の幼馴染を下手なことに巻き込めるようなパッパラパーな頭は持ってないから」

「おい。でも、証拠は揃ってるって言ってただろう?なぜ最後まで言わない」

ここまで話しておいてあとは知らないとは、無責任にも程がある。俺は男の手首を掴んで引き止めた。

「証拠ね…。どうしても聞きたいっていうなら、情報網は共有してやるし、さっき言った上司とも繋がれるようにもしてやるよ。ただし、そのネタ集めに、俺はは参加しない」

男は俺の目を真剣に見てきた。




「あ、もうこんな時間か。悪い。妻と子供が家で待ってるから、もう帰るわ。父ちゃん父ちゃんうるさい年齢でよ。んじゃ、お前も気をつけて帰れよ。じゃあな」

男は自分の分の代金を机に置くと、俺の手を優しく払って店を出た。


「ああ。じゃあな…」

時計の針はもう夜の10時半を指していた。

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