パイオニアオブエイジ
どん
『マラソン、その後で…』
サクシードが下宿シンパティーアに到着してから、一週間が経った。
いよいよ明日から『パイオニアオブエイジ』での武闘訓練が始まる——。
サクシードは情熱を沸々と燃えたぎらせて、筋トレにマラソンと準備に余念がなかった。
自然、下宿の雰囲気も、まるでアスリート魂に火が点いたような、熱血路線になっていた。
ファイアートは、自身の溜め込んだスポーツウェアを、何着も進呈した。
フローラは、マネージャーよろしく、筋肉疲労に効くドリンク作りに精を出した。
ロデュスは、サクシードの後輩にでもなったかのように、威勢のいい挨拶で盛り上げた。
ラファルガーは、彼にしては珍しく筋トレの専門書を読み込んで、サクシードと意見を交わした。
レンナは……レピア湖一周マラソンのコースの下見に付き合ったり、いつでも使えるようにタオルを用意したり。甲斐甲斐しいサポート力を発揮した。
熱血週間の締めとばかりに、全員でレピア湖一周マラソンをやり切ったまではよかったが。
突然、ファイアートが宣言した。
「ちょっと、みんな。このまま突っ走ったら、元も子もないよ。前準備はほどほどが鉄則。メリハリをつけないとね。午後は丸ごとオフにしようぜ!」
顔を見合わせた一同の意見が一致する。
「それもそうね……ここらで一息入れましょうか」
レンナがそう言った途端、ロデュスがへたり込んだ。
「はぁ……よかったぁ」
「大丈夫か?ロデュス」
サクシードが聞くと、ロデュスは彼に顔を向けて力なく笑った。
「す、すみません。精神も身体もアスリート仕様じゃないもので。気持ちがついてこなくて……」
「付き合わせてすまない。おかげでフィジカルをキープできたよ」
「お役に立ててよかったですぅ」
サクシードとフローラに支えられて、ロデュスは母屋のリビングに向かった。
「普段と180度違う方向に持っていくのは、そりゃあしんどいさ」
腰に手を当てて、ファイアートはボトルのドリンクを飲み干した。レンナが呆れたように言う。
「勢いで全員参加にするからよ。希望者にすればよかったのに」
「いやぁ、フローラちゃんが参加できるとは思わなくてねぇ」
「おかげで24時間体制の警備が動いたのよ。どれだけ迷惑かけたと思ってるの?」
「だって、下宿の周りにへばりつくだけじゃ、鍛えようがないじゃんか。こういうイベントはあってしかるべきだと思うよ」
「いつもの結果オーライか」
ラファルガーがボソッと言った。即座に反応するファイアート。
「これくらいどうってことないって。そんなことより、僕は君が完走したことが意外なんだけど。学者肌のくせにマラソンでも息が上がらないとか、どこまでかわいくないんですか」
また始まった、とレンナが溜め息をつく。
ラファルガーは首にかけたタオルを握ったまま言った。
「心臓が強いだけだ。クイリナリスのサラサードは山岳地帯だぞ。谷底をさらうようなスターリー川近辺も険しい坂のアップダウン。レピア湖畔は平地と同じだ」
「さいですか。あーつまんねぇ、今度こそ、その澄ました顔がだらけるのを拝んでやろうと思ったのに」
「あんたの思惑に嵌ると思うか?」
「はん!見くびってもらっちゃ困るね。僕は作戦立てるの、得意中の得意なんだぜ。そのうち術中にはめてやるさ」
「失敗の方が多いがな。くだらん」
「そうやって余裕こいてりゃいいさ。まぁ、でも、サクシードに協力を惜しまなかったのは褒めてやるよ」
「それはどうも」
「終わった―—?」
レンナが庭を眺めていた視線を二人に向けた。
「シャワー浴びるでしょ? ロデュスたちが入れないんだから、さっさと直行して! 後がつかえてるのよ」
言ってレンナは母屋に向かう。
「……なんでしょ、あの冷め切ったあしらいは」
「なんだかんだ言っても、一番付き合いがいいがな」
こんな時だけ意見が合う二人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます