学年一の美少女への告白練習をしていたら、ちょうど天敵のような女子が現れて付き合うことになった

橘奏多

第1話 告白練習の始まり、そして終わり

 俺――赤峰祐也あかみねゆうやには、前からずっと好きな人がいる。


 その人の名前は、野本花蓮のもとかれん

 学年一の美少女であり、成績優秀、品行方正な女子だ。言わずもがなだが、性別や学年問わず生徒や教師から絶大な人気を得ている。

 俺はそんな高嶺の花な彼女に恋をしているわけだ。そして、これから告白をしようとも考えている。


 ……もう既に分かりきっていることだけど、間違いなく彼女は俺の告白を受けてはくれない。


 理由としては単純明快で、俺が平凡すぎるから。

 考えればわかることだ。学年一の美少女が平凡すぎる男と付き合うわけがないだろう。

 ――それでも。


「俺は…………諦めたくないっ!」


 今まで見てきた野本さんを脳裏に思い浮かべる。


 綺麗な銀髪を靡かせる彼女。

 澄んでいる碧眼で見つめてくる彼女。

 目が合っていると気づくと、手を振って可愛い笑顔を見せてくれる彼女。

 話したことすらなかった平凡な俺にも、優しく接してくれる彼女。

 何事にも真剣に取り組む彼女。

 それから…………。


 彼女の魅力を挙げようと思えば、まだまだたくさん出てくる。

 俺は、彼女のさまざまな顔を見てきた。その顔を見ているのは自分だけではないと知っていても、好きだという感情はどうしても抑えられない。

 だから。


「よし! 誰が見てもかっこいいと思えるような告白で、絶対に野本さんを落としてみせる!」


 空には綺麗な満月が浮かび、見上げれば満天の星が広がっている。

 あと少しで日が跨ぎそうな時間帯で、誰かに聞こえているであろう大声で、そう決意した。



「決意したのはいいんだけどなぁ……」


 翌日の早朝、モーニングルーティーンの散歩をしながら深いため息をついた。


「誰もがかっこいいと思う告白? そんなのあるのか?」


 否。絶対にない。

 人それぞれかっこいいと思うかどうかは変わってくる。そして、そもそも平凡な俺なんかが誰もがかっこいいと思う告白方法を考えられるわけがないのだ!


「やっぱり、玉砕覚悟で普通に告白するかなぁ」


 昨夜に決意したばかりにもかかわらず、たった六時間後にはまるで昨夜の決意が無かったかのように考えている自分が情けない。これでは本当に告白できるのかすら怪しいところだ。


 今までの人生で初めての告白。当然どのように告白したらいいのかすらも分からない。

 やっぱり手紙か……? いや、直接の方がいいよな。

 じゃあ、放課後にどこかに呼び出すのは? でも、誰かに見られたら恥ずかしいな。屋上なら大丈夫かも?

 あ、デートに誘ってその後に告白とかはどうだ? いやいや、デートに誘う勇気なんてないから無理!


「え、待って……どう告白したらいいの!?」


 散歩している途中、不審者かと間違われてもおかしくない挙動をしながら叫びうずくまる。今この場に小さな子どもを連れた親子がいたなら、「お母さん、あの人何やってるの?」「見ちゃダメよ!」と言われて逃げられるに違いない。恥ずかしい。


「ただでさえ学年一の美少女に告白するってのに……」


 恋敵ライバルの多さは半端じゃない。学年一の美少女な上に、その他のスペックも高いのだ。モテないわけがない。


 そうだ! 告白する場所は決められないから後回し! まずは告白の練習をしよう!

 我ながら適当すぎるとは思うが、これが勇気なんてものが微塵もない平凡な男の有様である。


「練習か……家の中だと母さんとかに聞かれそうで恥ずかしいからなぁ……あっ!」


 いいことを思いついた。

 家から少し離れた場所に、草木に囲まれた公園がある。そこは普段から人通りの少ない場所で、誰にも聞かれず告白の練習をするのに打って付けの場所だろう。


「決めた! あの公園で今日から毎日練習だ!」


 告白練習をする場所が無事決まり、気持ちが高まった状態で学校に向かった。いつもなら憂鬱に感じる学校生活だが、今日はすごく気分がいい。

 普段なら絶対にしないが、スキップとかしちゃう。


 学校に着くと、一人の女子が話しかけてきた。野本さんか!? と思ったがそんなわけがなく、嫌いとまでは言わないが俺にとってかなり苦手な女子だった。


「うわ、なにスキップとかしちゃってんの? 朝から変なもの見せないでほしいんだけど」


 長谷川澪はせがわみお。それが今話しかけてきた……否。朝から開口一番に俺のことを貶してきた女子の名前だ。

 彼女はただのクラスメイト、だと思いたい。俺のことをどう思っているかは分からないが、俺は長谷川を天敵のような女子だと勝手に思っている。


「うるさいな。なら見なきゃいいだろ」

「突然あんたが視界に入ってきたのがいけないんでしょ!」

「えぇ……」


 長谷川は正直、よくわからない。

 俺のことが好きなのか嫌いなのかも謎。何かあれば絶対に構ってくるし、構ってきたと思えば今のように貶される。やっぱり、嫌われてるかもしれない。


「とにかく! もうあたしの前に現れないでよね!」

「はいはいすいませんでした」


 そうして長谷川は肩上まで伸びた綺麗な金色の髪を払い、早歩きで消えていった。

 あいつだけは何がしたいのか本当にわからん。全く、少しは野本さんを見習ってほしいものだ。


 結局、もうあたしの前に現れるな! と長谷川に言われてから学校が終わるまで何度も遭遇した。同じクラスだから仕方ないと言っても、顔を赤くして「ふんっ!」と鼻を鳴らし、どこかに行ってしまうためどうしようもない。


 まあ、今は長谷川のことなんてどうでもいいんだ!

 問題は今日の告白練習! 野本さんへの告白の時の言葉を考えておかないと!



「……よかった。やっぱり誰もいないな」


 学校が終わってから数時間が経ち、もう空は真っ暗になっている。時間は十九時過ぎだ。

 本来ならば、放課後になってすぐに練習するつもりだった。しかしさすがに少しは人通りがあったため、時間を置いて練習することにしたのである。


 外は真っ暗だが、この公園は街灯のおかげで周りに何があるか分かる程度には明るい。真っ暗な中で告白練習っていうのはさすがに厳しいし、ちょうどいいだろう。


「まずは……」


 俺が目を向けた先には一本の木が立っている。その木を野本さんに見立てて、告白の練習をすることにしよう。


「の、野本しゃん!」


 ……ふむ。一回深呼吸するか。


「……よしっ。の、野本さん! ずっと前から好きでした! もしよかったら俺と……じゃなくて、僕と付き合ってくれませんか!?」


 お? 少し間違えたけど、結構いい感じじゃね?

 シンプルイズベスト。自分の気持ちとどうしたいのかを簡潔に伝える。これならいける……はずだ!


「もう一回くらい練習しとくか」


 俺は意識を集中させて、野本さんへの告白を空想するべく目を閉じた。

 次はちゃんと呼び出しからやってみるか。


「あの……野本さん。放課後に伝えたいことがあるから、屋上に来てもらってもいいかな?」


 授業中に考えた結果、呼び出す場所は屋上にした。でも屋上はいつも誰かいるため、誰もいない放課後になった直後に、誰にも見つからないようになるべく早く終わらせたいところだ。

 とりあえずここまでは順調。そして了解を得ることができたら放課後まで言葉の確認。放課後になったらダッシュで屋上に行って、野本さんを待つ。


 テクテクテクテク。


 で、足音が聞こえ始めたら……あれ? 空想にしてはしっかり聞こえるような気がするけど……まあいいか。

 野本さんが来たのを確認したら深呼吸して……。


「ずっと前から好きでした! もしよかったら僕と付き合ってくださいッ!!」


 か、完璧!! すごいぞ俺! やればできる子!

 ………………って、え?


 完璧な告白(練習)を終え、ずっと閉じていた目を開くと同時に頭が真っ白になった。


「…………うそ、でしょ?」


 目の前には俺の高校と同じ制服姿で子犬を連れていて、顔だけでなく耳まで赤くしている女子が立っていた。

 彼女の顔は街灯で照らされ、肩上まで伸びた綺麗な金髪は煌めいている。

 その女子は俺の好きな人――野本花蓮ではなく、天敵のような女子――長谷川澪だった。

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