復讐者のゾンビサバイバル

@Mobyus

第0章 発生

第0話 発生

 2018年8月某日、東京は渋谷。正午になるころには気温も35度を超えた猛暑日となった。コンクリートジャングルを行く老若男女はその額に汗を纏わせながら、スクランブルの信号が変わるのをスマートフォンの画面に目を落としながら待っている。


 そんな中、ふらふらと歩く若い女が信号待ちの人々へと近づいていく。




 ドン。と一番後ろに並んでいたスーツの男にぶつかる。男はスマートフォンを取り落としそうになったが、すぐに振り返った。信号待ちの人間にぶつかってくるなどふざけているのかと文句を言ってやろうと考えていた頭は一瞬のうちに真っ白になった。




「ひっ!?」




 その場で尻餅をついたスーツの男に信号待ちの人々は振り返る。


 その目に映ったのは、若い女がスーツの男の首筋に歯を立てて噛み千切る瞬間だった。




 阿鼻叫喚、とはよく言ったものだ。人々は歩道か車道かもわからぬほど前後左右に蜘蛛の子散らすように逃げ始めた。


 悲鳴、絶叫、クラクション、スキール音、衝突音。


 地獄絵図が一瞬にして出来上がる。その惨状にさらに野次馬が集まり、阿鼻叫喚の図は徐々に広範囲に広がっていく。




 そんな絶叫と悲鳴と血の海の中、若い女に首筋を噛み千切られたスーツの男がゆっくりと立ち上がった。そして混乱の中、介抱のためにやってきた若い男に襲い掛かった。








 そんな惨状は全国に一斉に知れ渡った。そう、動画配信サービスのライブ映像だ。


 15分もしないうちにSNSのトレンドトップに入り、30分もするとニュースサイトで取り上げられ、1時間経った頃には全国放送で知れ渡った。


 そして、2時間後には他の主要都市でも同様のことが起こっていることが報じられる。


 やがて日が暮れると、米国、欧州各国、中国、アジア諸国から中東まで、世界中で同様の事案が発生していることが判明した。


 国内ではその日のうちに緊急事態宣言が発令され、空路、海路ともに封鎖された。


 次の日の朝には、各地でパンデミックの発生が政府によって確認され、ラジオ、テレビ、インターネットなどの情報媒体にて各地の状況が発表された。


 政府は国民に自宅待機を促し、出来るだけ外出しないようにと指示を出した。


 しかし1週間しても、パンデミックが収まる気配すら見られず、人々は感染が日に日に拡大していくのを窓の隙間から見ているしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る