第185話 電撃魔法の新たな使い方
凶悪な『キリング・シャーク』という魚の魔物がついに死んだことで集落は大騒ぎ。
これでめでたしめでたしと思われたが、リトのお父さんが倒れたことで空気が変わった。
えっ、これってもしかしなくてもヤバい事態では?
「お父さん、お父さーーん!」
リトは異変を感じとって焦っている。無理もない。
俺も動こう。
「ポーションは?」
近くにいた男が倒れた親父さんの心臓の辺りを手で押さえてから、首を横に振る。
「ダメだ。心臓が止まっている。こういう場合はポーションが役に立たない」
「それじゃあ、どうしたら……?」
「ちょっと、いいか?」
事態は一刻を争う。
すぐに対処しないとダメだ。
過去に研修でこの手の対応を簡単に習ったことがある。
とりあえずいきなりの実践だが試してみるか。
「俺の出身の村での蘇生法を試したいんだが、いいか? もしかしたら意識が戻るかもしれない。もちろんダメな場合もあるかもしれないが……」
意識の確認をしながら、同意を求める。
良かれと思ってやったことでトラブルになるのは面倒だからな。
ここは異世界、慎重にことを運びたい。
「この集落には医者はいないし、ボクはやって欲しい」
「私からもお願いします」
リトと彼女の母親の賛同が取れたところで、心臓マッサージ、人工呼吸を繰り返す。さすがに人工呼吸の場面では少し外野がザワッとしたが、そんなことは気にしない。
ヤバいな。全然ダメだ。そもそもいくら待っても救急車は来ない。
あれを試すか。
習得したばかりの電撃魔法を試すまたとない機会だ。
ただし、対人となるとこちらにも相応のリスクが伴う…… が、まぁ、よしとしよう。
やらない後悔よりもやって後悔の方がマシだ。
「ちょっと皆、もっと俺たちから離れてくれ。これから電気ショックで心臓を再び動かす作業をする。心配せずとも俺の村ではこれで心臓が動き出したことがある」
ウソではない。だが、俺がそうした経験はない。
それにどれ位の電撃魔法をどう放てばいいのかは不明。
残念ながら、イチかバチか。
それでもやるしかない。
「よし、やるぞ」
バシン。
体がドンと一瞬動いたが、心臓は止まったままだ。
次、二回目。
バシン。
ダメだ。
少し外野がざわめき始める。
俺のせいでノエルやユエまで疫病神として恨まれることはあってはならない。
次がラストチャンスかな。
少し威力を上げて……。
バシンッ!
次の瞬間、バクッと体が動いた。ここで心臓マッサージを再開する。
…そしてついに心臓が再び鼓動し始めた。
「「「おおーー!!!!」」」
寄合所は大歓声に包まれた。
しばらくすると意識も戻った。
まだ看病が必要だが、これでひとまず安心だ。
リトは意識を取り戻した父をウルウルしながら看病する。
「うぅ、良かった。良かったよー」
「サイ、あなた医術も使えるのね。正直驚いたわ」
「うん、さすがサイさん。ビックリしちゃった」
「夫を助けて頂いてありがとうございます」
リトのお母様からもお礼を言われてこちらとしても嬉しい。
だが、今回に限り俺はかなりのリスクを背負っている。もしあのまま息絶えていたら……。いくら同意をとって、ポーションが役立たずの状況とはいえ、大きな問題に巻き込まれる恐れがあった。
それに一連の救命処置。
ひとまず俺が記憶している限りのことを試してみたが、本当に正しい要領なのかはよく分からない。良い子はマネしないで、とでも言っておこう。
◇
人助けをしたのはいいが、リトとお母さんは付きっ切りで看病という当然の流れになった。他の者たちも湖畔に陸揚げされた『キリング・シャーク』の対応で大忙しだ。
というのも、例の魔物のウロコや骨は素材として珍重されるからだ。それに魔石も。しかも奴は異常種なので普通のものよりはるかに大きい。
その解体作業でまたもや人手が取られてしまった。
もちろん素材の解体を手伝っても良かったが、おそらくそうしない方がいいだろう。
というのも、集落のことは基本的には集落に任せた方がいいと思うからだ。もっとも、裏で既に色々としてしまったが、我々の活躍は表になっていない。
だが素材の解体は別だ。
解体の仕方によって捌ける値段も変わるからな。
それに素材の数が合わないなどといった場合は面倒だ。
無用なトラブルを避けるためにもここは大人しくしておこう。
結果として俺たちは手持ち無沙汰になってしまった。
う~む。次は何をするか。
とりあえずこの場にはあまりいたくない。
あっ、そうか!
色んなことがあり過ぎて、俺がしたいことがあったのをすっかり忘れていた。
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