第180話 湖のほとりでお風呂タイム!?


 どうやらトンレカップ湖には突如として現れた厄介な魔物『キリング・シャーク』が潜んでいるようだ。これを退治するには電撃魔法が有効という話だったが、さらに詳しく話を聞いていくと恐ろしいことが判明した。


 「ただし電撃魔法といっても小さい池ならともかく、相手はこのだだっ広い湖に潜んでいる訳だ。それが一番の問題なんだ」


 どうやらリトの父によると、魔物そのものというよりかは、湖を相手にするというのが難点らしい。まぁ、そりゃそうか。


 捕まえるのは困難。そしてこの規模の湖に電撃を落としたところで意味がない。


 「退治するのは不可能じゃな。天変地異でも起きない限り……」


 「でも、今日は天変地異があったじゃない?」

 今度はリトの母親が口を挟む。


 「てんぺんちい?」

 思わずユエも反応する。


 「そうさ。今日の昼間にもの凄い爆発音が聞こえて、空に炎の柱が出たんだから。ありゃ、人間には不可能だね。あれこそが天変地異の証だよ」


 ちょっと話の流れが不穏になってきた。

 それってもしかしなくても、俺が全力で放った戦闘火焔魔法のことかもしれない。


 結局、ユエもノエルも例の件については黙っていたので、特に炎の柱について事情を聞かれることもなく、そのままお開きとなった。


 俺たちはリトのご家族にたいそう気に入られたらしく、今晩は泊めてもらえることに。


 良かった。これで野宿をしなくて済む。



 ◇


 『そういえば、二人と再会してからお風呂に入ってないな』


 ふと、そんなことを思い出した。


 まぁこれには理由がある。単純かつ明快な理由だ。お風呂をいくつも同時に構築することができれば何も問題がない。


 だが、現実にはできなかったので、はっきりと言ってしまえば姉妹と混浴するしか選択肢がない。かと言って、自分一人だけで風呂を楽しむというのも何かと問題がある。


 あるいは姉妹が風呂に浸かるのを遠目に眺めるという選択もあるにはあるが……。うむ、これは何だか変態的なアプローチだ。


 しかしそろそろ限界だろう。俺は魔力の過剰利用によって倒れて汚れてしまったし、汗と潮風で体はベタベタする。この集落では井戸を掘っても塩水しか出ないため、水は基本的に放水魔法と離れた場所にある沢の水で賄っているらしい。だから水は貴重なのだ。


 このような事情で風呂という概念がなく、ここでは普段は湿らせたタオルで体を拭くらしい。そしてたまには遠出をして水浴びをするという。不憫なことこの上ない。


 つまり気持ちの良い風呂などはなから望むべくもない集落なのだ。


 「ユエ、ノエル、ちょっといいか?」


 リトがいないタイミングを見計らって話かける。


 「突然でアレだが、二人とも風呂に入らないか?」


 「「お風呂!?」」


 両方とも目をキラキラと輝かせている。そうか、二人も体がベトベトするのが気になっていたか。


 「そうだ……。だが、諸事情により、『混浴』になってしまうが、それでもいいか?」


 「こ、混浴~~!!!!」


 「し、静かに!」


 かくかくしかじか。

 俺は手短に事情を伝える。


 「サイの言っていることは理解したわ。それならタオルを着用して入りましょう。それなら問題ないかしら、ユエ?」


 「うん、それでいい」


 ということで、俺たちは再び湖を見晴らせる場所までやってきた。


 わざわざ少し歩いて登ってきたのには訳がある。何しろここは『絶景』だからだ。眼下の斜面にはただひらすら緑豊かな草原が広がり、その先には青色の美しいトンレカップ湖がある。


 露天風呂をするのであれば、ここしかないだろう。それに集落から離れた場所の方が何かと安心できる。うっかり村人に見られてしまうと厄介だ。


 というのも、この風呂は空間魔法、放水魔法、火焔魔法という3魔法も複合体。しょーもないように見えて、その実、かなり高度な仕様なのだ。常人には風呂はおろか、水槽を作ることさえ困難だろう。


 お風呂は一瞬で作れる。


 これら3種類の魔法を同時発動するだけなのだから、一瞬で適温の水槽、もとい風呂が完成した。


 「これが……、お風呂!」

 「すごい。気持ちよさそう」


 それじゃ、さっそく入ってみてくれ。


 「うわーー。何コレ!」

 「きっもちいい――」

 二人の反応は上々のようだ。俺の力作なのだから当たり前だが、ちゃんと期待通りの出来だったようで何より。


 「じゃあ、俺も入るとするか」

 そう言って俺も一緒の浴槽に入る。


 「あーー、極楽じゃあ」

 思わず、言葉が漏れ出るほどに最高の風呂だった。この世界で初めて風呂に浸かったあの日に次いで気持ちいい。


 こうして至福の風呂タイムを満喫する我々だった。









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