第179話 塩はこうやって作るのか!
湖は遠目に眺めた通り、一見すると普通の雰囲気だった。
しかしよく目を凝らすと水草の類は一切生えておらず、湖底は茶色っぽい。水は元々の色が青色っぽいようで、そのため遠目に見ると岸辺は美しい色合いになっていたのだ。だが、中心部はかなり深いとみた。
なるほど。
どうやら元々かなり塩分が濃い湖なんだな。
「あそこに島が見えるな」
そう言いながら遠くを指さした。
そう。湖の中心部の近くに小島があるのだ。ちょっと興味深い。と言っても高さも無く、平坦で、下手をすればすぐにでも水中に没しそうなほど。草すら生えていない。
「そうなんだ。あれは
安直なネーミングだが、確かに分かりやすい。
そんな感じで湖の見学が終わり、ついでに塩作りをしているというリトの家の工房も見せてもらえることになった。ワクワクするな。
◇
工房は塩作りのための建物になっており、住人は住んでいない。思ったよりも小さいな、というのが正直な感想だ。
薄暗い中には金属製の平たく大きいタライがいくつか置いてあった。どうやらこれが塩作りに必要な設備らしい。
そんな疑問を見透かしたかのようにリトが答えてくれる。
「コレで塩を作るんだよ」
「ここに塩水を入れて加熱するのか?」
「そうじゃないよ。ほら、あれを見て!」
リトは壁際に立て掛けられていた数本のホウキのような道具を指さした。
よく見ると長い棒の先端部は金属製になっており、それが熊手状に横へと広がり、個々の金属棒の間は網目になっている。まるで棒の先にカゴが付いたかのようだ。どうやらこれで塩の塊を採取するらしい。
「なるほど。つまりは塩水ではなく、塩田に沈殿していた塩の塊をここに入れる訳だな!」
「ご名答。さすがに水から塩にするのは魔力がいくらあっても足りないからネ」
「それじゃ、リトは火焔魔法で乾燥させているの?」
「そうだよー。魔力を節約するために、できる限りあらかじめ水分を落としておくのがポイントなんだ。ここの集落では『水切り3年』って言われてるね。それだけ水を落とすのにコツがいる訳さ!」
「すごい……」
ユエはこの手の施設を見たことが無かったらしく、いたく感動しているようだ。何を隠そう俺もだ。
というか、てっきり濃いめの塩水を煮詰めていくものかと思っていたぞ。まさか塩の塊を乾燥させるだけだとは。ちょっと予想外だった。
それからリトの家に案内してもらうが、ご両親だけでなく近所の数人もいてにぎわっていた。我々は珍しい客人ということで歓待されている。ありがたい。
すると、ふと棚に置かれている小物に目が留まった。
おやっ? これはもしかすると……・
「ちょっとお取込み中すまないが、これらが何なのか気になるのだが」
「あぁ、これは『遺物』の破片だよ。あの湖から引き揚げたのさ。魚がいない湖だけど、網で底を漁ってさ。たまにこういったものが掛かるんだ」
「それは興味深い話だわ。ねぇ、サイ」
「そうだな。破片ということは完全な遺物が眠っているかもしれないからな」
「確かにそうかもしれない。だが、我々は深く潜れるわけではないから、まだ完全体の遺物にはお目にかかっていないのが現状だ。何しろただの水じゃない訳だからな。塩分が濃すぎて体が浮いてしまう。ましてや水を飲んでしまうと災難だ」
なるほど。底引き網のような形で遺物を収集しているのか。興味深い!
やはり普通の水ではないのがネックになるか……。
「それじゃ、これが副収入という訳だな」
「いや、それがそうもいかなくてな。とくに平島の辺りで遺物が出るんじゃが……」
これまで黙って聞いていたおじいさんが肩を落としながら語りだす。
「それじゃがな、実はな、最近になって湖に獰猛な魔物が棲み着いてしまってな。あまりにも危険なので遺物を探すどころでは無くなってしまったんだな」
「魔物?」
「そう。『キリング・シャーク』という殺人魚じゃ。ワシらの集落でも二人が犠牲になったさ。どこから現れたのか皆目見当もつかないが、あの魚一匹でそれはもう」
「ふむ。魚一匹でそれとは……。かなりの強敵のようだな」
「電撃魔法がきわめて効果的なんだが、何しろあの巨大な湖が相手さ。だからどうしようもなくて。困ったものだよ」
リトの父が補足してくれた。
塩湖に巣食う殺人魚か。これは面白い。
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