第164話 鎮火して何とお宝を発見!?


 「よし、今からやるぞ! 二人とも、よく周囲を注意してくれ。特に炎がどうなっているかを観察してくれると助かる」


 「いいわ。こっちは大丈夫よ。準備万端」


 「うん、いつでもいい」


 「では、開始だ!」


 さっそく円盤状の空間魔法を沼の上に浮かべる形で発動させた。それをジリジリと下方へと降ろしていく。


 ここで重要なのは空間魔法の活用は、あくまでも空気の遮断のために行うということだ。それで直接消火をしないのが鍵となる。


 この『水面』も表面には燃えカスなどが溜まり、かなりデコボコしている。そのため空間魔法で平たくしてしまうと怪しまれるだろう。


 う~む。


 予想はしていたものの、やはり逃げ場所というか空気を求めて火が円盤の外側へ伸長してくる。それでもさらに円盤を下げると炎の勢いが大分収まってきた。


 そろそろこの辺りが限界か……。


 とりあえず消火をするにあたって、水面はともかくとして沼の周縁部はあくまでも『自然な状態』を維持しておきたい。あまりにも不自然さが残ると後々で面倒なことになる。


 以前の『シルバーメタル・アリゲーター』の時のような尋問はもう経験したくない。


 我々は別にこの街に対して何の思い入れも執着もない。


 何となくの人助けで消火活動をしている。あとはお金が……。でも特に金に困っている訳ではない。だからやっぱり気まぐれだろう。


 もし俺が全力を出せばこの程度の火災を鎮火するのはそれこそ朝飯前だ。何しろ俺が持っている『ディメンション・カット』を広域展開してそっくりそのまま燃えている部分や延炎しそうなエリアをカットすればそれで終わりなのだから。


 「よし、出番だぞ、ノエル、ユエ!」


 「分かった~」

 「分かったわ」


 「それじゃあ、地面と円盤の縁を土石魔法で塞いでいってくれ。俺はこの空間魔法を維持するので手一杯だ。空気が入らないよう、穴が無いように目止めを頼む」


 姉妹はテキパキと手に入れたばかりの土石魔法で縁に粘土を噴き出して固めていく。


 これで円盤を一周すればおそらく鎮火できるはずだ。


 それでも円盤と地面の隙間から噴き出す炎が存外、激しい。


 「二人とも、威力を上げて噴射する感じでやってみてくれ!」


 そう檄を飛ばす。


 大体10分が経過した頃合いだろうか。


 ようやくグルっと一周の目止めが完了し、炎は鎮火した。


 「やったー! ついに火が消えたみたい、サイさん、お姉ちゃん!」


 「そうみたいだな。よくやったぞ二人とも!」


 そうは言っても油断は禁物だ。念のため、さらに10分程度待ってから、空間魔法を解除した。そうして完全に鎮火していることを確認した。


 さて、ここで重要なのは、そろそろ黒煙が絶たれたことにギルドが確証を得るタイミングなのではないかということだ。


 ということで、早くギルドに戻って説明をする必要がある。


 だが、……。


 どうしたものか。


 ちょっと沼が気にならなくもない。


 俺の予想では石油が湧き出ている沼だ。実のところ、それだけでもう面白い。あともう少しだけ沼を観察してみたくなった。


「サイ、どうしたの?」


「いや、何、ちょっと気になることがあってな。池の中の様子を確かめてみたいんだ」


 そう言い放ち、ゆっくりと沼に近づいてみる。


 幸いにも岸辺の地盤は固く、ぬかるんでいない。そのためかなり水面まで寄っても足元が取られたりすることはなさそうだ。これは運が良い。


 まぁ、考えてみればそうか。この沼は過去2年間もの長期にわたって燃え続けていた訳だ。よく見ると岸辺の粘土質はすっかり焼け焦げて硬化してしまっている。



 さてと。


 狙い通り、この黒々とした液体中にいいが……。



 ここで池の中で空間魔法を発動させる。中といってもやや浅い場所。そこで発動させたのは数メートル四方の立方体。


 さて、ここからが正念場だ。


 それで沼の液体をそっくりそのままカットして持ち上げて、移動させ、岸辺の真上で解放させる。


 ドバッーーー!!


 勢いよく石油が流れ出す。ほとんどはそのまま流れて沼へと戻っていく。


 問題は残りだ。


 ……。


 「ねぇ、サイ。あれは何!?」


 ノエルが驚きの声を発した。


 「あれは魔物の頭だな」


 角が生えたサイのような大きな動物の頭がそこにあった。


 予想通り。


 『鑑定』


 こ、これは!?


 --

 品目・種別:ポセイドン・ライノの頭部

 総合等級:B

 素材レベル:B

 特記事項:『ポセイドン・ライノ』は絶滅したA級の魔物。

 --


 これだよ、これ。

 この瞬間を待っていた。


 つまり、既に絶滅してしまった魔物の骨がこの沼の底に眠っているということだ。

 

 これは大発見なのではないだろうか?


 どれ位の量の素材が眠っているのか検討も付かないが、これは大注目の案件間違いないだ。カディナの魔石鉱山のような『鉱床』と言い換えてもいいかもしれない。


 「すごい、すごい! こんなの見たことないよ、サイさん!」


 ネコ耳姉妹は無邪気にはしゃいでいる。


 素材レベルがAランクでないのは残念だが、逆に言えば石油中なので劣化はこれでも抑えられているのかもしれない。


 とりあえず完全に鎮火させて、素材も手に入れたところで一刻も早くギルドに戻ろう。


 というのも、依頼の完遂後は迅速な報告が求められているからだ。


 そうは言っても素材回収のための時間を取り過ぎた。

 このロスは何とか誤魔化すしかない。


 仕方ない。奥の手だ。


 「二人とも、早く乗って!」


 俺は空間魔法を発動させ、その上にすぐさま三人で飛び乗った。あとは隠蔽スキルを発動させ、時間短縮を図る。








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