第163話 いよいよ消火をする頃合いだ
さてと。
改めて俺たちが置かれている状況を整理しよう。目の前にあるのは直径30メートルほどの真円の沼。
しかしこれは水ではなく石油が湧き出ているという特殊な状況。しかも大きな火柱が随所から上がっているときた。
加えて現在進行形で水面全体が炎に覆われている。はっきり言えば、今まさに大惨事の現場の真っ只中にいるのだ。
しかも依頼主の規則により放水魔法は使えないが、そもそも黒い水の正体が石油とあればいずれにせよ使うべきではない。
我々が持っている使えそうな切り札は土石魔法と空間魔法の二つ。これで何とか乗り切ろう。
それにしても思ったよりも火災の規模が大きいのが良くない。
しかし……、だからか。
聞くところによると、この沼は過去2年もの間、ずっと燃え続けてきたという。逆に言えば、誰も消火することはできなかったのだ。
実際に沼を見てみると十分に納得できる。
何しろこの規模だ。
例え複数のパーティーが徒党を組んだとしても消火するのは困難に違いない。
見ての通り油に着火ということは、完全に火元を絶たないとすぐに火が復活してしまう。この『完全に』という条件が鬼畜だった訳だ。仮に一瞬だけ大部分の炎を消したとしても、最終的な消火という観点から見ればほとんど意味をなさない。
なるほどな。
「それでサイ、どうやって対処するの?」
おっと、ノエルが急かしてくる。
そうだな。
とりあえず現状の把握は終わったところだ。
ここはギルド指定の時間制限があるから早く取り組んでしまおう。
「それなんだが、俺の考えとしては2つの魔法を使う」
「二つの魔法?」
「そうだ。具体的には、というか消去法で『土石魔法』と『空間魔法』を併用して使っていく。だが、俺の考えている使い方は自分一人ではできない。だから二人には手伝ってほしい」
「もちろん良いわよ!」
「うん!」
「じゃあ、さっそく取り掛かろう。その前に俺の考えを話さないとな」
「ぜひ聞きたいわ」
「まず基本的には俺の空間魔法を発動させて消火する。詳しく言ってしまうと、燃え盛っている水面の上側をそっくりそのまま空間魔法で覆って蓋をしてしまう訳だ」
「やっぱりそうなるわね。ミナスで橋を架けた時の様子を見て、そんなことが出来るんじゃないかと思っていたけど、やっぱり出来るのね」
「土石魔法は使わなくても消火できる?」
「良い質問だ、ユエ」
「えへへ」
ちょっと照れているユエも可愛い。
「まず空間魔法が使える人間が少ないことが問題だ。実は岸辺ごと空間魔法で水面から上をそっくりそのまま切り取ることも俺には可能だ。しかし、それをすると消し去った跡が平坦になってしまって、他の手段で消したという言い訳ができなくなってしまう」
「つまり、サイは【カモフラージュ】をしたい訳ね」
「その通りだ。ちょっと回りくどい方法になってしまうが……。しかし、いずれにしても空間魔法で沼の上部を覆っただけでは火は消えない。だってそうだろう? 水面と空間魔法の間には意図的に隙間が生まれてしまうから、どうしても立体の縁から空気が入り込んでしまう。そういうことだ」
「話が見えてきたわね。つまりその目止めを土石魔法ですれば、私たちが空間魔法を使わなかったように見せかけられる、そういうことね?」
「話が早くて助かるよ。とりあえず表向きにはそう見えた方が何かと都合がいいはずだ。もしギルドが近くで監視をしていなければの話だが」
「そうね。確かに土石魔法なら何とかごまかせるかも……」
「そうと決まれば早速、試してみるか」
とりあえず方針は決まった。
あとは実践に移して様子を見るだけだ。
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