第149話 土石魔法で感謝の置き土産


 首尾よく土石魔法を習得した我々が次に向かったのは集落の敷地の外だ。厳密には、この集落に通じる大渓谷に架けられたリフトのようなロープの橋。


 果たしてこれを橋と呼んでいいのかどうかさえ分からないが、それはこの際脇にでも置いておこう。


 俺の考えではここは土石魔法を試すのに最適の場所だと考えている。何しろ俺の資質はいつも通り【超級】。下手に魔法を使えば大変な迷惑を掛けてしまうかもしれない。


 だが、この渓谷が相手となればいくら土砂を放り込んでもひとまず問題にはならないはずだ。


 なにせ、幅は数十メートル。深さは100メートルとまではいかなくても、50メートルほどありそうに見える。


 下にはかなり流れの速い川があり、多少の土砂ならすぐに消え去ってしまうだろう。


 そして今は幸いなことに周囲に誰もいない。

 なぜなら今はお昼休みであることを知っているからだ。


 我々がここを渡った際に男がそのことを教えてくれていたのだ。時間は長めで、昼の11時から3時間。もし俺たちが来るのが早かったらリフトが動いておらず、しばらく足止めを食らっていた訳だ。


 「よし、とりあえず試しに渓谷の底に土石魔法を打ち込んでみよう」


 「それじゃあ、まず私がやってみるわね」


 ドシューー。


 なるほど。


 土が一気に噴出された。

 これが土石魔法か。


 「私も!」


 ドシュー。


 ノエルより多少なりとも威力が劣っているような気がするが、全体的に見ればまずまずだ。


「じゃあ、最後に俺の番だな」


【ドッシャーーーーー。ガシャガシャガシャ!!!!】


 右手から大量の土砂が噴き出し、あっという間に谷底に落ちていく。


 あまりの光景にあっけに取られるノエルとユエ。

 呆然と立ち尽くしている。


 ようやくノエルが口を開いた。


「相変わらず凄いわね。サイの資質は上級ってことは無いわよね?」


「俺の資質なんだが、実は『特級』なんだ」


 ひとまず、そう答えておく。本当は【超級】なのだが、さすがにそれを言う必要は無いだろう。


「さすが『特級』ね。ものすごい説得力。これは納得できるわ。信じられないほどの威力だもの」


「すごいよ、サイさん。こんな威力があれば建物だって建てられそう!」


「それだ、ユエ」


「へ?」といった感じでそれぞれの顔を見つめ合う姉妹。


「今からそれをやるぞ!」


 ニヤニヤした顔で俺は姉妹にこんな提案をしてみる。


 「ノエル、ユエ。これからここに新しい『橋』を架けようと思うんだが、協力してくれるか?」


 「えっ! 橋を、ここに? 本当にできるの? 村の人々が困っている様子だったから、もし橋が出来たらみんな喜ぶわ」


 「私も賛成~! でもどうやって橋を作るの?」


 「いい質問だ。それには二人の協力が必要だが、まずは見ていて欲しい」


 そう言って、俺は橋の跡地に移動した。今のリフト橋が運用される前にはここにきちんとした橋が架けられていたという。再建するのであれば、ここが最適だろう。


 「まずは空間魔法だな」


 俺がまず発動されたのは巨大な円柱型の空間魔法だ。これを渓谷の谷間にすっぽりとハマる大きさに調整していく。つまり俺たちから見ると、アーチ状の空間魔法が対岸まで繋がっているように見える。


 「すごいわ。こんな空間魔法、私、使えないわ」


 「いや、ノエルにも後で空間魔法を手伝ってもらうぞ。だが、次は土石魔法だ」


 バシャーー!!


 猛烈な勢いで噴き出す土、土、そして土。

 それを発動している空間魔法の上に被せていく。


 少しずつ横倒しになった円柱の上が土に覆われていくのが分かる。


 だが、これは単なる土ではない。


 「今、俺が出しているのは普通の土ではなくて、実は粘土なんだ。よし、ノエル、手伝ってほしい」


 「何をしたらいいの? 私が手伝わなくても大丈夫そうに見えるけど……」


 「いいや、ノエルの力が必要だ。まず板状の空間魔法を発動させて、この短い円柱の脇に張り付けて欲しい。橋の縁をきちんとしたいんだ」


 「なるほど、そういうことなのね。お安い御用だわ」


 そうしてノエルが片方の縁に空間魔法の板を張り付け、そうして押さえつけている間に俺が粘土を被せていく。


 「次にユエだ。今、ノエルと俺は手一杯だから、違う仕事を頼みたい」


 「うん、分かった~」


 「それじゃあ、火焔魔法を使って強火を当ててくれ。可能な限り強い炎で頼む」


 「これで粘土を焼いて固めるって訳ね」


 「その通りだ、ノエル。よろしく頼むぞ、二人とも」


 こうして2時間ほどで見事な橋が完成した。


 まるでレンガ造りのような非常に巨大で立派なものだ。

 我ながら満足な完成度。


 そして毒見役として俺がまず渡ってみる。これは俺が適任だ。むろん女の子に危険な役回りをさせるのは気が咎めるという理由があるが、それよりも大きな利点があるのだから。


 なぜなら俺は空間魔法で飛翔することができる。逆に言えば、例え最悪の事態が起きたとしても俺に限り何とかなる可能性が高い。


 こうして俺、ノエル、最後にユエが橋を渡り切り、とりあえずの安全性は保証された。


 まだ橋の管理人たちはお昼休みの真っ只中だろうが、彼らがいつ戻ってくるとは限らない。


 今がチャンス。


 そのまま橋を後にして、俺たちは次なる目的地『ランドコール』を目指すことにした。




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