第147話 土石魔法の集落はイメージ通りの村でした
ついに我々は集落の敷地の中に足を踏み入れたのだが……。
う~む。
これは凄いな。
何だコレ。一体何なんだ、この集落は!?
まるでおとぎ話に出てくる世界に迷い込んだかのようだ。
見る限り、それぞれの家々はすべて土で造られている。屋根だけは木の板で敷かれているが、壁や土台など基本的には土、土、土、そして土だ。
もしかすると粘土かコンクリート的な何かの方が適切かもしれないが、いずれにしてもこれまで見てきた街とは大違いだ。
住民に訊いたわけではないが、そうか…… これが土石魔法の使い方か。
正直なところ、水や火と比べて土石魔法はそれほど役に立たなそうだと考えていた。それこそ優先順位を付けるとなると確実に優先度は落ちる。
だが、いざこうした立派な構えの家を見てしまうと、これはこれで有用そうに見えてしまう。
「すごいね、お姉ちゃん、サイさん! 立派なお家がいっぱいあるね。こんなの見たことないよ」
「本当にすごいわ。これなんてどうやって仕上げたのかしら」
ノエルがそう言いながら指さしたのは、とある家の前に置かれているオブジェだ。おそらくジャイアント・ボアが元になっているのだろう。大雑把にデフォルメされた外見だが、きわめて完成度が高い。
いくら魔法が使えるからと言ってもそれなりの腕がなければこうはいかない。
ううむ。
これが土石魔法の使い方か。
衣食住で言うところの『住』において有用そうな魔法なんだろうな。
◇
何だかんだで夕方になってしまったので、ひとまず集落に一件しかない宿にチェックインする。
そうして一休みしたところで俺は姉妹に提案してみた。
「そろそろ夕食の時間だな。良さそうな店を探しに行かないか?」
「えぇ。もちろん。いいわよ」
「私も賛成! お腹減ったね」
狭い集落だが、それでも探してみるといくつかレストランが見つかった。
その中で一番繁盛していそうな店に入る。もちろん土石魔法を使った奇妙な外観の建物だ。
「いらっしゃい!」
「あー、いきなりですまないが、ここのおススメは何かあったりするか?」
「おススメは何と言っても、これだね! ミナス特製のミナスブレッドさ。ここにあるこの壺のような窯の内側に生地を張り付けて焼き上げるんだ」
「なるほど。それにしても奇妙な見た目の窯だな」
「そうなんだ。これで焼き上げると外側だけでなく、窯の内側からも熱が入るから、旨味がギュッと閉じ込められるという訳さ」
「美味しそう」
「確かに良さそうだわ。それを人数分頂きましょう」
……ということで、注文はすぐに決まった。
この壺のような窯。
どこかで見たことがあると思っていたが、ようやくデジャヴ感の正体が分かった。
これはあれだ。
インド料理屋に行ったときに目に入ったタンドール窯そのものだ。
窯の内側にナンの生地を張り付けて焼いたり、巨大な金属製の棒にチキンを刺して中に入れてタンドリーチキンを作ったりする。まさか異世界で目にするとは。
予想通り、この窯はパン以外にも様々な料理を作るのに使われているようで、メニューの大部分はこの窯を使ったものだった。
「これ本当に美味しいわね。さすが焼きたては別格だわ!」
ノエルがそう褒め称えるのも頷ける。どれも非常に美味である。
さすが土石魔法のミナス。
こうして楽しく美味しい食事を堪能した我々は、満足したまま床に就いた。いよいよ明日は土石魔法の習得に挑戦する。否が応でも期待が高まる。
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