第137話 大蛇の倒し方なんて知らないぞ!


 我々の目の前に横たわっているのは、ポイズン・アナコンダという巨大なヘビの魔物。


 これは見るからに力が強そうだ。


言わずもがな巻き付かれでもしたら最期、もう助からないだろう。そして頭にわざわざ『ポイズン』と付いていることから、おそらく猛毒を持っているはず。


 もっとも今の俺ならば倒すのにそれほど手間はかからないだろう。ただし余計なことを気にしなければ。


 そう、俺はその『余計なこと』に気に掛ける必要がある。


 ずばりノエルとユエの存在だ。彼女らは仲間とはいえ、どこまで手の内をさらけ出していいのか、まだ考えあぐねている。


 まぁ、これはまだましだ。彼女らは信用のおける仲間だから、この程度の魔物を倒す程度なら多少の魔法を見られてしまっても構わない。


ただし空間魔法の『ディメンション・カット』だけは別だ。さすがにこれを使うのは止めておこう。あくまでも最終手段ということで。


 問題はもう一つの方。


 あまり見たくもないのだが、現在進行形で冒険者が大蛇の口の中に飲み込まれている最中なのだ。


 例えば戦闘火焔で倒すとなると、その冒険者の遺体も灰になってしまう。果たしてそれでいいのだろうか?


 否、いくら事情が事情とはいえ、やはりそのようなやり方は望ましくないだろう。あとでギルドが調査するかもしれないし。遺族がいれば引き渡しをしなければ。


もちろん倒すのが最重要事項であることは変わりないが、俺なりに違う倒し方を考えたいところ。


 そして俺だけが倒すというのもダメだ。あくまでも3人の協力で倒すというのがパーティーを維持させるコツだろう。素人ながらそう考える。


 とはいえ、このままでは冒険者が完全に腹の中に収まってしまう。


細かい戦術を練る暇がない。

仕方ない。ここはひとまず攻撃だな。


 「ノエルとユエは胴体と尾を火焔魔法で攻撃してくれ。俺は頭を何とかするから」


 「まかせなさい!」

「分かった~」

 バシュッ!


 ズドーン!!


 姉妹が戦っている間に俺は大蛇の頭を叩く。


 そうだな。


 今回は【水攻め】と行こうじゃないか。


 さっきノエルが口にしていた『湖に引きずり込んで沈める』という方法だ。つまり窒息させてしまえばよい。こうすれば毒牙の脅威もかなり小さくなるはず。


 よし、空間魔法、そして放水魔法のミックス。


 俺はすかさず、大蛇の頭をすっぽり覆う円筒形の空間魔法を構築。そして先日サティアの井戸を浄化したように、その円柱の中を水で満たしてみた。


 理論上はこれで湖に引きずり込んだのと変わらない、はずだが……。


 バチャッ!


 「あっ」


 ダメだった。


ポイズン・アナコンダの暴れた衝撃があまりにも強く、せっかく空間魔法で作ったプールから頭が飛び出してしまった。これは失敗だ。


 こうしている間にもノエルとユエは果敢にも立ち向かっているから、何とか注意を俺に引き付けたままにしておきたい。


 う~ん。


 次の一手をどうするか?


 「ちょっと、サイ。まだーー!? 早くどうにかならないの? もう、こっちは限界なんだけど!」


 いかんいかん、ノエルから何とかしろとのお達しだ。


 「尾が飛んできて怖いよぉ~」


 ユエも同じくそれなりに苦戦しているようだ。意外にも鱗の装甲が分厚く、二人の強靭なファイアー・ボールをもってしてもあまり効いていない様子。




 あぁ、そうだ。あの手があったな。


 はるか昔に工場見学をした時のことを不意に思い出したのだ。


 その工場では、工業製品の材料を切断するのにウォーターカッターを使っていた。別名をウォータージェットと言い、水を高速・高圧で噴射することでかなりきれいに切ることができる技術だ。


 そうだな。


 即興だから上手くいくかどうか不明だが、いっちょ試してみるか。


 ポイズン・アナコンダは先ほどの放水魔法でたいそうお怒りのご様子。首を上に持ち上げて俺に狙いを定めてロックオン、といった具合だ。


 今がチャンス。


 「ウォーター・ビーム!」


 俺は身体強化スキルを使って頭の根本よりさらに胴体寄りの場所まで一気に移動し、即席のウォーターカッターを手から射出した。戦闘放水魔法で生み出した水の細流。これが機能してくれれば、俺としては万々歳なのだが。


 ボトッ……。ドドォン。


 「おぉー!!」


 決まった。

これはまた随分と鮮やかに決まったな。


 俺がウォーター・ビームを放った刹那、ポイズン・アナコンダの首は見事に切断され、頭がそのままボトッと地面に落ち、少し遅れて胴体が地面に落ちた。


 ピタリと攻撃が止んだことで俺の方を振り向いたネコ姉妹。


 俺が無事に勝ったことに気付いたようだ。


 「すごい! 本当に倒しちゃった!! しかもこんな鮮やかに」


 「サイ、あなた本当に凄いのね! 今のはまさか放水魔法!?」


 「魔法習得の旅で放水魔法を会得したからな。さっそく役に立ってくれて何より」


 そう俺が言うと、姉妹がモーレツな勢いで首を横に振る。


 どうやら “普通” の戦闘放水魔法の使い方では無かったらしい。


確かに単なるビームを出すこと自体は容易いだろう。だが、大蛇の首を一瞬で切断できるほどの威力を出せるかとなると厳しいかもしれない。


 まぁ、とりあえずこれにて一件落着。


 俺たちは目的地のミナスへ向かって再び歩き始めた。


 ちなみに魔石は回収済みだが、件の異常種では無かった。

とりあえず、これは良い情報だ。







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