第93話 科学技術と魔法はトレードオフの関係なのか?
ようやく長々とした荷物検査と身体検査が終わった。これで完全に開放され、ついにサルキアの街に入った。う~ん、既にかなり疲れている。主に精神的にだが……。
もう街を出たいというか、二度と来たくないな。
だが、ここまで来たのだから、何としてでも街を見学しなければ。
◇
おぉーー。
目の前に広がっていたのは今まで見たことのない、石造りの街だった。
俺がこれまで滞在した街はどれも家の素材としては木材がメインだった。なぜなら、森林資源が豊富で、木造にするのが理にかなっていたからだ。
しかし、この街ではそれが一転、目につく建物はすべて石で出来ている。それもそのはず、真横に広がるのはドンキル大渓谷。こちらは大きな岩盤がむき出しになっていて、石材が山のように取れる。対してサティア側は大量に土砂が堆積しているような印象だった。
「思ったよりも普通だな」
それがこの街に来て最初の感想だった。建築物が石造りという以外にとくに変わった特徴は見当たらない。だが、ここは街というより、どこか別の『国』に来たかのように錯覚してしまう。
この世界には街はあれど、国というシステムが構築されていないと思っていたのだが……。
それはさておき、まずは両替だ。
適当に5千クランを両替する。
「う~ん、見事だ」
出された硬貨を見て、思わず唸ってしまった。品質がよい。というか、違いすぎる。大人と子供ほどの差が有る。
そうか、分かった。
ここは【科学技術】が売りの『国』なんだ。
メインストリートを歩きながらギルド会館を探す。
俺のスタンスとして、依頼の掲示を見れば、その街となりが分かると考えているからだ。
「武器屋か!」
俺の目はある店舗に釘付けになった。
それがこの武器屋だ。
なるほど。サルキアではどのような武器を扱っているのかを見るだけでも何か発見があるかもしれない。
とりあえず中に入ってみるか。
う~む。
これは驚きだ。
何で俺が驚いたかだって?
それは『鑑定』の結果、扱っている武器が【大量生産品】であることが分かったから。
つまりこうだ。
長鋼形の剣は金属の板を単純に削り出しただけに過ぎない。
言い換えれば、槌を振るって打っていないのだ。
当然、焼き入れさえもしていない。
これにはビックリたまげた。
鉄を鍛えるのは常識なはずだが、コストパフォーマンスを重視してか、そのような作業はまったくしていない。
さすがに1枚の金属板だけだとペラペラと曲がってしまうため、3枚の板を張り合わせて1つの剣に仕上げている。もちろん真ん中は強度の大きい金属を使っているものの、あまりにも手抜きがすぎる。なるほど、こうやってコストカットをするのね。
これは……。
いや、他の国の製品にケチを付けるのは本意ではないが、ちょっとひど過ぎて言葉がでない。
ただし値段はきわめて安価。
サンローゼの3割といった価格設定だ。
端的に言えば激安の超特価。
だからといって、これがリーズナブルかと言われれば、それは違うだろう。
少なくとも俺は絶対に買わない。これだけは間違いない。
なるほど。
チラッと武器を眺めただけでも、この国となりが何となく分かった気がする。
工業に力を入れていることがよく分かったが、その一方で冒険者らしき人間は見当たらない。そして魔法の影も形も無いほど存在感が薄いのだ。
さて、こうして『収穫』があった武器屋の見学だったが、店を出ると問題にぶち当たった。
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