第89話 流行り病の治し方を探せ


 さて、とりあえず奇病の根本的な要因を解決できた。


 問題は次だ。


 言うまでもなく、現在進行形で街にいる大量の患者。

 これをどうにかしたい。


 新たな患者が出なくなっても、この大量の患者を何とかできれば御の字なのだが……。


 俺はこのサティアが気に入っているから、とにかく街の人間が苦しんでいるのを見るのは耐えがたい。できれば彼らをまとめて治したいが、はたしてそんなことができるのだろうか?


 実際のところ、この世界に回復魔法や治癒魔術は存在しない。

 あるのはポーションだけだ。


 ということで、まずは様子を伺うためにポーション専門店へと足を運んでみる。ここは薬屋、言い換えればドラッグストアのような場所だ。


 チリンチリン。


 ドアに括り付けられたベルが景気のいい音を鳴らす。


 「いらっしゃい!」

 若いお姉さんの店員がいた。


 しかし、間髪入れずにこう続ける。

 「……と言いたいところだが、これを見てくれ」


 そう言って、お姉さんが両手を広げて大げさな様子で店の中をアピールする。


「見ての通り、今日でポーションはすべて無くなってしまったんだ。売り物が無いから、もう店仕舞い。わざわざ来てもらってすまなかったな」


 薄々予想はしていたが、やはりこんな状況だったか。

 店内は既に一人も客がいない。


 「なるほど。状況はよく分かった。だが、1つ尋ねたいのだが、ポーションでこの流行り病に効果はあるのか?」


 「ある…… と言いたいところだが、残念ながら効いたという情報は入ってないな。まだ誰も治していない病だ。せめて原因が分かればなぁ」


 「ふむ。原因か。もし仮にジーガス・ツリーの木の実の毒だった場合、何とかなりそうか?」


 「何っ!? ジーガス・ツリーか。それは盲点だった。というか、よく知っているな。そもそも木の実は希少価値が高くておいそれと手に入るようなものではないんだがな。ジーガス・ツリーは生命力が強いと言われる植物で、ご利益を求めて限られた宗教儀式で使われるような代物なんだ。しかし、どうしてそこに行き当たったんだ?」


 おっと、いきなり困る質問が来てしまったぞ。


 「えぇと、その、あれだ。以前、たまたま見かけた病気の症状によく似ていた、というのが答えになるかな。その患者はジーガス・ツリーの木の実で、あろうことかお茶を煎じて飲んだらしい。それを知っていたから思い当たった。まぁ、たまたまだ」


 もちろんこれは嘘っぱち。

 もっともらしい理由をつらつらと並びたてただけだ。


 「なるほど。確かに、抽出物には毒が含まれるし、街の感染者の症状とも矛盾はしないか……。とすると、治療できるかもしれない!」

 とりあえず、うまく信じてもらえたようだ。


 「それは本当か!」


 「ああ。それは保証しよう。ただし、問題がある。ポーションの原料だ」


 「原料?」


 「そうだ。毒を中和するためには、スロモソウの葉が欠かせない。しかしこの辺りで群生している場所はあるにはあるが、ここから歩いて1時間半の道のりだ。収穫した葉を担いで戻るのはちとしんどいかもな」


 「なら、俺が一緒に付いていこう。二人いれば何とかなるだろうからな」


 「おお! それは助かる。では、さっそく今から行こう」



 ◇


 という訳で、俺たち二人はスロモソウの葉を求めて密林に分け入った。


 獣道のような細い道を進むこと1時間、道が分岐した。さらに左側の小道を進むこと一時間弱。突如として森が途切れ、目の前には100メートル四方はあろうかという空間が広がっていた。そこに密生して生えている巨大なシダのような植物が目的のスロモソウだ。


 まずはようやく目的地にたどり着いた。


 「さてと、ここで問題がある」

 と、店員のお姉さんことセラが話を切り出した。


 「どうしたんだ? この葉の状態が良くないとか、そういうことか?」


 「いや、そうじゃない。問題は回収の方法だ。ただ試験的に薬を作るだけなら1枚もあれば十分だろう。だが、もしこの薬が有効だとすれば、すぐにでも量産しなければならない」


 「話が見えてきた。つまり、ここまで戻ってくるのが面倒だから、今回できる限り多くの葉を持ち帰りたい。そういうことだな?」


 「そうだ。話が早くて助かるよ」


 「なら、その点は問題ない」


 「どういうことだ??」


 「この事は他言無用だが、俺は【空間魔法】が使えるんだ」


 「な、何いっーー!! く、く、く、空間魔法だとーー。本当に実在するのか。今、ここで見せてくれ」


 あまり手の内を見せたくないが、この流れ上、これは仕方ない。


 試しに収穫したばかりの葉を2枚、空間収納に入れる実演をする。


 「と、まぁ。こんな感じだ」

 軽く指さしながら、いかにも簡単そうな素ぶりをする。


 「ほ、本当に収納された。にわかには信じられないが、確かに消えてしまった。すごいな」


 「だが、これで分かってもらえたと思うが、いくらでも収穫して大丈夫だぞ」


 ……という流れで俺たちは大量のスロモソウの採取に成功した。


 とはいえ、これを原料にしたポーションが使い物にならなかったら意味が無い。





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