第53話 完全に想定外の魔物
「何、あれ?」
次第に暗くなりつつある山道を歩いているとクレアが突然、警戒感のある声を発した。
指さす方向を見てみると何やら明るいものが見える。まるで火の玉のようだ。
「ワォーン!!!!」
えっ、その火の玉の方から何やら聞こえてきたんですが……。
「まずいな」
ダルガーが小声で話し始める。
「あぁ、確かにヤバそうだな」
カタレナが相槌を打ちながらそう応じる。
「えっと、あれは何なんだ?」
当然の疑問を訊いてみた。
「おいおい、サイ。あれが何か知らないのか? 『フレア・ウルフ』だよ、フレア・ウルフ。Aランクの魔物で常に炎に覆われている厄介な相手だ」
グラーゼが色々と教えてくれたが、どうやら我々は大きな問題に巻き込まれてしまったらしい。
炎に覆われている動物なんて初めて見た。すごいな。さすが異世界。
「ちなみにどうやって倒すんだ?」
「倒す? あれを? 何かの冗談だろ!? あれはAランク冒険者が何とか倒せるレベルの魔物で、しかも氷結、いや、最低でも強い放水魔法の適性がないと相手にならないんだぞ」
「誰か氷結魔法が使えたり…… しないようだな」
周囲を見回しても皆一様にうなだれている。とはいえ、大人しく見逃してくれるような相手ではなさそうだ。既に静かにこちらに近づいてきている。
「木に登る、とかは?」
「あのな、サイ。木に登ったところで燃えて倒れるだけだろ」
「なるほど……。確かにそうだな」
「ちょっと逃げるのは厳しいかな……」
クレアが補足してくれる。やはり逃げるのは難しいのか。大人しく見逃してくれる相手でないなら、余計に厄介だな。
「おい、皆静かに。戦闘態勢に入れ!!」
ダルガーの鶴の一声により、緊迫感が一気にマックスになった。
「武器を取れ。なるべく自分がかわせるようにしながら攻撃を出していけ。とにかく触ったら死だと思え!」
カタレナが続けて指示を出す。
う~む。
またもやトラブルに巻き込まれてしまった。
異世界、試されすぎ問題。
しかしこれは他力本願だから何とか対応するしかない。
派遣時代と同じように。
ただ、この世界では文字通り命がかかっている。
その違いは果てしなく大きい。
考えろ。
俺が使えるのは戦闘火焔と身体強化スキル。
とりあえず身体強化で何とか攻撃を回避して生き延びる。
まずはそれだけ考えよう。
「ヤバい。来るぞ!!」
グラーゼが叫ぶ。
いよいよ会敵。
まずはダルガーが自慢の大剣を当てた。
ダイレクトヒット。
しかしフレア・ウルフは全く動じる様子がない。体表から出る炎が威力をキャンセルしているようだ。
これは強敵だ。
「ヒュン、ヒュン」
連続してクレアが放った矢が首尾よく本体に命中するも、やはり全くダメージが通っていない。
「あ、ああー」
おっと、品のない声を出してしまった。しかしこの戦力差を目の当たりにしては無理もなかろう。
「サイ、注意しろ!」
うっかりしていた。まさにフレア・ウルフがいきなり反転、そして急加速して俺に飛びかかってきた瞬間だった。
すぐさまスキルを発動してこれを回避。
頭の上を魔物が飛びぬける様子がまるでスローモーションのように脳裏にこびりつく。ダルガーの警告が無かったら危なかったかもしれない。
そして今の一瞬を利用してちゃっかりお腹側も注意深く観察していた。
これは以前のシルバーメタル・アリゲーターの時のような愚を犯さないようにという反省の元での行動である。
なんせ例の巨大ワニの弱点はお腹だったので、今回もそうなのではと思ったからだ。
しかし腹側も炎に覆われており、少なくとも極端な急所という風には見えなかった。もちろん背中と比べれば弱点と言えるだろうが、力を込めて攻撃するのが厳しい位置だからこそ、打撃を与えるのは難しい。
「い、今のをよくかわしたな」
「す、すげぇ」
それはさておき、八方塞がりの状況は変わらない。
困ったことになった。
どうすればこの差し迫った状況を脱出できるのか。
しかも魔物の攻撃を避けながら。
はぁ~。
俺に水系か氷系の魔法があれば何とかなったかもしれないのだが、まだ習得してしなかったのは迂闊だった。
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