第43話 剣戟の嵐の中で果たして勝ち筋を見つけられるのか??
「よし。開始じゃ!」
オオババ様の声が響く。
ついに模擬戦が始まった。
しかし両者は一向に動かない。
当たり前だ。
それはそのはず、お互い、相手のことを知らなさすぎる。
しかしその対峙も20秒ほどで終わった。
沈黙を破ったのはもちろんラートだ。
あの短気な性格ならば、我慢できるはずがないだろう。
「おりゃーーーー!!」
迷わず真正面から突っ込んでくる。
ガコンッ!!
そのまま正面から受け止める。
どっしりとした重い剣戟。
なるほど、強いな。
数秒受け止めただけですぐに剣を逸らして、今の一撃は終わりにした。
ふむ。
たったの一撃だが、これでかなり様子が分かった気がする。
ガッ、ボコッ、ガガガーッ。ドコォン!
ひたすら剣のぶつかり合う音が響く。
木製だから鈍い音しか出ないが、それでもこの威力で打ち合っているのだから当然、それなりの音は出る。
剣戟の嵐。
まさにそう呼ぶのが相応しい。
正直、まったく余裕がない。
ラートはその大雑把な動きの割には隙が見当たらない。
元々獣人の猫族は俊敏さに優れているようだ。
そしてラートはHPがノエルや俺よりも全然高く、それこそ圧倒的なアドバンテージがある状態。
しかし俺はというと身体強化スキルを既に発動済み。これで何とか対応可能な状況ということでジリ貧と言える。
とはいえ、あくまでも正攻法での剣の打ち合いだ。剣筋は見えるし、体も付いてきている。だが、一撃でもまともに食らったなら最後。出来ればそうならないようにしたい。
『あれ、おかしいな』
数分後、俺は不意にそう思った。
向こうが有利なのは変わりないが、俺は力を受け流したり、横や後ろに飛び跳ねたりすることで、なるべく衝撃を逃がすことに努めてきた。
それがどうだ。
相手は受け身という概念をまるで何も知らないかに見えるほど、衝撃をまともに食らってしまっている。しかも剣筋がどれも直球勝負といった具合で攻撃が非常に読みやすい。まるで野球のピッチャーが全球ストレートを放り投げているようなものだろう。
それより重要なのが、いとも簡単にフェイントに騙されることだ。
戦い方が真正直すぎる。
はは~ん、勝ち筋が見えてきたぞ。
実は小さい頃に合気道を習っていたことがある。
といっても親に入れられた教室で肌に合わず、たった数か月でやめてしまった。
しかし、簡単な力の受け流し方は覚えている。
それを遠慮なく使っていく。
「なっ!! 馬鹿な!!」
ラートが驚きの声をあげる。
それもそのはず、正面から切りつけたと思ったら、その相手は気が付くとどこにもおらず、次の瞬間には地面と顔面キスをしているのだから。
これで驚くのはまだ早い。
ここからは応用編だ。
剣の力を逃がしつつ、足技を使って相手を翻弄させる。
相手の力を逆に自分の武器として利用していく。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。
ひらりと舞うように相手をいなす。
容易い。
やはりこの手の戦い方に慣れていないようだ。
簡単によろけてくれる。
ここまでくると外野がザワザワし始める。
とはいえ、これだけでは勝ったとは言えない。
確実な一手が欲しい。
解せないのが、これだけ翻弄されているのに、まだ正面から挑もうとしてくることだ。
いいだろう。
これで終わらせてやる。
ラートが真正面からめげずに突っ込んでくる。
このタイミングしかない。
ここで、わざとらしく剣を強調して前に構える。
狙い通り、相手の目は俺の剣しか見ていない。
今だ!
俺はフワッとゆっくり剣を右上に放り投げた。
「えっ!?」
ラートは目で必死に剣を追いかける。
命綱である剣を投げるという行為が理解できずにいるようだ。
宙に浮かぶ剣をただ茫然として見つめている。
ここで決める。
身体強化スキルで縮地のような瞬間移動をして、間合いを一気に詰め、そのまま拳をラートのみぞおちに叩き込む。
「ぐっほぉう、がほっ!」
決まった。
「おぉっ!!」
周囲から声が漏れる。
「そ、そこまで。勝負ありじゃ!!」
オオババ様の声が模擬戦の終わりを告げた。
こうして体力面ではハンディキャップがあった俺だが、受け身とフェイントを使って逆転できた。
最後の一撃は『ミスディレクション』。
マジシャンなどがよく使う手法で、相手の視線や意識を意図的に誘導するものだ。
簡単なフェイントにさえ騙されるのだから決まったのは当然と言えばそうだが、一発で無事にハマってくれて助かった。
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