第37話 祝賀会はこうでなくちゃ!


 ギルドを後にして、周辺をしばし散策。

 楽しい時はあっという間にすぎ去り、そうこうしている内に日が暮れた。


 次に我々が向かったのはギルド会館からほど近いあるレストラン、というより酒場だ。


 もちろん、昨晩やる予定だった『シルバーメタル・アリゲーター』討伐&生還記念の祝賀会を3人でやるためである。


 実は、かなり前から俺が目星を付けていた店があった。

 せっかくの機会なので迷わずそこへと向かう。


 この世界では飲食店を予約するという概念がないので、席が空いていれば問題ないはずだ。逆に言えば、席の奪い合いがあるから、早い者勝ちになってしまうのは言うまでもない。


 さてと、これから行くのはどちらかと言えば高級の部類に入る店。

 立派な店構えからして、さすがに一人きりで入るのは気が引ける雰囲気の場所だと思う。


 しかし今はまったく気にしていない。

 なぜなら、ここにはノエルとユエがいる。


 そして、なにしろお金はたんまりあるし、ここはケチらず豪勢にいきたい。


 チリンチリン。


 ドアを開けると、括りつけられたベルが景気のいい音を鳴らす。


 店内を見渡すとさすがに人気店だけあって既にかなり混雑している。が、運よく一つだけ空きテーブルがあるので、そこに迷わず腰かける。


「ちょっと注文いいすか?」

 近くに来たウエイトレスに話かける。


「はい、どうぞ!」


「ここの店のオススメは何かあったりします?」


「それでしたら、やはりこちらの『スベスベドリの丸焼きペラスト草添え』ですね。ウチの看板メニューとなっております。あと、ここの『クロチーナヤモリのスープ』と『ハイロカット実の炒め物』がよく出てますね。女性冒険者の間では、『ラインマメの盛り合わせ』や『パンラゾッタウオのソテー』なんかも人気がある感じでしょうか」


 そう言いながら差し出されたメニューには簡単な絵が付けられている。デフォルトされた大雑把なイラストだが、見ればどんな料理か分かるようになっている。


「それじゃ、ください」


 大げさに全部を指さしながら、そう注文する。


 いわゆる大人買いという奴である。

 さすがにメニューの端から端まですべてとまでは言わないが、一度はこういう注文をしてみたかったのだ。


 しかし、ノエルもユエも呆れ気味だ。


「ちょっと、サイ。すごい注文の仕方をするわね。でも、まぁ、オススメの定番みたいだし、別にいいけれど」


「珍しい料理がいっぱいで楽しみかも~~」


 雑談に花を咲かせていると、料理が次々と運ばれてきた。

 この世界には出される料理の順番などない。


 いきなりメインディッシュの『スベスベドリの丸焼きペラスト草添え』がやってきた。丸焼きと名が付いている通り、本当に鳥の丸焼きだ。なんと贅沢な料理なんだろう。


 さっそく肉を切り分け、口にほおばる。

 

「うまいっ!!」


 小学生並の感想になってしまうが、本当に美味しい料理だ。

 素材が良いのはもちろんのこと、その下準備と調理を丁寧に時間をかけてゆっくりと行ったのはよくわかる。


 それだけではない。

 このソースも普通の調味料ではなさそうだ。

 塩や香辛料を振りかけただけの肉が重宝されるこの世界では異彩を放つ。


 う~む。

 思わず唸ってしまうほどだ。


 さて、ノエルとユエは美味しいと思っているのだろうか?


「プッ!!」


 つい思わず、吹き出してしまった。


 そこには肉を口いっぱいに頬張り、まるで木の実を食べ過ぎたリスのように頬が膨れたユエの姿があった。


 良かった。

 どうやらこの店の料理に満足しているみたいだ。


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