第22話 キノコ狩りでグッドラック!


 それにしても薬草採取は散々だった。

 嫌な思いもしたし、いいことは何も無かった。


 ギルドの受付嬢に思わず愚痴をもらすと、「では、キノコ採取はいかがでしょう?」と弾むような声で新しい依頼を勧めてくれた。


 キノコ採取の依頼内容は薬草採取とほぼ同じだ。

 異なるのは対象が草であるかキノコであるかの違いだけ。


 だが、両者には決定的な差がある。中でも一番大きいのは買取り対象となるキノコの種類が膨大にあり、しかも買取り単価の平均が高いことだ。それに加えて、キノコが辺り一面大量に生えていることなどまずない。となると、その分だけ俺の鑑定スキルを活かしやすくなる。何しろ『鑑定』は単品モノに有効なスキルだからだ。


 しかし、この依頼は薬草採取に比べて人気が極端に低い。

 それはなぜか。


 ごく一部の薬用毒キノコを除き、その辺りにごく普通に生えている毒キノコは買取り対象外だからだ。


 しかもギルドの買取り窓口での査定の際、これらの毒キノコが全体の本数の3割以上を占めるとペナルティが発生してしまう。査定とは言わば鑑定のことでもあり、人件費の高い鑑定師を無意味に長時間拘束してしまうことに対する事実上の罰則だ。そのため、薬草採取とはけた違いにハードルが高い。


 ただし、その分割がいい。


 この世界では、そもそも鑑定のスキルを持っている人間が皆無に等しい。つまり、一般の冒険者がペナルティ対象のキノコを選り分けながら採取するのは極めて困難なのだ。実際のところ、毒キノコの種数はかなり多い。


 しかも同じ種類の毒キノコが頻繁に取れることは少ないから情報の共有すらままならない。それも相まって、簡単にペナルティを受けやすい要素が揃っていると言えるだろう。


 今度こそは!

 そう思い、数日後、このキノコ採取の依頼を受けてみた。この微妙な間には訳がある。さすがにキノコが翌日に生えているのは異世界といえども無いかな、と思っての判断だ。


 思い当たる節があった。実は薬草採取をしている最中に一か所、キノコが生えている倒木を見つけていたのだ。その時は糞カップルの一件もあり、「ふ~ん、キノコか」くらいで流してしまい、鑑定すらしていなかった。しかし場所は覚えている。


 さっそく心当たりの場所に向かうとキノコはまだそこにあった。しかも増えている……。


「鑑定」


 わざわざ声に出す必要も無いのだが、こうした方がそれっぽくて気分が上がる。



 --

 品目・種別:スクナミタケ

 総合等級:A(上級)

 総合価値:A(上級)

 特記事項:サンローゼ周辺特産の珍種薬用キノコ。超回復ポーションに欠かせない原材料の一つ

 --


 おおっ!


 どうやらいきなりビンゴだ。


 倒木の周囲に生えていたのは12本だが、その内1本は溶けてドロドロになりかけている。


 キノコは鮮度が大事なこともあるそうなので、すぐにギルドに向かう。


 山のように積まれたスクナミタケを見て、鑑定師が素っとん狂な声を上げた。

「これは、スクナミタケじゃないか。こんなにたくさん、えぇっ! 全部ホンモノかい!? いやまさか、こんなことがあるのか~!!」


「そんなに珍しいキノコなんですか?」

 と思わず尋ねる。


「珍しいってもんじゃないよ。この辺りでしか取れない希少種で、しかも超回復ポーションに必須の原料だから、買い手はいくらでもいるんだが……。最近はなぜかめっきり少なくて相場が急上昇している最中なんだ。一度に11本なんて、最近は聞いたことがないな。ここ1年で最高なんじゃないか!?」


 ほうほう。薬草採取で嫌な思いをした甲斐があったというものだ。


「そうそう、この腐りかけのスクナミタケも喜んで買い取らせてもらうよ。溶けていない奴の1/3の金額になるけど、いいね?」


 自分が持っていても宝の持ち腐れだから即座に了承する。まさに文字通りの意味で。


「これら全部、基準価格で大丈夫そうかな。そうすると、1本2万の11本で22万。それに等級Cが1本の7千で、合計22万7千クラン。これで問題ないかな?」


 えっ、何だって!?

 今、22万って言った?

 220万円?


 マジか。

 ちょっと凄すぎるだろ。


 あの割の良すぎる遺跡発掘で1万クラン。それをはるかに凌駕りょうがしてしまった。


 これで薬草採取のリベンジは完全に果たせた。

 満足感に浸りながら、俺はギルドを後にした。


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