限界中年の超級チート成り上がり転生記 ~願望にとりつかれた無能な独身男が ≪無自覚無双≫ で異世界最強まで上り詰める!!~

銀河風月(ギンガ フウゲツ)

第1話 派遣切れの限界中年、異世界へ


『一位が欲しい』

『いや、圧倒的な力ですべてをねじ伏せた伝説的な勝利をしたい』


 斉藤一切(さいとう いっさい)、37歳独身。彼女なし。いつも死んだ魚のような目をしている。


 IT企業に出向中の派遣社員で、いわゆるプログラマーだ。

 そして特筆すべき能力や成果は無い。


一切いっさい】という奇妙な名前は、一断ちで何でも両断することを願って付けられたとのこと。親の気まぐれだ。しかしそんな名に反して現実は厳しい。無残である。


 昔から一位を夢見てきた。

 学校でもスポーツでも仕事でもなんでもいい。


 周りに俺を認めさせるんだ、と息巻いてきたが、とにかく上手くいかない。学校でも仕事でも成績や業績はせいぜいよくて中の中、基本的には下の中といったところ。


 誰も俺を認めてくれなかった。

 みじめだ。


 でもとにかく頂点を、それも圧倒的な一位、完全無欠な勝利が欲しくて欲しくてたまらない。病的なまでに。


 それはなぜか。

 実は凡人の俺でも一瞬だけ輝いていた時期があった。


 小学校高学年の頃の短距離走。

 よーいドンで勢いよくスタートを切ると、真ん中を走っている自分が風を切って先頭に立っているのが分かる。そのまま駆け抜けながら続けざまに両側を少し振り向く。すると、離れたところに他の走者がいるのが目に入る。そのまま余裕でゴールして勝利を確定させる。


 爽快そうかいだ。圧倒的な快感。

 正直、コンマ0.1秒レベルの勝利にはさして興味がない。次元が違うレベルの圧勝。この勝利の味がいつまで経っても忘れられないでいる。テレビなんかに出てチヤホヤされるのとは違う、このさりげない優越感がたまらないのだ。


 しかしそれは決して才能などではなかった。


 実際のところ小学生にしては体格がよく、たまたま少し早く走れただけだ。もちろん選手として大会に出られるようなレベルではなかった。気が付くと身長でも周囲に追い越され、肥大化したプライドを残したまま、その数少ない取柄は無残に消え去った。


 しかし成功体験だけは脳裏にこびりついたままだ。


 誰しも自分には特別な才能があるに違いないと信じていた時期があるだろう。だが、普通は中学が終わる頃までには無残な現実に突き詰められ、徐々にそのような妄想をしなくなる。


 あまり意識しないようにしていたが、俺は元から基礎能力が低く、成長が見込めず、まともな成果すら上げられない全くの凡人。


 にもかかわらず、未だに隠れた自分の特殊能力があるものと夢見ていた。もはやそんな隠し玉など無いのが分かり切っているにもかかわらず、そんな幻想、もとい願望に疑いの目を向けるのを恐れていた。自我が保てなくなるからだ。馬鹿げている。自分でも全くもってそう思う。しかし現実からは意識的に目を背けるほかない。


 まさしく永遠の中二病ともいえるほどのこじらせ方だ。未だに『俺は誰からも認められる圧倒的1位を獲る、いうなれば伝説になってやる』と自分にうそぶく。無残なリアルを考えたくはない。ただの現実逃避だ。分かっている。しかし、こうでもしないと頭がおかしくなりそうだ。


 嫉妬深い性格だから人も寄り付かない。




 さて、そんな俺だが派遣が一時的に切れたのを見計らって、【自分に隠された異能】を探すことにした。目的地は中米にある某国の辺境。あえて日本人の旅行者が行かないような地域を選んでの放浪だ。


 まぁ、なんだ。


 よくちまたで言われる、いわゆる『インド旅行は人生を変える』的なやつである。あわよくば、俺の中に秘めている特殊能力を見出したい、なんて期待を胸に抱きながら。


 しかし旅ごときで人生など変わる訳がなく、終盤になっても何かが変わる気配はなかった。


 もう金が底をつく。


 終わりが近づくといっても、元々、具体的な滞在期間は考えていなかった。そうは言っても資金が無くなればどうしようもない。ゲームや夢の中じゃあるまいし、ない袖は振れないのだ。


 まるで日本社会に追放されたようなものだな、俺。


 とくに行く当てもない。

 が、とりあえず素泊まり宿の店主に教えられた遺跡の跡地に行ってみるか。


 有名な観光スポットではないだろうが、やることもないし……。


 遺跡は粗末な木製の立て看板が1つあるだけだった。

 過度な観光地化はされていない。


 というか、むしろ放置されてそのままになっているようだ。

 まともな発掘調査がされているかどうかさえ怪しい。


 石造りの遺跡群は朽ち果て、ほぼ土台しか残っていない。そして大木の根や巨大なツル植物に飲み込まれつつあり、もはや自然に還る間際といっていい。しかしその大きさから元は立派な建物群だったことが伺える。


 ガイドもいないので少し歩いただけだが一通り見学を終え、ふと先を見ると小川が目に入った。小川は遺跡の建物の土台をえぐるように横断して流れており趣深い。せっかくだから、記念写真を撮ろうと寄ってみるとキラッと何かが光ったような気がした。


 いや、気のせいではない。

 川底の砂から何やら球体が頭を覗かせている。


 思わず水中から拾い上げてみる。

 こっ、これは!!


 川の水で洗い流すと見事な透明のドクロだ。


 拳よりも小さいが作りはしっかりしている。

 もしかして水晶のドクロか! 

 現代の技術でも再現が出来ないとか出来るとか言われている、あの伝説のオーパーツの? 


 本物!?


 よく見たい。そう思って太陽にかざしてみる。すると、いきなり赤い光がドクロから放たれ始める。何が起こっているのか。


 これはヤバいものを拾ってしまった!

 おそらく未発掘の遺物だろうが、これはどうみても普通ではない。


 もう意識は完全にこのドクロ1個に囚われてしまっていた。着ている服でドクロをゴシゴシとこすって水を落とし、改めてマジマジと見つめる。これは良い物を拾った! 


 日本社会で溜まりにたまった鬱憤うっぷんがみるみるうちに抜けていくのがわかる。


 このドクロ、どうやら太陽に当てると不気味な光を放つようだ。この予期せぬ発見で俺はすっかり有頂天になった。そこまではよかった。そう、そこまでは。


 しかし、ドクロを手で掲げながら周囲を練り歩いている時に不幸が訪れた。ついうっかりして、俺はこの未開とも言える遺跡で『周囲の注意』をすっかり怠ってしまっていたのだ。


 ガクッ!!

 突如として膝が砕ける。


「あっ!」


 思わず声が漏れる。


 しまった!

 しかし、そう思った時には既に巨大な井戸の中に吸い込まれる最中。

 どうしようもない。


 まるでスローモーションの動画のようにゆっくりと自分の体が穴の中に落ちていく。

 あ、これはダメなやつだ。


 時を巻き戻すこと約20分。俺は散策中にこの井戸の底を眺めていた。この無造作に放置された遺跡の井戸の跡だが、ご丁寧にわざわざ何メートルも掘り返されている。


 驚くべきことに井戸の周囲には柵はおろか段差すらない。この危険な『落とし穴』に気づきつつ、あろうことか俺は太陽光の下で光り輝くドクロしか見ていなかったのだ……。




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