婚約者への手紙
親愛なる婚約者 サムエル・バードン様
貴方がこの手紙を読む頃には、きっと私がいなくなったことで小さくない騒ぎが起こっていることでしょう。
覚えていますか?
幼い私に「自分は味方だから」と言ってくれたことを。
覚えていますか?
婚約者になったあの日、「私だけを愛する」と抱きしめてくれたことを。
覚えていますか?
母を失って泣いている私に「何があっても守るから」と誓ってくれたことを。
それなのに……貴方はどうして、私よりもミーナを選んだのでしょうか。
サムエル様は気付かれていないと思っているかもしれませんが、私は知っているのです。
貴方が休日にミーナと会っていたことを。私に贈るからと御父上からお金をもらって、それでミーナにプレゼントを買っていたことを。私のデビュタントのために作らせたドレスを仕立て直して、ミーナに送っていたことを。
全部全部、知っていたのですよ。
それでも……私は貴方を責めるつもりはありません。
貴方が婚約者のある身でありながら不貞を働いてしまったのは、全て私に魅力がなかったから。貴方を繋ぎとめることができなかったからです。
どうせ私は半年もしないうちに死ぬ人間です。
ミーナを愛している貴方は、私が命を落としたとしても心を痛めることはないでしょう。それだけが唯一の救いです。
どうぞミーナとお幸せに。
ああ、それと一つ謝らなければいけないのですが、この手紙と同じ内容のものを住所を誤って貴方が所属している騎士団の団長様のところに送ってしまいました。
どうか貴方のほうから謝罪していただけると助かります。
愛する人の幸福を祈って。
元・婚約者 アイリーン・アドラー
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