甘い攻防

ニャン太郎

日常

1.相風呂①




そろそろお風呂に入ろうかな。


着替えのパジャマと下着、バスタオルを準備し、風呂場に向かおうとした時だった。

いきなり男性の引き締まった腕に抱き込まれ、硬い胸板に収まる。


「ねえねえ、みっちゃん、一緒お風呂入ろうよ!

今から、入るんでしょ?」


いつもの可愛いワンコスマイルだ。って、何でいっつも私が入ろうとするタイミングで寝室に来るのよ!今日はいつも以上に物音立てないように頑張ったのに……

そして、いつものように文句を言って抵抗する。


「昨日も一緒に入ったでしょ?!それに、冬馬と入ると…いつも始まっちゃう…じゃない?!今日は特に、腰がめちゃくちゃ痛くて、仕事に集中出来なかったんだから」


「え~みっちゃんが可愛すぎるのがいけないんだよ~!一日中、仕事よりも僕のこと考えててくれたんだね!僕、嬉しい!」


冬馬の解釈、斜め上すぎる……

冬馬っていつも思うけど、なんでそんなに私のこと好きなんだろ…不思議だ…無愛想なだけが私の取り柄みたいなもんなのに…

あと、冬馬には私のこと、どう見えてんのよ…

可愛いなんて、親にも友達にも言われたことない…

それはそうと、


「んも~そういうことじゃないの!」


「ね~え~入りたい!!みっちゃんと入りたい!毎日一緒に入ってるじゃん!」


…なんだかんだで毎日、相風呂あいぶろしてる…

それは主に冬馬のせいなんだけど…

けど、明日は休み!休日の冬馬を私は知っている。だからこそ、今日くらい寝かせてほしい。


「今日はゆっくり入りたいのよ、冬馬、お願い」


顔の前に手を合わせ、懇願するが…

冬馬のことだ。

どうせまた、駄々をこねるのだろう。

半ば諦めていると、


「ん…じゃあ、分かった」


「……えっ?ほんと??冬馬、ほんとに分かってくれたの?」


今日の冬馬、随分と聞き分けが良い!

と思ったのもつかの間…


「うん!今日だけは別々で我慢する。けど、明日から1ヶ月はずっと僕と一緒だよ?仕事はもちろんお休みね!僕とみっちゃんのくっつく時間がなくなっちゃう。それならいいよ?」


…!!!

一人でお風呂に入ることに必死で一番肝心なことを忘れてた…

冬馬は見た目、可愛いワンコなのに、中身は獰猛どうもうな狼であることを…

冬馬なら本当にやりかねない、いや、やる!

1ヶ月も仕事休んだら、流石さすがに良心がとがめる…!

しかも理由が、彼氏に閉じ込められてたから、なんて職場に言えるわけがない!

絶対、私が出来ないって分かってて、言ってるよね?!


……はぁ…仕方ない……


「んもう、分かったわよ!」


「やったー!みっちゃんとお風呂~~!」


私を抱きかかえて、嬉しそうに身体を揺さぶる。


はぁ…今日も、まんまと言いくるめられてしまった…なんで毎回こうなるのよ……

…とにかく毎日、腰が痛い、痛すぎて仕事にならない…全く誰のせいよ!その張本人はその辺、分かってらっしゃるのかなぁ。

というか、冬馬はこれでもまだ手加減してるらしい。全くその細身のどこから、あんな体力が湧いてくるのか……私は毎回、ヘトヘトなのに……


揺さぶりが収まると、冬馬の方へ身体をくるっと向けた。言っても無駄だと思いつつ、一応の確認だ。


「今日は何もしないでね?」


私の肩を軽くホールドしながら、ワンコがコテッと傾げる。


「ん~どうしようかな」


絶対、どうしようかな、なんて思ってない!

そんな可愛い顔されても、私にはもう通用しないんだから……

なんて言ってみても、この無邪気な笑顔にはどうしたって勝てない……



こうして今日も私は、冬馬と相風呂することになるのだった。





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