Side覇者 ー 3

【マリア・クイーン】


彼に会うために浮かれていた自分を愚かだと思うしかない。

ここに来るために装備は少なめにしてしまった。


オシャレとは引き算だと思うのよね。


彼に少しでもよく見てもらいたくて、少しでも服を少なくしてしまったのがここに着て仇となったわ。


ただ、これだけの人数をかき集めた手腕はさすがは王女と言わずにはいられない。


「よくもまぁここまで人を集めたものね」

「貴様には警戒してもしたりないだろ?」

「その見解……間違いじゃないわね」


私が指を鳴らすと煙玉と共に大音量の警戒音が激しく鳴り響く。直接的な攻撃手段が少ない時にこの手段は効果的だ。


ただ、この程度は最低限の仕込みでしかない。


相手も甘くはないことは分かっている。

それでも目くらましで数名が釣れてくれれば問題ない。


「ふぅ~やっぱりあなたたちは無理なのね」

「クイーン。あんたは危険だ」

「アフィー・シチアリ。そう、あなたがそちら側についたのね」

「ああ。少しばかり遠回りはしたが【邪神様】の側に仕えることが出来たよ」


ピンクの髪をしたマフィアは、満足そうな顔で私を見る。


「仕えるね……あなたは私と同じで全てを手に入れたがる人間だと思っていたけど」

「間違っちゃいない。間違っちゃいないが、どうしても手に入れたい者が分け与えられない者なら、邪魔者から先に排除していくのがセオリーだろ?」


一番危険な相手と会話をしながら、視線を様々な方へと向ける。


ブリニア王女は未だに煙幕の中、対応したのは煙幕から離れた位置にいたマフィアたちだけ。


「ええ。そうね。私もそう思うわ」


互いに拳銃を抜いて突きつけ合う。


発砲と同じタイミングで互いに横へと飛び退き、私は視界に収めていた路地へと飛び込んだ。


そこから走って逃げるなど芸が無い。


ハンドワームを背中から発射した私はビルの隙間を利用として上へと駆け上がる。


「ちっ!上だ!」


銃声が私を捕らえようとするが、残念ながら銃は上に飛ぶ力には弱い。


私には一発も当たることなく、ビルの屋上へと逃げおおせる。


「お待ちしておりました」


軍人の戦闘ヘリが待ち構える。


「オーマイガ!」


ここまで大掛かりなことを日本でしてくるなんて、ヘリから放たれる銃撃を避けながら隣のビルへと飛び込む。


ビルごと破壊する勢いの攻撃になんとか逃れるために川へと飛び込んだ。


「はは、水は私の領域だ」


現われた海賊が小舟を使って追い詰めてくる。


「舐めるなよ」


水上に逃げたのは、そこでの装備なら用意しているからだ。

川の流れに合わせて酸素ボンベを口に含んで速度を増していく。


「ちっ!上がってこないだと!お前ら飛び込め!」


もう遅い。


すでに下流へと逃れた私は川から身体を上げてひっそりと沈み欠けた夕日に背を向ける。


「どこに行くつもり?」


声をかけられて振り返れば盗賊の姿をした少女がナイフを構えている。


「ふぅ~あなたも来ていたのね。アドラ」

「世界は……【邪神様】を求めてる。神は存在した」

「そう……あなたもなのね」


ターバンで顔を隠した彼女の鋭い瞳が私を捕らえる。


ここまで逃げるために手持ちは全て使い果たした。


「最後の関門ね」


「行かせない。あなたは神を、私たちから奪うから」


最後は己が肉体に頼るのみ。

私はレスリングスタイルの構えを取り、彼女は幽鬼のごとくナイフを後ろ手に構えた。


「GO!」


二人がぶつかり合う。


早さと技術では勝てない。


私が勝つためにはパワーで押し切る。


「ぐっ!強い」


「舐めないでよね。私はこの世界の覇者の一族なのだから」


油断はしない。

盗賊である彼女の手数は私の知らない方法が山ほどある。


「ふん!」


彼女を投げ飛ばして距離を取る。


「厄介」


「黙って」


彼女が立ち上がる前に意識を刈り取る。


「シッ!」


「グッ!」


互いに息を吐いて攻防を終える。


彼女が放った最後の悪あがき。


私の腕を一本差し出すことでなんとか回避出来た。


「やっと追いついたぞクイーン」


最後に待ち構えていたブリニア王女に私は息を吐く。


「しつこいわね」

「お前が諦めれば終わるさ」

「必ず、倍返ししてあげるわ!」


ブリニア王女が手を上げる。


「お前に次はない!」


腕が振り下ろされると全方位から一斉射撃が開始される。


火薬の匂いと黒煙が収まれば無惨に飛び散る衣装だけが残された。


「跡形もなくか……撤退する」


数名がクイーンの消滅した姿を確認して顔をしかめるようにしてその場を離れた。


完全に辺りが静かになる頃、倒れていた盗賊は目を覚ます。


「うん?えっ?」


自分が来ていた服が全てはぎ取られ、ターバンだけで身体が隠されていた。


「なぜ?」


盗賊アドラは理由がわからないまま、ターバンで自らの身体を隠してホテルへと戻っていった。



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