Side覇者 ー 2

【マリア・クイーン】


 日本に降り立った私は12月だと言うのに随分と暖かいことに驚いてしまった。


 あまり国から出たことがなかったこともあるが、余所の国に来るのは刺激になって面白い。


 日本は男性の減少が他の国に比べれば少ないと報告を受けている。


 それでも近年は、女性30人に対して1人の男性という割合なので、かなり減少してきているだろう。


 まぁ自国の男性は1000人に1人なので、日本がいかに奇跡の国なのかがわかるというものだ。


 一時は高齢化が進み他国よりも劣ってしまい、後進国として呼ばれるようになっていたけど。


 それが幸いして男性減少に歯止めをかけるとは皮肉なことだ。


 古い建物は私の脳を刺激して、新たなアイディアをたくさん溢れさせる。


 何か面白い者を見つけるたびにタブレットにメモを取り、ウオッチに音声を録音していく。


「ふふ【邪神様】が生まれた国がどんなところなのか興味はあったけど。案外見る物全てが楽しいわね」


 街をあるけば、たまに男性が歩いている姿を見かける。


 私が生まれた国で男性が歩いていたら、すぐに誘拐されてしまうことだろう。


「安全ってことかしらね?」


 小さな島国であることはわかってるけど。

 それでも【邪神様】一人を見つけるのは容易なことではない。


 だから、知っているであろう人物に接触すればいい。


 この国に先に来日していて目立つ王女様がいる。


 彼女が泊まるホテルに同じように泊まって機会を待った。


 そして……彼女が気合いを入れて出かける日を特定して私は狙い澄ました。


「ふふ、やっとみつけた」


 黒髪黒目、高身長で鍛え抜かれた身体。

 何よりも【邪神様】の姿をした彼がそこにいた。


「私のチャンスを邪魔するとはどういう了見だ!!!」

「あら、あなた……確か、ブリニアの王女様だったかしら?」


 バカな女のことなどどうでもいい。

 私は目的の人物を見つけたんだ。


「ハロー【邪神様】。私はマリア・クイーン。あなたのワイフになる者よ」


 やっと会えた運命の人。

 私と対を成せる男性。

 全ての物を手に入れることが出来る私が何よりも求めた人。


「私を無視するな!」


 あ~うるさい。この喜ばしい瞬間をどうして邪魔するのかしら?


「ブリニア王女。いくらあなたが王族でも私の方が世界では上よ。わかっているでしょ?」

「たとえ貴様の国と戦争になろうと引けぬぞ」


 何っ?本当にバカなの?あなたなんて一撃で葬れるんだけど。

 戦争?あなたと私じゃ戦争にもならないわよ。


「二人とも落ち着いてくれ!君は?誰なんだ?」


【邪神様】が私に興味を持ってくれた。

 王女、あなたやるじゃない。あなたの屍はしっかりと踏ませてもらうわ。


「私?私はマリアよ」


 彼にはそれ以外の名で呼んでほしくない。


「マリア。君は何者だ?スピカと喧嘩するのをやめてくれ。スピカもケンカはダメだ」


 ふん。

 あなたは怒られればいいわ。


「ふ~ん。【邪神様】は優しいのね。いいわ今日は引いたあげる。あなたを見つけることができたのだから私は嬉しいわ。あっこれ、私のIDよ。ねぇ【邪神様】。今度会うときは本当の名前を教えてね」


 首に抱き着いたマリアはふっくらとした唇を押し当てる。

 私のファーストキスを【邪神様】に捧げることが出来た。


「I LOVE YOU」


 それ以上側にしたら、私の方が心臓が張り裂けそうで居られなかった。


 ……どうして?どうしてIDが登録されないの?私の魅力がわからなかったのかしら?ありえないわ。この世界でもっとも美しい顔とボディー。何よりも力を持つのは私。


 世界を敵に回したとしても彼を手に入れてみせる……世界か……きっと私と同じように……あの王女も他の国の子達も彼を手に入れるために日本にやってきたのだろう。


『初めて連絡をさせてもらいます。黒瀬夜です。一度会ってお話がしたいのですが?ご予定はいかがですか?』


 通知音が突然響いて私は飛び起きる。


 少し他人行儀な彼からのメッセージに私はすぐに返事をした。


『OK。明日、表参道のカフェで……時間は13時」


 素っ気ない態度をとってしまったのは素直じゃない私の気持ち。


「待たせた」


 気持ちを落ち着かせるために読んでいた自国の雑誌。

 そんな私に話しかけてきた彼はあまりにも素敵だった。


「ノープロブレム」


 表情がバレないために用意したサングラス越しに彼を見る。

 黒いコートにマフラーをして日本人なのに寒そうにしている。


「ふふ、日本人なのに寒いのかしら?」

「ああ。寒い」


 ホットコーヒーを片手に向かいの席へ座る。

 何から話そうか思案する私に対して彼は笑みを浮かべる。


「何?楽しそうね」

「ああ。彼女たちのことを思い出していてね」

「まぁ、あなたのワイフが居る前で他の女のことを思い出しているなんて、ヒドイ人ね」

「君はまだワイフではないからね」


 どうして彼は私を前にしてここまで余裕なのかしら?

 ふん、ならいきなり私の考えを話してあげようじゃない。


「ねぇ、あなたは世界を手に入れたいと思ったの?」


 私の質問に対して彼は少し考える素振りをして、ゆっくりと私と視線を合わせる。


「どうしてそう思ったんだ?」

「だって、あなたは世界を動かしたじゃない」

「俺が世界を動かした?」

「ええ。あなたがライブ中継をした日。私の心は震えたわ。

 きっと私だけじゃない。世界中の女性があなたを求めて心を振るわせたんじゃないかしら?」


 あの日……世界が震えた。


 それは私だけじゃない。


 世界中の女性が彼の声を聞いて心を振るわせたはずだ。


「君は俺を求めているのか?」


 彼は私の質問に答えないで、逆に質問してきた。


「……ふふ、あなたは直接的に聞くのね」


 だけど……愛しているかと聞かれて、愛していると言うには私はまだ未熟。


「わっ私は今まで手に入れたいと思ったモノは全て手に入れてきたわ」

「……そう」

「だけど……あなたは手に入れたいんじゃない。隣に……側にいてほしいの」


 私だって……一人の女でしかない。


「俺には彼女が他にもいるが、それでもいいのか?」


 辛い……私以外の女性がいることが……


「……本当は私だけのワイフでいてほしいわ」


 だからこそ聞かなければならない。

 私は意を決して彼へ近づいた。


「だけど、さっきも言ったでしょ。あなたは世界を手に入れたいのかしら?」

「そうか……君が聞いた質問の意味がやっとわかったよ」


 彼もテーブルに肘をついて私との距離を縮めて額を当てる。


「俺は……」


 私だけに聞こえる声で彼は応える。


 私は目を閉じることにした。


 そして、彼の意志を尊重するため立ち上がる。


「オールオッケー」


「いいのか?」


「ええ。それがあなたのソウルだと言うなら私は従うわ」


 彼との会合を終えた私は表参道を後にする。

 その先で彼女たちが待ち受けることも承知で……


「話してもらおう」


 どこまでもうっとおしい王女様ね。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも後書きを書くのは久しぶりです(^^)/

 作者のイコです。


 はい、宣伝です。


 この度、新作を投稿することにしました。


【あくまで怠惰な悪役貴族】


 まだ十話ぐらいしかストックがないので、一話ずつゆっくり投稿していきます。

 読んでくだされば嬉しく思いますので、どうぞ一度アクセスしてみてください。


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